127 / 213
第十章 辺境訪問
8
しおりを挟む
コドレラへ来て三日目、ナーディアとロレンツォは、オルランドから半日の休みを与えられた。とはいえ、特に何をする予定もない。ナーディアは、宿の自室でぼんやりと過ごしていた。
セルジオらは、ずっとオルランド一行に随行し続けている。過去の事情は承知したものの、やはり彼の言動には不快の念を禁じ得なかった。さらにナーディアを苛つかせたのが、運動不足だった。婚約披露パーティーで足にマメをこしらえて以来、ナーディアは調練を休んでいた。ようやく復帰できると思った矢先に、このコドレラ訪問である。思いきり剣を振り回したくて、ナーディアはウズウズしていた。
(格好の練習相手が、一緒に来てるってのにな……)
どうせロレンツォは、理由を付けて手合わせを断るに違いない。一人で膨れっ面をしていると、ノックの音がした。当のロレンツォだった。
「何だか、ご機嫌斜めだな」
ロレンツォは、ナーディアを見るなり言った。
「体がなまりすぎて、限界だ。手合わせする相手も見つからないからな」
皮肉を込めて、ナーディアは答えた。
「どうせなら、マリーノにも来て欲しかった」
「彼が一緒の方がよかったか?」
ロレンツォが、微かに眉間に皺を寄せる。
「あいつなら、いくらでも手合わせに付き合ってくれるからな」
「まさか、そんな理由で結婚するわけじゃなかろうな」
「あー……。それな……」
先送りにしていた問題を思い出して、ナーディアは頭を垂れた。ロレンツォが、返答を促す。
「王都へ戻ったら、マリーノと結婚するのか? 本当に?」
「したくはないけれどな。いや、あいつが嫌というわけじゃなくて、誰とも結婚はしたくない。でも、父の命令なら従わざるを得ないだろうな」
ナーディアは、うつむいたまま深いため息をついた。
「結婚したら、オルランド殿下の護衛を辞めなければならないから。死に物狂いの努力をして得た、名誉あるポジションなんだ。絶対に失いたくない」
ロレンツォは、黙って話を聞いていたが、不意にナーディアの頭をポンと叩いた。
「その話はさておき……。せっかく頂いた休みだ。気分転換をしないか? 案内したい場所がある」
「ロレンツォが、結婚の話を振ってきたんだろ!」
言い返しながらも、ナーディアはすでに立ち上がっていた。ロレンツォは、どこへ連れて行ってくれるのか。期待で、胸がいっぱいだった。
セルジオらは、ずっとオルランド一行に随行し続けている。過去の事情は承知したものの、やはり彼の言動には不快の念を禁じ得なかった。さらにナーディアを苛つかせたのが、運動不足だった。婚約披露パーティーで足にマメをこしらえて以来、ナーディアは調練を休んでいた。ようやく復帰できると思った矢先に、このコドレラ訪問である。思いきり剣を振り回したくて、ナーディアはウズウズしていた。
(格好の練習相手が、一緒に来てるってのにな……)
どうせロレンツォは、理由を付けて手合わせを断るに違いない。一人で膨れっ面をしていると、ノックの音がした。当のロレンツォだった。
「何だか、ご機嫌斜めだな」
ロレンツォは、ナーディアを見るなり言った。
「体がなまりすぎて、限界だ。手合わせする相手も見つからないからな」
皮肉を込めて、ナーディアは答えた。
「どうせなら、マリーノにも来て欲しかった」
「彼が一緒の方がよかったか?」
ロレンツォが、微かに眉間に皺を寄せる。
「あいつなら、いくらでも手合わせに付き合ってくれるからな」
「まさか、そんな理由で結婚するわけじゃなかろうな」
「あー……。それな……」
先送りにしていた問題を思い出して、ナーディアは頭を垂れた。ロレンツォが、返答を促す。
「王都へ戻ったら、マリーノと結婚するのか? 本当に?」
「したくはないけれどな。いや、あいつが嫌というわけじゃなくて、誰とも結婚はしたくない。でも、父の命令なら従わざるを得ないだろうな」
ナーディアは、うつむいたまま深いため息をついた。
「結婚したら、オルランド殿下の護衛を辞めなければならないから。死に物狂いの努力をして得た、名誉あるポジションなんだ。絶対に失いたくない」
ロレンツォは、黙って話を聞いていたが、不意にナーディアの頭をポンと叩いた。
「その話はさておき……。せっかく頂いた休みだ。気分転換をしないか? 案内したい場所がある」
「ロレンツォが、結婚の話を振ってきたんだろ!」
言い返しながらも、ナーディアはすでに立ち上がっていた。ロレンツォは、どこへ連れて行ってくれるのか。期待で、胸がいっぱいだった。
10
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
【短編集】人間がロボットになるのも悪くないかも?
