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第八章 埋まる外堀
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その後は、同じやり取りが繰り返された。ダリオは、ナーディアを様々な人間に紹介したが、『フローラの妹』『幼なじみ』と説明するのみに留めた。騎士団の話題を一切出さないことに、ナーディアは次第に苛つき始めた。
一言文句を言ってやりたいところだが、何せ息をつく暇もないほど、次から次に人が寄って来るのだ。それも、モンテッラ家よりは遙かに高位の家柄の人間ばかりである。中座するどころか、ダリオに耳打ちするタイミングすらつかめず、ナーディアは苦痛の愛想笑いを浮かべ続けた。
苦痛の原因は、他にもあった。高いヒールで立ちっぱなしのせいか、足の痛みが限界に達してきたのだ。今話している人との会話が終わったら逃げ出そう、とナーディアは決心した。
目の前の男性が、ようやく去って行く。するとそこへ、スッと割り込んで来た影があった。フローラだった。
「ダリオ、少しいいかしら? 妹を借りたいの」
「……どうぞ」
今日の主役に言われては、断れなかったのだろう。ダリオは一瞬不満げな顔をしたものの、仕方なさげに頷いた。
人混みから離れたところへナーディアを連れて行くと、フローラは心配そうに尋ねた。
「足が痛いのじゃない? あの靴で長時間はきついかもと、心配していたの。あなた、さっきから顔色も悪かったし……」
「実は、そうなんです。でも、逃げるタイミングがつかめなくて」
「ナーディアは、こういう場に慣れていないものね。ダリオも、気が利かないわ」
フローラは、眉をひそめた。
「少し休んでらっしゃいよ。どこか別室でも用意してもらう?」
「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です」
ナーディアは、慌ててかぶりを振った。というより、会場から別室まで歩ける自信が、もはやなかったのだ。
「テラスに出て来ます。風にも当たりたいですし」
「一人で行けそう? 付き添ってあげたいけど、もうすぐダンスタイムなのよ。ファーストダンスは、私とロレンツォ様が披露しなければいけないから……」
「私なら、平気ですよ。姉様は、ダンスを楽しんできてください」
なおも気遣う様子のフローラを安心させようと、ナーディアは微笑んでみせた。おぼつかない足取りで、どうにかテラスへと向かう。出ると、そこには先客がいた。赤毛が、夜目にもよく目立つ。……マリーノだった。
「マリーノ? ここに、い……」
ナーディアは、途中で言葉を呑み込んだ。マリーノの眼差しは、なぜか怒りに燃えていたのだ。
「誰とも恋はしない、なんてよく言えたな」
ナーディアを見すえて、マリーノは吐き捨てるように言った。
「俺が嫌いなら、そう言えばいいだろう。こんな仕打ちは、あんまりだ」
「……何のことを言っているんだ?」
ナーディアは、ぽかんとした。マリーノが、カッと目をつり上げる。
「とぼけんな。ダリオ様と婚約したくせに!」
一言文句を言ってやりたいところだが、何せ息をつく暇もないほど、次から次に人が寄って来るのだ。それも、モンテッラ家よりは遙かに高位の家柄の人間ばかりである。中座するどころか、ダリオに耳打ちするタイミングすらつかめず、ナーディアは苦痛の愛想笑いを浮かべ続けた。
苦痛の原因は、他にもあった。高いヒールで立ちっぱなしのせいか、足の痛みが限界に達してきたのだ。今話している人との会話が終わったら逃げ出そう、とナーディアは決心した。
目の前の男性が、ようやく去って行く。するとそこへ、スッと割り込んで来た影があった。フローラだった。
「ダリオ、少しいいかしら? 妹を借りたいの」
「……どうぞ」
今日の主役に言われては、断れなかったのだろう。ダリオは一瞬不満げな顔をしたものの、仕方なさげに頷いた。
人混みから離れたところへナーディアを連れて行くと、フローラは心配そうに尋ねた。
「足が痛いのじゃない? あの靴で長時間はきついかもと、心配していたの。あなた、さっきから顔色も悪かったし……」
「実は、そうなんです。でも、逃げるタイミングがつかめなくて」
「ナーディアは、こういう場に慣れていないものね。ダリオも、気が利かないわ」
フローラは、眉をひそめた。
「少し休んでらっしゃいよ。どこか別室でも用意してもらう?」
「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です」
ナーディアは、慌ててかぶりを振った。というより、会場から別室まで歩ける自信が、もはやなかったのだ。
「テラスに出て来ます。風にも当たりたいですし」
「一人で行けそう? 付き添ってあげたいけど、もうすぐダンスタイムなのよ。ファーストダンスは、私とロレンツォ様が披露しなければいけないから……」
「私なら、平気ですよ。姉様は、ダンスを楽しんできてください」
なおも気遣う様子のフローラを安心させようと、ナーディアは微笑んでみせた。おぼつかない足取りで、どうにかテラスへと向かう。出ると、そこには先客がいた。赤毛が、夜目にもよく目立つ。……マリーノだった。
「マリーノ? ここに、い……」
ナーディアは、途中で言葉を呑み込んだ。マリーノの眼差しは、なぜか怒りに燃えていたのだ。
「誰とも恋はしない、なんてよく言えたな」
ナーディアを見すえて、マリーノは吐き捨てるように言った。
「俺が嫌いなら、そう言えばいいだろう。こんな仕打ちは、あんまりだ」
「……何のことを言っているんだ?」
ナーディアは、ぽかんとした。マリーノが、カッと目をつり上げる。
「とぼけんな。ダリオ様と婚約したくせに!」
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