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第十章 蘇った記憶

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「アルベール様も、黒髪ですわよね。しかも、その夜のアリバイが曖昧だとか」

 恥をかかされた仕返しか、ローズがチクリと言う。私は、カッとなった。

「だからガストンは、嘘をついているのよ。確かにあの夜、彼は私の部屋にいらしたわ」
「しかし、モニク嬢」

 ドニ殿下が、口を挟まれる。

「アルベール殿がパーティーの夜、会場を抜けておられた件は、まだ謎のままですよ」
「ほう、それは本当か?」

 マルク殿下が、険しい眼差しになる。ドニ殿下は、言いづらそうに続けられた。

「ええ。モニク嬢が、愛する人を疑いたくないというお気持ちは、わかります。でも、私も事実は曲げられませんので。どうですか、モニク嬢。アルベール殿に、そのことはお聞きになりましたか?」
「――いいえ」

 仕方なく、私はかぶりを振った。正直に話せば、アルベール様は何の目的でバール男爵をつけ回していたのかまで、話さざるを得なくなってしまう。否定するしかなかった。

「私が言うと、恋敵を陥れようとしていると思われそうで、言うべきか迷っていたのですが……。でも、その辺りを正確に語っていただかないことには、潔白とは言い切れないでしょう」

 全員が、沈黙する。それを破ったのは、マルク殿下だった。

「まあ、黒髪の男なんぞ、ごまんといますからね。それに、門番の証言もあやふやだ。彼、親の治療費が必要なのだとか? 金をもらって、嘘の証言をしている可能性もありますね。私は、彼の郷里に遣いをやろうと思います。そこで、詳しく話を聞き出しますよ」
「まあ、ありがとうございます」

 私は、ほっとしてお礼を述べた。ガストンが真実を打ち明けてくれれば、少なくともアンバー殺しの夜のアリバイは成立する……。

「さすが、兄上です。私には、思いつきもしませんでした」

 ドニ殿下が、感心したように頷かれる。

「モニク嬢を犯人と決めつけたような、同じ過ちを繰り返さないよう、慎重になっているだけだ……。それでは、そろそろおいとまするとしよう」

 マルク殿下は、立ち上がられた。すかさず、ローズも続く。

「お見送りいたしますわ」
「では、私はドニ殿下をお送りします」

 私も、席を立つ。だが、当然マルク殿下とご一緒に帰られるかと思いきや、ドニ殿下は意外なことを言い出された。

「その前に、また中庭を見せていただけませんか。あのトピアリーを、愛でたくてね」
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