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第六章 偽装恋人宅の訪問

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 だが、私の関心は次第に、演奏よりもアルベール様に移っていった。弦をつまびく男らしい骨張った指や、伏せられた意外に長い睫毛、そして形良い唇……。

(そういえば、あの唇に、口づけられたのだったわ……)

 あの時は、殺人やら記憶喪失やらでパニックになっていたが、今思い出すと急に恥ずかしく感じられる。顔が熱くなるのを、抑えられない。

(ダメダメ。せっかく弾いてくださっているのよ? 演奏に、集中しなくちゃ……)

「モニク嬢?」

 不意に呼びかけられて、私ははっと我に返った。いつの間にか、演奏が終わったのだ。

「……ああ、ごめんなさい。演奏に夢中になっていましたの」
「真剣に聴いてくださっていましたね。弾き手としては、嬉しいですよ」

 微笑みかけられて、私はやや後ろめたく感じた。夢中になっていたのは、演奏に、ではないのだけれど……。

「とても素敵でしたわ。癒やされた気がします」
「ならよかった。この後は、殺伐とした話をしなければいけませんからね」

 アルベール様は、リュートを脇へ寄せると、ソファから立ち上がられた。

「早速ですが、俺には今、追おうと考えている人物がいます。調香師なのですが……」

 アルベール様は、机の所へ向かうと、何やら書類を手に取られた。だが、こちらへ戻って来ようとされた彼の動きは、不意に止まった。彼の目は、私が腰かけているソファに注がれている。私は、きょとんとした。

「アルベール様? 何か……?」
「……お前は!」

 アルベール様は、突如目をつり上げると、私のソファへと近寄って来られた。ソファと壁との間に手を突っ込まれ、何かを引きずり上げる仕草をされる。

 数秒の後、私は目を疑った。アルベール様に首根っこをつかまれて引きずり出されたのは、愛らしい少年だったのだ。

「こんな所に隠れて、何をしているんだ、エミール!」
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