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第八章 埋まる外堀
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ダリオはロレンツォを一瞥すると、顔をしかめた。
「何だ、お前は。ダンスの披露はどうした」
「ファーストダンスなら、もう終わりました」
「二曲くらい踊れ。主役二人のダンスは、皆楽しみにしているぞ?」
そう言われてもロレンツォは、立ち去ろうとしなかった。
「俺には、こちらの方が重要です」
ダリオが、微かにこめかみを引き攣らせる。
「婚約披露パーティーの最中に、婚約者を放り出すなど、紳士のすることではないぞ」
「確かに俺は、紳士ではないかもしれませんね。兄上の仰るところの、『野蛮な連中』ですから」
皮肉っぽくそう告げた後、ロレンツォはダリオをにらみつけた。
「ですが、兄上に紳士の心得を語る資格がおありですか」
「何だと!?」
「足にマメができるまで女性を連れ回すなんて、紳士のすることですか!」
ロレンツォが怒鳴る。彼は、つかつかとテラスに入って来ると、ナーディアの前に跪いた。
「フローラ嬢から聞きました。この靴だって、兄上が手配したものでしょう。ナーディアは、ドレス姿に慣れていないんだ。本来なら、歩きやすいよう、ヒールの低い靴を選ぶべきです。その気遣いもしないどころか、こんな支配欲丸出しの品を押し付けるなんて……。そもそも、嫌がる彼女にドレスを無理やり着せること自体、人格も何も無視しているじゃないですか!」
ロレンツォが、ナーディアの裸足の足を手に取る。ナーディアもぎょっとしたが、先に反応したのはダリオだった。
「おい、ナーディアに触れるな! 大体お前は、婚約者がいる身だろう。彼女の手当てなら、僕が……」
「兄上なら、ナーディアに触れる資格があると? あなたは、彼女の何なのです? 先ほどの会話の限りでは、求婚に色よい返事がもらえたようには、聞こえませんでしたが」
ダリオの顔が、さあっと青白くなる。怒りが頂点に達した時、彼は赤くなるのではなく、青くなるのだ。昔からそうだった、とナーディアは思い出した。
「外堀を埋めただけでは、城は落とせるとは限りませんよ……。というわけで、俺が手当てをさせていただきます。ナーディアは俺にとって、大切な婚約者の妹君。兄上よりは、資格がありますよ」
「ロレンツォ……。お前は!」
ついにダリオは席を立った。
「使用人を呼んで、手当てをさせる……。だから、ナーディアから手を離せ! 気安く、女の肌に触れるなど……。やはり血か? 妻子ある男の妾になるような女の、息子だものな!」
「ダリオ! お前、何てことを……」
頭に血が上るのを、ナーディアは感じた。ロレンツォに足を取られていなければ、すぐさま立ち上がってダリオを殴り飛ばしていたことだろう。口では、ロレンツォを憎む気持ちはない、などと言っておきながら。本音は、それか……。
「俺のことは、どう仰っても結構です。事実ですしね」
ややあってロレンツォは、意外にも冷静な声を出した。ナーディアは、思わず彼の顔を見ていた。
「ロレンツォ……」
「ですが」
ロレンツォは、ダリオを見すえて言い放った。その瞳は、怒りに燃えていた。
「騎士としてのナーディアを否定するような、先ほどのご発言は、撤回していただきたい。俺は、ナーディアを騎士として認めています。俺だけじゃありません。ザウリ団長や、マリーノや、他の皆も。何より、護衛対象のオルランド殿下が……。ナーディアの騎士としてのキャリアを否定することは、彼女だけでなく、王太子殿下も侮辱することになりますぞ、兄上!」
「何だ、お前は。ダンスの披露はどうした」
「ファーストダンスなら、もう終わりました」
「二曲くらい踊れ。主役二人のダンスは、皆楽しみにしているぞ?」
そう言われてもロレンツォは、立ち去ろうとしなかった。
「俺には、こちらの方が重要です」
ダリオが、微かにこめかみを引き攣らせる。
「婚約披露パーティーの最中に、婚約者を放り出すなど、紳士のすることではないぞ」
「確かに俺は、紳士ではないかもしれませんね。兄上の仰るところの、『野蛮な連中』ですから」
皮肉っぽくそう告げた後、ロレンツォはダリオをにらみつけた。
「ですが、兄上に紳士の心得を語る資格がおありですか」
「何だと!?」
「足にマメができるまで女性を連れ回すなんて、紳士のすることですか!」
ロレンツォが怒鳴る。彼は、つかつかとテラスに入って来ると、ナーディアの前に跪いた。
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ロレンツォが、ナーディアの裸足の足を手に取る。ナーディアもぎょっとしたが、先に反応したのはダリオだった。
「おい、ナーディアに触れるな! 大体お前は、婚約者がいる身だろう。彼女の手当てなら、僕が……」
「兄上なら、ナーディアに触れる資格があると? あなたは、彼女の何なのです? 先ほどの会話の限りでは、求婚に色よい返事がもらえたようには、聞こえませんでしたが」
ダリオの顔が、さあっと青白くなる。怒りが頂点に達した時、彼は赤くなるのではなく、青くなるのだ。昔からそうだった、とナーディアは思い出した。
「外堀を埋めただけでは、城は落とせるとは限りませんよ……。というわけで、俺が手当てをさせていただきます。ナーディアは俺にとって、大切な婚約者の妹君。兄上よりは、資格がありますよ」
「ロレンツォ……。お前は!」
ついにダリオは席を立った。
「使用人を呼んで、手当てをさせる……。だから、ナーディアから手を離せ! 気安く、女の肌に触れるなど……。やはり血か? 妻子ある男の妾になるような女の、息子だものな!」
「ダリオ! お前、何てことを……」
頭に血が上るのを、ナーディアは感じた。ロレンツォに足を取られていなければ、すぐさま立ち上がってダリオを殴り飛ばしていたことだろう。口では、ロレンツォを憎む気持ちはない、などと言っておきながら。本音は、それか……。
「俺のことは、どう仰っても結構です。事実ですしね」
ややあってロレンツォは、意外にも冷静な声を出した。ナーディアは、思わず彼の顔を見ていた。
「ロレンツォ……」
「ですが」
ロレンツォは、ダリオを見すえて言い放った。その瞳は、怒りに燃えていた。
「騎士としてのナーディアを否定するような、先ほどのご発言は、撤回していただきたい。俺は、ナーディアを騎士として認めています。俺だけじゃありません。ザウリ団長や、マリーノや、他の皆も。何より、護衛対象のオルランド殿下が……。ナーディアの騎士としてのキャリアを否定することは、彼女だけでなく、王太子殿下も侮辱することになりますぞ、兄上!」
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