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十話
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翌日、まだ鈍痛は残っていたが、新堂に心配を掛けたくなくて、無理に体を起こした。
午前中座っているのが辛くなったが、何とか体を持たせ、昼休み、学部の友達と学食に食べに行った。
友達が調子の悪い俺のためにうどんを買ってきてくれる間、痛みに耐えて座っていたら、すぐ隣の席に、サークルの女の子が数名やってきて陣取った。
おしゃべりに夢中で、俺がいるのに気付かなかったらしく、とても賑やかな話声が聞こえてくる。
「やーだ、この幸せ者ぉ。もー、いい加減にしてよねー」
一人の子が周りから散々に囃し立てられている。
その眩しいほどに幸せそうな顔を見て、俺はすっと血の気が引いていくのを感じた。
「一年越しの思いが実って、両想い?
そんで、今日が付き合って一か月目の記念日?
なーに、それ! もう、羨まし過ぎ!」
「いいなぁ、カレシが新堂なんて、超自慢だよねー」
「うん、一緒に歩くと、女の子がみんな振り向く。ちょっと自慢」
うふふと笑ったその顔を、ちらっと見てしまったのが失敗だった。
新堂が余りに優しかったからすっかり忘れていた。
高校時代のミスコンの彼女と最近別れた新堂は、同じサークルの子と付き合い始めたところだった。
――俺、彼女と別れるつもりはないから。
この学食で一昨日言われた言葉を思い出し、俺の胸に鋭い痛みが走る。
「噂をすれば影。新堂が来たよ」
「ほら、ミユのこと探してる」
冷やかされながら、じゃあねと彼女は席を立つ。
背中を丸めてそっとそちらを窺い見た。
学生でごった返す入り口に新堂は立っていた。
目立つ長身は見間違いようもない。
まっすぐ新堂に向かっていく彼女の後ろ姿。
ふわりとしたスカートから細い足が伸びている。
サークルの中でも人気の高い、清楚な雰囲気の綺麗な子だった。
半身で振り返り、卑屈な目で二人を見る。
新堂は俺に気付き、俺から目を逸らさなかった。
その目は、何か文句があるかと言わんばかりに険しく見えた。
彼女にぽんと肩を叩かれ、すぐに笑顔になった新堂は、くるりと背を向け、彼女と連れ立って出て行く。
「いいなぁ、美男美女で」
「新堂、人気高いよね。カッコいいし、モテるのに、意外なほど真面目だし」
「あたしも、ああいうカレシが欲しーい」
「アンタじゃムリ」
きゃははと笑った女の子の声が、俺への嘲笑に聞こえた。
一昨日の、まるで別人のようだった新堂。
――勘違いするなよ。
勘違いしそうになっていた。
――彼女と別れるつもりはないから。
彼女の存在を、俺は都合良く忘れていた。
ほんの束の間、新堂が俺のものになったような気になっていた。
つまり、これが現実。新堂は俺に一晩だけの情をくれたに過ぎない。
どうして俺は今日、無理して学校へ出てきてしまったんだろう。
あのままベッドで眠り続けていればよかったんだ。
友達が運んできてくれたうどんは、一口ものどを通らなかった。
悪いけど食べてくれと友達に頼んで、午後の講義をすっぽかし、重い体を引きずって自分の部屋へ逃げ帰った。
◇◇◇
これで全部終わりだと思った。
ベッドに倒れ込み、声を上げて泣いた。
泣き疲れて、真っ暗になった部屋の中、身じろぎもせずぼんやりしていたら、また、玄関のチャイムが鳴った。
「緒方?」
近所迷惑にならない程度の低い声が、玄関の扉の向こうから聞こえてくる。
その声にびくっと体が竦んだ。
「緒方……、いるんだろ? 開けてくれ」
新堂は抑えた声音で呼びかけて、トントンと扉を叩く。
これ以上、俺に何の用があるんだ。
一度でいいと俺が頼み、新堂はそれに応えてくれた。
興味があると言っていた男とのセックス、モルモットでしかない俺にもう用なんかないはずだ。
「開けてくれ。顔を見せて。緒方!」
鉄の扉の向こうに新堂がいる。
このまま居留守を使ってやり過ごせ。
学校で会っても、もう二度と新堂の顔を見るな。
耳を両手で塞いで縮こまり、俺は自分に言い聞かせた。
「緒方……、開けてくれ」
新堂はなおも声を掛けてきた。
「開けてくれるまで、ここを動かないよ。緒方、聞こえてるんだろ?」
ダメだ。絶対に開けるな。
「頼む……、少しだけ顔を見せろ」
しっかり耳を塞いでも、新堂の声が聞こえてくる。
「顔を見たら、すぐに帰る。何もしないから、緒方……!」
これ以上続くと、隣のヤツに不審に思われる。
そう思ってしまったのは俺の未練だったのかもしれない。
体を起こし、電気も点けずに、玄関の扉を開けた。
くっと顎を上げ、新堂を見上げる。惨め過ぎる俺の、最後のプライドだった。
新堂は俺を見て、痛そうに目を眇めている。
ドアの中に入り込まれ、抱き締められそうになった。
「嫌だ……」
小さく呟いて、俺は新堂から逃げた。
すると強引に腕を掴まれ、抱きすくめられた。
「……離せ……よ、嫌……」
抗ってもがく俺を抑え込もうとしながら、新堂は、俺を責めるように強い口調で言ってきた。
「俺、言ったよな。彼女とは別れないって!」
「離せ……」
念を押されなくても分かっている。新堂の口から同じセリフを聞きたくない。
「女はベツモノ、それでいいよなって!」
「嫌だ……、俺に触んな……」
部屋の中へ逃げたが、如何せん、狭い部屋じゃ逆効果ですぐにベッドへ追い込まれた。
「納得して、俺に抱かせたんじゃないのか!」
「や……、離せ……」
納得していたよ。
一度でいいからって、だけど俺は、夢を見て、ほんの少し勘違いしてしまった。
「止め……、あ……」
ベッドに押し倒され、手首を掴まれて張り付けのようにされ、体重を掛けて抑え込まれた。
「新……、止めて……」
全力で抗う俺を相手に、新堂の息も上がっている。
「何もしないから、暴れるな……、緒方」
落ち着いた声、その言葉通り、新堂は押し倒しただけでどこにも触れてこなかった。
暗闇で目と目を見合わせる。
腕の力を緩めた新堂に、俺も抵抗を止めた。
「……俺が……、好きか?」
ふいに、押し殺した声で囁くように聞かれた。
どうして今こんなことを言うのか、その真意を測りかねた。
「……なんで?」
好きだよ。
だからこんなに辛いのに、それを聞いてどうするんだ。
「好きか?」
答えない俺になおも聞いてくる。
暗闇の中、見上げた新堂の顔は、どうしてだか真剣そのものに見えた。
好きだと言えば、応えてくれるのか。違うだろう?
