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第八章 確かめ合えた愛は束の間で

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(本当に、ニコル嬢と会ってらした……)

 私は、にじみそうになる涙をぐっと堪えて、連絡窓から御者に声をかけた。

「ありがとう。来た道を、戻ってもらえるかしら?」
「とっちめなくていいので?」
「いいから!」

 御者を急かして、馬車を出発させる。一人揺られながら、私は何度も自分に言い聞かせた。

(コレットはああ言ってくれたけど、やっぱりアルベール様は、私のことなど想ってらっしゃらないわ。やっぱり、この恋愛は作り物なのよ……)

 少しでも期待した自分が、馬鹿みたいだった。こうなったら早く戻って、ガストンの話を聞かねば。だが、そう決意したその時だった。どこからか、私の名を呼ぶ声が聞こえた。

「モニク!」

 私は、耳を疑った。微かな声だったが、聞き違えるはずは無い。それは確かに、アルベール様のものだった。

(――嘘でしょ。私だと、お気づきになったの……!?)

 すると御者が、連絡窓から呼びかけてきた。

「さっきの男性、追って来ますよ。止まりましょうか?」
「追って……?」

 アルベール様が乗って来られた辻馬車は、もう帰されたはずだ。まさかとは思うが……。

 おそるおそる窓を開けて外をのぞいて、私は息を呑んだ。馬車の後方には、必死で走って来られるアルベール様のお姿が見えたのだ。とはいえ、当然ながら馬車のスピードに敵うはずも無く、距離はどんどん開いていく。それでもアルベール様に、諦める気配は無かった。

「止めてちょうだい」

 私は、思わず御者に命じていた。御者は、道の脇に馬車を停めた。ややあって、追い付いて来られたアルベール様が、窓の下に立たれる。彼の息は乱れ、血相は変わっていた。

「……どうして、私が乗っていると? それに、なぜ追いかけて……」
「さっき、ちょっと窓を開けられたでしょう。一瞬でしたが、あなたではないかと思いました。気になって、居ても立ってもいられなかったんです」

 やはりあの時見られていたのか、と私はドキリとした。

「何でもありませんわ。気になさらないで。それよりも、こちらのお屋敷にご用があるのでしょう? でしたら……」
「そんなことはどうでもいい!」

 アルベール様は、激しい口調で私をさえぎった。

「俺は、あなたに誤解されたくない! だから、中へ入れてもらえませんか?」
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