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132話 サイコキネシス

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 俺がその男に斬りかかろうとすると、いきなり体に負荷がかかるような感覚が俺を襲った。


「くっ、何をした!?」

「さて、何だろうね。」


 そう言って男は気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 体は少し動きにくいが、全く動けない訳では無い、この程度ならまだ戦えそうだ。


「へぇ、凄い力だねこれでも動けるなんて…………。これはちょっと想定外だなぁ。」 


 その男はそう言うが笑みは崩れない。

 その笑みに不気味なものを感じてしまう。

 俺は動きにくいがそのまま黒鉄に魔力を込めながらその男の元へ迫った。

 男はまだ余裕の表情で後ろへと下がっていく。

 俺はすかさず魔力を込めた斬撃を放った。

 斬撃は周りの敵も巻き込みながらあの男へと迫るが、あの男の前に着いた瞬間、男のは遙か上空へと跳び上がった。

 その跳び方は明らかに人間が普通に跳ぶ様子とかけ離れていた。

 普通は跳ぶ時に跳ぶモーションは少なからず生まれるはずだ。

 しかし、あの男にはそれがなく、不自然に上へと飛んでいった。

 男は緩やかに降りていき、あの集団の中へと消えていった。

 俺はその男を追いかけていく。

 あの男を放置していたら確実にこちらに被害が広がってしまう。

 それは避けなくてはならない。

 幸いな事にこの集団はこちらから明確に進路を邪魔しなかったら攻撃などはしてこない。

 なのでその人達の合間を縫ってあの男へと向かう。

 もちろんついでにそこら辺の敵を気づかれない程度に切りつけていく事は忘れずにやっていく。

 あの男は目立つ金髪をしているため間を縫ってそこまで近づくことは容易な事だった。

 しかし、問題はそこからだ。

 俺が間を縫って攻撃しようとしているように、あの男も俺に向かって攻撃してきたのだ。

 しかし、違う点があるとすればそれはあの男は間を縫って攻撃するという事は一切しないということだった。

 俺は糸によって体のいたる所を切り裂かれるが、それは直ぐに治すことが出来る。

 しかし、周りの敵はそんな事は出来ないため、切られたらそのまま切られっぱなしになってしまう。

 それなのにも関わらずあの男は周りの事は気にせずに周り諸共俺を切りにかかってくる。

 あいつらは味方なんじゃないのかと思う程に周りの敵まで倒してくれる。

 だが、そのおかげでどこから攻撃が来るのか分かりにくなってはいる。


「くっ!?」


 またヒットしてしまった。

 敵の後ろから敵を貫いてこちらに攻撃されると回避もできなければ防御も出来ない。

 つまり為す術なく攻撃されてしまうのだ。

 そんな中でも俺はその男に向かって進んでいるのだが、その男も一定の距離を取って俺の事を攻撃してきているので、なかなか追いつけない。

 俺は段々とイライラしてきた。


「くそ、てめぇら邪魔だ!」


 俺は周りの人を全員切り倒した。

 魔力の籠った一撃なので大半の人が死ぬ。


「見えたぞ!」


 俺はその奥にいる男の姿を見つけた。

 俺は死体を踏みつけながらその男の元へ大きく飛び付いた。


「へぇ、やるじゃん、じゃあこれはどうかな!」


 そう言うとその男は小さなナイフを何本も投げつけてきた。

 だが、その程度ならば俺でも防ぐことが出来る。

 俺は黒鉄を使ってそのナイフを弾き飛ばそうとした。

 しかし、そのナイフはすんでのところで軌道を変え、俺の胴へと綺麗に刺さってしまう。

 明らかにおかしい。

 投げられたナイフは確実に俺に当たらない軌道を描いていたはずなのに、そのナイフが全て俺に刺さっている。

 しかもそのナイフ達は未だに俺の体の中に侵入しようとし、ぐりぐりと動いている。

 間違いない、あいつの能力はサイコキネシスの様なものだ。

 そんな能力を使って糸を飛ばしたりナイフの軌道を変えたりしているのだろう。

 俺は未だに動くナイフを引き抜き傷口を治す。

 ナイフには毒が塗ってあったようでかなり痛いが、それでもしっかりと治すとその痛みは自然と無くなった。

 手に残るナイフは俺の手を何度も何度も刺そうと動いているが、そのナイフはどこか遠くに投げ捨てた。

 ナイフはすぐにこっちに帰ってくるかと思ったが、予想に反しナイフは軌道を少しこっちに向けただけで帰ってくることは無かった。

 サイコキネシスにも限界があるのだろう。

 糸のようなものなら振動させて攻撃手段として使えているが、ナイフほどの重さを持ってしまうともう自由自在に使うのは難しいのだろう。


「えぇ、あの毒すっごい痛いはずなのにもう治っちゃったの? 化け物じゃん。回復力は凄いと思ったけどもっと痛がると思ったんだけどな。」

「お前に言われたくないな、平気で仲間を殺すような奴の方がよっぽど化け物だ。」

「あは、その使い捨ての駒共がどうなろうと別にいいじゃん、確かに君の所みたいに回復してくれるなら使えると思うけど…………うちは数がいっぱいいるからね、ちょっとくらい殺してもいいのさ。それに、目的のために死ねるなら彼らも本能だよね!」

「…………外道が。」


 あの男の物言いは虫唾が走る。

 人を人と思わない鬼畜の所業。

 あの外道は絶対に生かしてはいけない。

 俺はその首を目掛け黒鉄を突きつけた。
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