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第三章 姉の婚約

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「何事だ!?」

 不穏な気配に気付いたのか、国王陛下とオルランドまでやって来た。ミラネット卿は、二人に向かって皮肉たっぷりに告げた。

「こちらの男性から、ラクサンドの舞踏会ルールについてご教示いただいたのです。『属国』の人間は後で踊るのが決まりだとか。それを破れば、暴力に訴えても構わないようですな」

 国王陛下の顔色が、さっと変わった。おおよその事情は察知したらしい。

「……大変、失礼をした」

 陛下が、苦々しい表情で呟く。オルランドは、王宮近衛騎士団のメンバーを見て告げた。

「パヴァン殿にはすぐに退場していただき、当面宮廷への出入りを禁じよう。マリーノ?」
「承知」

 マリーノがパヴァンの元へ駆け寄り、出て行くよう促す。だがパヴァンは、素直に従おうとしなかった。

「俺は悪くないぞ! イリヴェンの男が、ラクサンドの女を誘うこと自体、厚かましい……」
「パヴァン殿!!」

 マリーノが焦った様子で、無理やりパヴァンを連れ出そうとする。ナーディアも、手を貸そうとした。その時、澄んだ声が響いた。

「ミラネット様。ご不快な思いをさせて、大変申し訳ございません……。ですがパヴァン殿の思いも、わかっていただきたい。彼は少々、表現不足だったのです」

 言いながら近付いて来たのは、何とロレンツォだった。ナーディアは、慌てて彼の前に立ち塞がった。これ以上事を荒立てて、どうしようというのか。

「ロレンツォ! しゃしゃり出るんじゃない!」
 
 王宮近衛騎士団の他のメンバーらも、駆け寄って来てロレンツォを止めようとする。だがミラネット卿は、意外にもそれを制した。

「パヴァンとかいう青年のお考えなら、先ほど十分聞かせていただいたが。真意は他にあると?」
「ええ」

 ロレンツォは大きく頷くと、フローラをチラと見やった。

「こちらのフローラ嬢は、通称『ラクサンドのネモフィラ』と呼ばれる国一番のお美しい令嬢です。いわば彼女は、ラクサンドの宝も同然。パヴァン殿は、その宝が他国に奪われることを案じたのです。どんな国でも、宝が失われそうになれば焦るもの。イリヴェンにおかれては、さしずめ石炭です。石炭が奪われることを、ご想像なさっては?」
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