ジャン・幸田
大衆娯楽
人間を改造すればサイボーグになる作品とは違い、人間が機械服を着たり機械の中に閉じ込められることで、人間扱いされなくなる物語の作品集です。
ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。
苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
救世主が生死の境であがく日記。2023・1・22
ボーダー
エッセイ・ノンフィクション
嫌なことには目標にする価値がある。
1、嫌だってことを目標にする。
2 、「快感」って言い聞かせる。
↓↓生死の境(別世界)をさまようって快感。
断崖絶壁から落下。冬山で遭難。敵陣に潜入して暗殺。綱渡り。トライアスロン。滝行。
臨死のユーフォリア(幸福感)。 あれはドーパミンです。
闘う事もも逃れる事もできない深刻で重大なストレスにさらされると「心の最期の救い」とも呼べる処置を脳がするんです。
極度の緊張状態で脳内麻薬様物質(オピオイド)を多量に放出し、精神の麻痺や感情鈍麻を起こし、夢うつつのまま捕食者の餌食となるのです。
臨死体験などは呼吸停止くらいから意識が無くなる瞬間くらいにユーフォリアがあるみたいです。
感覚が無くなってしまうから、死の直前は苦しい訳ではないみたいです、試しようがないですが。
ガゼルなど大型草食獣が、ライオンやハイエナ等の捕食者に襲撃され、追跡と闘争の結果として捕食されるような場合、実は被捕食者は殆ど痛みを感じていません。
むしろ、擬人化を行うならば「恍惚とした」感覚に近いのではないかと推測されます。
動物は恐怖・驚愕の刺激を受けるとノルアドレナリンという物質を脳内で分泌し、闘争か逃避か、ストレス体験を終息させるための行動を選択します。
このとき、ノルアドレナリンの過剰分泌は強い疲労感を生むため、基本的には抑制ホルモンであるセロトニンも分泌されて沈静化が図られます。
しかし、回避不能のストレスにさらされ続けると、セロトニンの分泌が生成を上回るために枯れ、興奮が続くことで脳内麻薬物質(オピオイド)が分泌されることになります。
このオピオイドが脳内で分泌されることにより、沈痛・無痛・褒賞・傾眠といった感覚がもたらされます。
全てを合わせると何も感じることができず、むしろ心地よく眠りに就く寸前のような感覚と推測されます。
主観が可能な人間でも、オピオイドが大量分泌されることにより、離人症的な症状がもたらされることが確認されています。
症状については、
現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ、
自分のことを遠くで自分が観察している感じ、
自分の手足の消失する感じ、等と述べられています。
追跡時や闘争時に負わされる痛みについては感覚があるとも考えられますが(こちらもアドレナリンやドーパミンの作用で緩和されている可能性もありますが)
最後の瞬間にはもはや何も感じていないのでしょう。
https://ka2.link/situke/urazuke-6/#b
弱っちいほうが 生死の境(別世界) に行くのに手間が少なくてすむ。
【短編集】エア・ポケット・ゾーン!
ジャン・幸田
ホラー
いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。
長編で書きたい構想による備忘録的なものです。
ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。
どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる