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第七章 二人きりの夜
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「どうしたよ?」
怪訝に思って、ナーディアは尋ねた。
「いや。ちゃんと畳んでおけよ。ダリオ兄上から贈られた、大切なドレスだろう?」
ロレンツォが、ドレスを突き出す。ナーディアは、目をつり上げた。
「まさか! 別に、あいつからプレゼントされたわけじゃないぞ」
「違うのか?」
「違うよ。モンテッラの家に仕立屋を呼んだら、知人に知られそうだから、この屋敷の部屋を借りただけだ。代金は、私が払ってる」
ロレンツォは、拍子抜けしたような顔をした。
「何だ……。でも、兄上のためのドレスであるのは確かだろう? このままじゃ皺になるぞ。ちゃんと丁寧に扱ってやれ」
「あいつに作らされた、と言ってくれ」
ぶつぶつ言いながらも、ナーディアはドレスを受け取った。
(ま、ドレス自体に罪はないからな)
埃を払って畳み、仕立屋が置いていった包み紙で、元通りにくるむ。一息ついてふと見ると、ロレンツォが、むき出しの腕をさすっていた。
「寒いのか?」
「少しな」
夜が更けたせいで、だんだん冷え込んできている。ナーディアは慌てた。
「悪い! シャツ、返すよ」
ボタンを外しかけると、今度は彼の方がうろたえた顔をした。
「止めろ! 頼むから、それは着ててくれ。暖炉を焚けば済む話だ」
妙に気ぜわしく、ロレンツォが暖炉の支度を始める。だが、一応薪はあったものの、なかなか火が点かない様子だった。恐らくは、湿りきっているのだろう。
「仕方ない。酒でも飲むか」
舌打ちしながら、ロレンツォがキャビネットを一瞥する。そうだな、とナーディアは頷いた。
「なかなかいけるぞ、ここに置いてあるブランデー。実は、ダリオにムカついたから、勝手に飲んでたんだ」
酒瓶を見せると、ロレンツォは苦笑した。
「家具には気を遣うけど、酒は盗み飲みするのか? ……まあいい、くれ」
ナーディアの返事を待たずに、ロレンツォは瓶をひったくった。さっきまでナーディアが飲んでいたそれに、ためらいもなく口を付ける。てっきり、新しい瓶を開けるものかと思っていたナーディアは、戸惑った。
(それは、まずいのでは……?)
ナーディアの動揺に気づいているのかいないのか、ロレンツォは美味そうにブランデーを喉に流し込んでいる。喉仏が上下する様が、妙に艶めかしかった。
(何考えてる)
意識をロレンツォから逸らそうと、ナーディアはキャビネットから新しい酒瓶を取り出した。黙々と飲んでいると、彼がふとこちらを見た。
「何だよ?」
「いや。今日はえらく華奢に見えるなって。俺のシャツを着たせいかな」
ドキン、と心臓が跳ねる気がした。全く同じ台詞なら、前にマリーノにも言われたが、あの時は何とも思わなかった。今はなぜ、こんなに動揺しているのだろう。マリーノに言われたように、恋なのだろうか。
怪訝に思って、ナーディアは尋ねた。
「いや。ちゃんと畳んでおけよ。ダリオ兄上から贈られた、大切なドレスだろう?」
ロレンツォが、ドレスを突き出す。ナーディアは、目をつり上げた。
「まさか! 別に、あいつからプレゼントされたわけじゃないぞ」
「違うのか?」
「違うよ。モンテッラの家に仕立屋を呼んだら、知人に知られそうだから、この屋敷の部屋を借りただけだ。代金は、私が払ってる」
ロレンツォは、拍子抜けしたような顔をした。
「何だ……。でも、兄上のためのドレスであるのは確かだろう? このままじゃ皺になるぞ。ちゃんと丁寧に扱ってやれ」
「あいつに作らされた、と言ってくれ」
ぶつぶつ言いながらも、ナーディアはドレスを受け取った。
(ま、ドレス自体に罪はないからな)
埃を払って畳み、仕立屋が置いていった包み紙で、元通りにくるむ。一息ついてふと見ると、ロレンツォが、むき出しの腕をさすっていた。
「寒いのか?」
「少しな」
夜が更けたせいで、だんだん冷え込んできている。ナーディアは慌てた。
「悪い! シャツ、返すよ」
ボタンを外しかけると、今度は彼の方がうろたえた顔をした。
「止めろ! 頼むから、それは着ててくれ。暖炉を焚けば済む話だ」
妙に気ぜわしく、ロレンツォが暖炉の支度を始める。だが、一応薪はあったものの、なかなか火が点かない様子だった。恐らくは、湿りきっているのだろう。
「仕方ない。酒でも飲むか」
舌打ちしながら、ロレンツォがキャビネットを一瞥する。そうだな、とナーディアは頷いた。
「なかなかいけるぞ、ここに置いてあるブランデー。実は、ダリオにムカついたから、勝手に飲んでたんだ」
酒瓶を見せると、ロレンツォは苦笑した。
「家具には気を遣うけど、酒は盗み飲みするのか? ……まあいい、くれ」
ナーディアの返事を待たずに、ロレンツォは瓶をひったくった。さっきまでナーディアが飲んでいたそれに、ためらいもなく口を付ける。てっきり、新しい瓶を開けるものかと思っていたナーディアは、戸惑った。
(それは、まずいのでは……?)
ナーディアの動揺に気づいているのかいないのか、ロレンツォは美味そうにブランデーを喉に流し込んでいる。喉仏が上下する様が、妙に艶めかしかった。
(何考えてる)
意識をロレンツォから逸らそうと、ナーディアはキャビネットから新しい酒瓶を取り出した。黙々と飲んでいると、彼がふとこちらを見た。
「何だよ?」
「いや。今日はえらく華奢に見えるなって。俺のシャツを着たせいかな」
ドキン、と心臓が跳ねる気がした。全く同じ台詞なら、前にマリーノにも言われたが、あの時は何とも思わなかった。今はなぜ、こんなに動揺しているのだろう。マリーノに言われたように、恋なのだろうか。
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