上 下
130 / 240
第十二章 波乱の鷹狩り

しおりを挟む
 拒絶しようとした、まさにその時だった。バタバタという足音が、こちらへ近付いて来た。殿下が、さっと私の体を放す。

「ドニ殿下! こちらにいらっしゃったのですか。マルク殿下が、お呼びですよ」

 小走りでやって来たのは、鷹狩りに参加していた男性貴族の一人だった。彼は、私を見て一礼した。

「ああ、お話中失礼しました。ですが、マルク殿下は急いでいらして。早く戻るように、とのことでした」
「わかりました、すぐ参ります」

 言いながらドニ殿下は、チラと私をご覧になった。

「先に行ってくださいませ。私は、後からゆっくり参りますわ」
「すみません……。では、また後ほど」

 ドニ殿下は、呼びに来た男性に連れられて、急ぎ足で来た道を戻って行かれた。彼らの姿は、あっという間に見えなくなった。

(さて、私も戻るとしましょうか)

 だが次の瞬間、私は背後から、何者かにぐいと腕をつかまれた。振り返って、私は目を見張った。

「――アルベール様!? いつの間に……」
けて来たに決まっているでしょう。心配で、二人きりになんかさせられますか。そこに潜んで、見守っていたんですよ」

 アルベール様が、付近の草むらを指さす。何だか、妙に不機嫌だった。

「ありがとうございます……。でも、こんな風に会話を交わすのは、まずいですわ。私たち、別れたことになっていますもの……。もう失礼しますわね。私も、戻らなければ」

 踵を返そうとした私だったが、アルベール様は腕をつかんだまま、放してくださらない。それどころか、ぐいぐいと引っ張り、大木の陰へと連れて行くではないか。

「ちょっ……、アルベール様!?」
「俺がニコル嬢の屋敷へ行った時、見に来られたあなたの気持ちが、ようやくわかりましたよ」

 アルベール様は、ため息をつかれた。

「予想以上にきついですね、これは。まるであなたと殿下は、本当に愛し合っているようだ」
「ちょっと、何を仰っているんですの!?」
 
 私は、目を剥いた。

「ドニ殿下は、私をアンバーのように利用しようとしているだけですわよ。それに応えているのは、演技に決まっているじゃありませんの!」
「だからって、キスまでさせることは無いでしょう!」

 アルベール様が、目をつり上げる。

「許してはおりませんわよ! 拒むつもりでした!」
「迷われていたようですが」

 うっと、私はつまった。

(そこ、見てらっしゃったのね……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。 長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。 心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。 そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。 そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。 レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。 毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。 レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく―― これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。 ※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

50代後半で北海道に移住したぜ日記

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
まあ結局移住したので、その「生活」の日記です。

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

日本

桜小径
エッセイ・ノンフィクション
我々が住む日本国、どんな国なのか?

我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!

真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。 そこで目撃してしまったのだ。 婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。 よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!  長くなって来たので長編に変更しました。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

処理中です...