「好……」
どうしようもない俺。
込み上げてくる涙で声が詰まった。
分かっているのに、俺はバカ正直に答えようとする。
俺を見つめる新堂は、ほっとしたように表情を和らげた。
涙で濡れた俺の頬に、新堂の頬が押し当てられる。
掴んでいた手首を離し、両手の指を絡めるようにつないだ。
俺の涙はさぞやしょっぱいだろうに、それを舐め取るように、頬にキスが落ちてくる。
髪を梳き、頬を撫で、何度も何度も、泣き濡れた瞼をキスで拭う。
触れ合わせるだけの口づけと抱擁、酷い言葉とは裏腹に、新堂の手は切なくなるほど優しかった。
流れる涙と嗚咽を堪え、俺は愛しい男の背中に腕を回してしがみ付く。
「ううっ……う…」
ベッドでずっと抱きしめられ、俺を苦しめる男の腕の中で、気が済むまで泣いた。
午前中座っているのが辛くなったが、何とか体を持たせ、昼休み、学部の友達と学食に食べに行った。
友達が調子の悪い俺のためにうどんを買ってきてくれる間、痛みに耐えて座っていたら、すぐ隣の席に、サークルの女の子が数名やってきて陣取った。
おしゃべりに夢中で、俺がいるのに気付かなかったらしく、とても賑やかな話声が聞こえてくる。
「やーだ、この幸せ者ぉ。もー、いい加減にしてよねー」
一人の子が周りから散々に囃し立てられている。
その眩しいほどに幸せそうな顔を見て、俺はすっと血の気が引いていくのを感じた。
「一年越しの思いが実って、両想い?
そんで、今日が付き合って一か月目の記念日?
なーに、それ! もう、羨まし過ぎ!」
「いいなぁ、カレシが新堂なんて、超自慢だよねー」
「うん、一緒に歩くと、女の子がみんな振り向く。ちょっと自慢」
うふふと笑ったその顔を、ちらっと見てしまったのが失敗だった。
新堂が余りに優しかったからすっかり忘れていた。
高校時代のミスコンの彼女と最近別れた新堂は、同じサークルの子と付き合い始めたところだった。
――俺、彼女と別れるつもりはないから。
この学食で一昨日言われた言葉を思い出し、俺の胸に鋭い痛みが走る。
「噂をすれば影。新堂が来たよ」
「ほら、ミユのこと探してる」
冷やかされながら、じゃあねと彼女は席を立つ。
背中を丸めてそっとそちらを窺い見た。
学生でごった返す入り口に新堂は立っていた。
目立つ長身は見間違いようもない。
まっすぐ新堂に向かっていく彼女の後ろ姿。
ふわりとしたスカートから細い足が伸びている。
サークルの中でも人気の高い、清楚な雰囲気の綺麗な子だった。
半身で振り返り、卑屈な目で二人を見る。
新堂は俺に気付き、俺から目を逸らさなかった。
その目は、何か文句があるかと言わんばかりに険しく見えた。
彼女にぽんと肩を叩かれ、すぐに笑顔になった新堂は、くるりと背を向け、彼女と連れ立って出て行く。
「いいなぁ、美男美女で」
「新堂、人気高いよね。カッコいいし、モテるのに、意外なほど真面目だし」
「あたしも、ああいうカレシが欲しーい」
「アンタじゃムリ」
きゃははと笑った女の子の声が、俺への嘲笑に聞こえた。
一昨日の、まるで別人のようだった新堂。
――勘違いするなよ。
勘違いしそうになっていた。
――彼女と別れるつもりはないから。
彼女の存在を、俺は都合良く忘れていた。
ほんの束の間、新堂が俺のものになったような気になっていた。
つまり、これが現実。新堂は俺に一晩だけの情をくれたに過ぎない。
どうして俺は今日、無理して学校へ出てきてしまったんだろう。
あのままベッドで眠り続けていればよかったんだ。
友達が運んできてくれたうどんは、一口ものどを通らなかった。
悪いけど食べてくれと友達に頼んで、午後の講義をすっぽかし、重い体を引きずって自分の部屋へ逃げ帰った。
◇◇◇
これで全部終わりだと思った。
ベッドに倒れ込み、声を上げて泣いた。
泣き疲れて、真っ暗になった部屋の中、身じろぎもせずぼんやりしていたら、また、玄関のチャイムが鳴った。
「緒方?」
近所迷惑にならない程度の低い声が、玄関の扉の向こうから聞こえてくる。
その声にびくっと体が竦んだ。
「緒方……、いるんだろ? 開けてくれ」
新堂は抑えた声音で呼びかけて、トントンと扉を叩く。
これ以上、俺に何の用があるんだ。
一度でいいと俺が頼み、新堂はそれに応えてくれた。
興味があると言っていた男とのセックス、モルモットでしかない俺にもう用なんかないはずだ。
「開けてくれ。顔を見せて。緒方!」
鉄の扉の向こうに新堂がいる。
このまま居留守を使ってやり過ごせ。
学校で会っても、もう二度と新堂の顔を見るな。
耳を両手で塞いで縮こまり、俺は自分に言い聞かせた。
「緒方……、開けてくれ」
新堂はなおも声を掛けてきた。
「開けてくれるまで、ここを動かないよ。緒方、聞こえてるんだろ?」
ダメだ。絶対に開けるな。
「頼む……、少しだけ顔を見せろ」
しっかり耳を塞いでも、新堂の声が聞こえてくる。
「顔を見たら、すぐに帰る。何もしないから、緒方……!」
これ以上続くと、隣のヤツに不審に思われる。
そう思ってしまったのは俺の未練だったのかもしれない。
体を起こし、電気も点けずに、玄関の扉を開けた。
くっと顎を上げ、新堂を見上げる。惨め過ぎる俺の、最後のプライドだった。
新堂は俺を見て、痛そうに目を眇めている。
ドアの中に入り込まれ、抱き締められそうになった。
「嫌だ……」
小さく呟いて、俺は新堂から逃げた。
すると強引に腕を掴まれ、抱きすくめられた。
「……離せ……よ、嫌……」
抗ってもがく俺を抑え込もうとしながら、新堂は、俺を責めるように強い口調で言ってきた。
「俺、言ったよな。彼女とは別れないって!」
「離せ……」
念を押されなくても分かっている。新堂の口から同じセリフを聞きたくない。
「女はベツモノ、それでいいよなって!」
「嫌だ……、俺に触んな……」
部屋の中へ逃げたが、如何せん、狭い部屋じゃ逆効果ですぐにベッドへ追い込まれた。
「納得して、俺に抱かせたんじゃないのか!」
「や……、離せ……」
納得していたよ。
一度でいいからって、だけど俺は、夢を見て、ほんの少し勘違いしてしまった。
「止め……、あ……」
ベッドに押し倒され、手首を掴まれて張り付けのようにされ、体重を掛けて抑え込まれた。
「新……、止めて……」
全力で抗う俺を相手に、新堂の息も上がっている。
「何もしないから、暴れるな……、緒方」
落ち着いた声、その言葉通り、新堂は押し倒しただけでどこにも触れてこなかった。
暗闇で目と目を見合わせる。
腕の力を緩めた新堂に、俺も抵抗を止めた。
「……俺が……、好きか?」
ふいに、押し殺した声で囁くように聞かれた。
どうして今こんなことを言うのか、その真意を測りかねた。
「……なんで?」
好きだよ。
だからこんなに辛いのに、それを聞いてどうするんだ。
「好きか?」
答えない俺になおも聞いてくる。
暗闇の中、見上げた新堂の顔は、どうしてだか真剣そのものに見えた。
好きだと言えば、応えてくれるのか。違うだろう?
「好……」
どうしようもない俺。
込み上げてくる涙で声が詰まった。
分かっているのに、俺はバカ正直に答えようとする。
俺を見つめる新堂は、ほっとしたように表情を和らげた。
涙で濡れた俺の頬に、新堂の頬が押し当てられる。
掴んでいた手首を離し、両手の指を絡めるようにつないだ。
俺の涙はさぞやしょっぱいだろうに、それを舐め取るように、頬にキスが落ちてくる。
髪を梳き、頬を撫で、何度も何度も、泣き濡れた瞼をキスで拭う。
触れ合わせるだけの口づけと抱擁、酷い言葉とは裏腹に、新堂の手は切なくなるほど優しかった。
流れる涙と嗚咽を堪え、俺は愛しい男の背中に腕を回してしがみ付く。
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