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168話 凪4
しおりを挟む現れたそのおぞましいく大きな口はあの時と同じように超高速で迫ってくる。
前はその速度についていけなかったが、今ならついていける。
俺はその口を避けようと念動力と素の脚力を使って本気で逃げた。
速度はスポーツカーを優に超す程だったはずだ。
だが、それでも避ける事は出来なかった。
口は避けるには大きすぎた。
俺がどれだけ早い速度で避けようにも、広範囲のものを全て食らう勢いで来られれば為す術はない。
俺はそのままその大きな口に食われた。
バキバキバキと俺の体が砕かれ、溶かされる音がする。
直後、痛みが俺を襲う。
くそ、これを耐え切る耐久力は無いが、治すことが出来るのでこの痛みを常に耐えなければいけない。
俺は痛みのあまりにこの状況の打開策を考えられずにいた。
スキルもあるのにこんなに耐え難いのはおかしい…………。
もしかしてこの中には毒かなにかが出ているのだろうか?
よくよく感じてみると、久しく感じていなかった眠気や吐き気等もある。
やはり毒かなにかが分泌されていると思っていいだろう。
俺はとりあえず体を治し続け、死ぬ事だけは回避しようとする。
そして、回らない頭で打開策を考える。
「…………とりあえず暴れるか。」
俺は手に持っているはずの黒鉄を振り回そうとする。
しかし、俺の腕には深深と何本もの牙のようなものが刺さっており、腕を動かすのを阻害していた。
あまりの痛さに俺の腕から力が抜け、持っていた黒鉄と謎の箱を離してしまった。
俺はもう一度それらをつかもうとするが、腕が動かずに掴むことが出来ない。
だめだ、あれは俺に必要なんだ。
あれが無くては俺は強くなれない!
俺は意地でもつかもうと体をよじるが、いい結果は現れなかった。
しかし、その瞬間、俺の体から痛みが薄れていった。
どうやらこの口は俺に対する咀嚼をやめたようだ。
どうしてかは分からないが、僥倖だ。
俺はそのうちに体を治しきり、思考を加速する。
「…………あぁ、そうだ、夢奪を使えばいいんだ。」
小さな口はそれを使うことによって消えた。
ならば似たようなこの大きな口もそうする事によって消えるはずだ。
俺は常にこの口の中で口に触れているため、夢奪はすぐさまにでも使える。
俺は迷わず使った。
【夢奪】
俺は大きな口にそれを使った。
大きな口がやりたかった捕食という行為がどんどんと出来なくなっていく。
俺はその口の魔力を奪っていく。
ただ、まだまだ生きている物に対して使うのは難しい。
まぁ、この口が生きているかと言われれば少し微妙なので、生きていると言うよりは動いていて抵抗する力があるものということだ。
抵抗されてしまえば俺の力も効きにくい。
何度も奪おうとしても相手が魔力を守るように出来てしまうのだ。
そうすれば俺は少量しか奪うことが出来なくなってしまう。
しかし、俺が意識を俺の中のナニカに乗っ取られている時はあのゾンビから一撃で全ての魔力を奪っていた。
ならば、俺にもできるはずだ。
俺は更にその守られた魔力に手を伸ばす感覚で、魔力を奪い取っていく。
何かをされている事に気がついたのか、大きな口は今更ながら毒や牙を俺へと向けてくる。
しかし、もう遅い。
俺はもうコツを掴んだんだ。
俺は奥にある魔力を包み込むように奪い取った。
力が勢い良く俺に流れ込んでいる感覚を覚える。
これはすごい、俺がこいつにとられた魔力や元々こいつに備わっていた魔力が全て俺へと流れ込んでくる。
段々と俺の気分が良くなってくる。
もっと。
もっとだ。
もっと魔力が欲しい。
俺はどんどんと膨大な魔力を奪い取っていく。
その度に俺は強くなっていく感覚を覚え、非常に気持ちが良かった。
しかし、それも長くは続かなかった。
少し経つと、口の魔力が尽きたようだ。
口はどんどんと存在が希薄になっていき、俺は地面へと投げ出された。
死体のようなものは見当たらず、どうやら吸収しきったみたいだ。
「ははははは! してやったりだぜ!」
俺は凪を見て笑う。
俺は凪の切り札であろうこの能力を打ち破ってやった。
もう俺の勝ちだ。
凪はそれでも笑みを絶やさない。
…………不気味だ。
切り札はもう無いんじゃないのか?
まさか、まだ切り札は残っているのか!?
それならばまずい。
これを防ぐだけでも手一杯だったというのにもっと強い攻撃をされたらさすがにきつい。
俺はそう思い、とりあえず黒鉄と謎の箱を拾おうと思い、周りをキョロキョロと見回る。
黒鉄はすぐに見つかった。
しかし、謎の箱は何故か見当たらなかった。
仕方なく凪の方を見ると、そこには謎の箱を体の中心に入れている凪の姿があった。
まずい!
あれにはコナーも無限の魔力が宿っているといっていた。
開けないと魔力は獲得できないはずだが、何らかの方法を使えば開けなくても魔力が手に入ってしまうかもしれない。
そうなれば非常にまずい。
俺が強くなっていったその力が凪に渡ってしまえば、俺の勝ちは絶望的になる。
俺は焦って凪に向かって走り出す。
あの箱はすぐにでも取り返さなくてはいけない。
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