91 / 214
92話 家族
しおりを挟む俺は陽夏を連れコナーの部屋へと向かった。
その途中陽夏は最後の最後まで抵抗していたが、俺の引きの強さを見て諦めたのか途中からは素直に俺に引かれて歩いていた。
歩く度に色々な人から話をかけられることから俺も陽夏ももうこのホテル街では十分有名人なのだろう。
まぁ、俺はここの人たちを何人も治してきたし、陽夏は言わずもがなここを長い間守ってきた。
有名人にならない方がおかしいくらいだ。
ともかくみんな安心したと言った内容の事を話していてどれだけ俺達が心配されていたか痛感した。
俺はいつもはここにいない為そこまで心配されて居なかったようだが、それでも俺を心配してくれる人もいた。
しかし、陽夏はそれ以上にみんなに心配されていた。
そんな姿を見ると少し嫉妬心も湧くが、俺がとった行動の結果だ。甘んじて受け入れよう。
みんなの心配の声に俺はいつものコミュ障を遺憾無く発揮し、少しぶっきらぼうな対応になってしまったが、街の人々はそんな俺も温かく受け入れてくれた。
俺はそんな様子に胸が熱くなる感覚を覚えると共に罪悪感も覚えた。
やはり今回は少し無茶しすぎたかもしれない。
本来ならあの女の人レベルの強さを持つ存在を発見した自体で帰るくらいの気持ちで探索は進めた方が良かったのだ。
このホテル街の一大戦力である陽夏を連れている以上俺にはそれくらいの対応をする責任があったとは思う。
だが、俺は次また同じような事が起こったならばまた同じような事をするだろう。
少なくともゆうちゃんを助けるまでは俺は止まれない。
それくらいの覚悟はある。
色んな人に話しかけられつつも、ホテル街はダンジョンほど広くは無いので、コナーの部屋までそこまでの時間はかからなかった。
コナーの部屋のドアはノックし、部屋に入る。
俺は柄にもなく緊張しているのを感じた。
その原因はドアを開けた先に待っていた。
その原因であるコナーは顔の前で腕を組み、非常ににこやかな顔でこちらを見ている。
しかし、その目は笑っていなかった。
いや、目どころか顔全体が笑っているように見えて笑っていない。
俺は冷や汗が流れるのを感じた。
「陽夏ちゃん、晴輝君、おかえり。」
「た、ただいま。」
「…………。」
陽夏は恐怖のあまり黙ってしまっている。
今ならさっき陽夏があれ程コナーに会うのを拒んでいた理由がわかる。
コナーは立ち上がりこっちに向かってくる。
思わず後退りしそうになるが、それさえもコナーの圧によって許されない。
「2人とも僕は相談もしないで楽しいことしていたんだって?」
「あっ、いや、それは…………。」
俺は特に内緒でやろうとしていた訳では無いが、少なくとも陽夏が隠していたのは事実だ。
何とか弁明しようとするが、恐怖で上手く言葉が出てこない。
陽夏に至っては俺に抱きついてガクガクと震えている。
コナーは俺達に向かって歩いてくる。
俺は最初ぶん殴られる事も覚悟し身構えた。
しかし、実際そんな事は起こらなかった。
コナーは俺達の方へ歩いて来て、そしてそのまま俺達に抱きつき顔を埋めた。
「こ、コナー?」
俺は予想外の行動に戸惑いを隠せなかった。
何故ならコナーの体は小刻みに震えており、時々嗚咽が聞こえてくる。
そんなコナーの様子に陽夏も戸惑っているようで、コナーと俺を交互にみてオロオロとしていた。
「……ぅ、君達は…………君達は僕にとって……っ、特別なんだ………。だから…………だからっ…………!」
コナーの泣き声は時間を経つ事に大きくなっていく。
その大きさはまるで際限もなく増え続けるコナーの気持ちを表しているかのようだった。
「………っ、僕は……ぅ、君達を他人とは思えないんだ。……ぅ、君達は僕にとって…………家族みたいな存在なんだよ…………。」
家族。
その言葉に俺の胸が波打つ。
「…………君達が僕の事を……どう思っているかは…………っ、わかんないよ。けどさ? 僕って……っ、そんなに信頼無かったのかな? って思ったら…………そしたら悲しくて…………。」
コナーの言葉は俺の胸に、心に刺さった。
何故だろうか。
俺はコナーとの繋がりが特段ある訳では無い。
というかコナーとは出会って少ししか経っていない。
それなのに何故か俺もコナーの事を家族の様な存在だと思っていた。
俺の頬に何かが流れる感覚があった。
涙。
いつぶりだろうか。
今の俺には泣いたという記憶が無い。
俺は無意識にコナーを抱き締めていた。
それは陽夏も同じようで、コナーに何をしてしまったのか気づいたのか悔しそうな顔をしながら涙を流し、コナーを抱き締めている。
俺は俺を本当に心配している人の1人をこんなにも悲しませてしまった。
俺は酷く後悔した。
ゆうちゃんを助けるというのは俺にとって最優先事項だ。
だけど、それでもこの人達は傷付けてはいけない。
それだけはやってはいけない。
そう、心から思った。
コナーはひとしきり泣いた後顔を上げた。
酷い顔だった。
目の周りは赤く腫れぼったくなり、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
それでもその顔はどこか愛おしかった。
コナー涙を流しながらも最大限の笑顔を作る。
「けど、君達が無事なら僕は何でも許せるよ。許すことが出来るんだ。だから、絶対に無事でいて欲しいんだ。僕のわがまま聞いてくれないかな?」
そんなに人の為を思ったわがままなど聞いたことが無い。
陽夏はその言葉を聞いて何かが切れてしまった様に号泣し、コナーに謝り続けた。
俺はその言葉が体の中で反芻し、何もすることが出来なかった。
0
お気に入りに追加
629
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる