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第六章 偽装恋人宅の訪問
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「俺がみなしごだったという話は、しましたよね? 実は俺の実母は、クイユという伯爵家の長女だったのです」
コレットから聞いたばかりだけに、私は緊張が走るのを感じた。素知らぬふりで、頷く。
「ですが、母は早世……。残された俺を引き取ってくださったのが、ミレー公爵夫妻です。ここだけの話ですが、実はミレー夫人は、子供を産めない性質なのです」
まあ、と私は目を見張った。
「ですが夫人は、ずっと子供を欲しがっており、公爵も愛する妻の願いを叶えてやりたいと思っていました。そこで、孤児の俺を実子として育てる決意をされた。……そして二人目が、エミールなのです」
「エミール様も?」
「はい。彼も俺同様、親を亡くした遠縁の子なのです」
夫妻の慈悲深さに、私は胸を打たれた。
「でも、エミールと俺には、違う点があります。それは、エミールは俺と違って、自分が両親の実の子だと信じている、ということです。俺の時は、妾腹の子だ、などと噂を立てる者がおり、俺自身も両親に似ていないことを気にしていました。悩む俺を見かねて、両親は仕方なく本当のことを打ち明けました。でもエミールは、何も知らされていないままなのです」
だから、とアルベール様は私の目を見つめられた。
「モニク嬢。あなたには、くれぐれもお願いしたい。このことは、決してエミールに悟られないようにしていただきたいのです」
「わかりましたわ」
大きく頷きながら、私はしみじみとアルベール様の優しさを実感していた。ご自身が苦労されただけに、弟君には同じ思いをして欲しくないのだろう……。
「よかった、ありがとう」
アルベール様は、ほっとしたように微笑まれた。
「家族に紹介する前に、この件を伝えておきたかったのですよ。さすがに、コレットに伝言するのもはばかられてね。二人きりになる機会が欲しかったんです」
一瞬にして、気持ちが沈む気がした。
(迎えに来られたのは、そのためだったのね。舞い上がったりして、馬鹿みたい……)
コレットから聞いたばかりだけに、私は緊張が走るのを感じた。素知らぬふりで、頷く。
「ですが、母は早世……。残された俺を引き取ってくださったのが、ミレー公爵夫妻です。ここだけの話ですが、実はミレー夫人は、子供を産めない性質なのです」
まあ、と私は目を見張った。
「ですが夫人は、ずっと子供を欲しがっており、公爵も愛する妻の願いを叶えてやりたいと思っていました。そこで、孤児の俺を実子として育てる決意をされた。……そして二人目が、エミールなのです」
「エミール様も?」
「はい。彼も俺同様、親を亡くした遠縁の子なのです」
夫妻の慈悲深さに、私は胸を打たれた。
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「モニク嬢。あなたには、くれぐれもお願いしたい。このことは、決してエミールに悟られないようにしていただきたいのです」
「わかりましたわ」
大きく頷きながら、私はしみじみとアルベール様の優しさを実感していた。ご自身が苦労されただけに、弟君には同じ思いをして欲しくないのだろう……。
「よかった、ありがとう」
アルベール様は、ほっとしたように微笑まれた。
「家族に紹介する前に、この件を伝えておきたかったのですよ。さすがに、コレットに伝言するのもはばかられてね。二人きりになる機会が欲しかったんです」
一瞬にして、気持ちが沈む気がした。
(迎えに来られたのは、そのためだったのね。舞い上がったりして、馬鹿みたい……)
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