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第十四章 婚約解消

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「ダリオ、どういうこと?」

 ナーディアは、彼の元へ駆け寄った。

「お父様は、ここへ来られたの? どうして言ってくれなかったの?」
「腹を立てていたからな。傷つけられた君を労るどころか、体罰まで与えるなんて、と。君がここへ運び込まれて以来、何度もいらっしゃったが、会わせる気にはならなかった」

 ダリオが、ナーディアの頬を見つめる。もう叩かれた痕跡はないにもかかわらず、彼はいたわしげな眼差しをしていた。

「コルラードには、口止めしていたんだがな。第一、僕が許可するまで、ロベルト様とは接触するなと言っていただろうが」

 ダリオににらみつけられて、コルラードは口を尖らせた。

「お前が、なかなかモンテッラ家へ戻してくれないからじゃないか。大口叩いたくせに!」

「この体たらくで、戻せるわけがないだろうが! ここへ来てから、毎日食っちゃ寝で……」

 ダリオは苛立たしげに、コルラードから焼き菓子をひったくった。ナーディアは、ダリオに詰め寄った。

「ねえ、ロレンツォとフローラ姉様は、どうなったの?」
「婚約解消だ。もう決まった」

 ダリオは、短く答えた。ナーディアは、意外に思った。フェリーニ侯爵は、ロレンツォの計画に加担していたはずなのに、すんなり解消を受け入れたというのか。

「下手に突っぱねて、謀反人の子を家に入れたことがロベルト様の口から漏らされたらまずいと、父も考えたのだろう」

 ナーディアの疑問を見透かしたように、ダリオが補足する。

「わかったわ……。とにかく私は、行かないといけない。お父様を守らないと……」
「ダメだ」

 再び、ダリオが立ち塞がる。

「モンテッラ邸なら、ロベルト様の昔の部下たちが大勢集まっている。彼の身は安全だ」

 ダリオは何か隠している、とナーディアは直感した。

「……もしかして、怪我が治っていないというのは、嘘? 何か私を外へ出したくない理由があるのね?」

 ふう、とダリオがため息をつく。

「君は、何回僕に騙されたら気が済むんだ。あの医者は、フェリーニ家のお抱えだ。本当のことを告げると思ったか?」

「この……!」

 腹立たしいが、今はダリオと喧嘩している場合ではない。強行突破だ、とナーディアは彼を押しのけようとした。だがそこで、ダリオは突如、腰から剣を抜いた。ナーディアに向かって、差し出す。

「どうしてもこの屋敷から出ると言うなら、僕を斬ってから行け!」
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