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85話 運搬
しおりを挟む幸いな事に陽夏が寝ていたのは1時間ほどで、その間にゴブリンから攻撃を受けることは無かった。
起きたあと陽夏は酔っ払っていた時の記憶があったのか、物凄い勢いで謝ってきた。
どう考えても確認せず飲ませてしまった俺の方が悪いので、俺も謝った。
「それにしても、お酒って俺の力じゃ治せないんだな。毒とかならすぐに治せるのに…………。」
「お酒なんて毒とほぼ変わらないのに不思議ね…………まぁ、さっきのお酒が特別な物だったって可能性もあるけどね。」
確かにダンジョン産のお酒なんて不思議な効果があってもおかしくない。
陽夏があの時めちゃめちゃに強くなったのもそれのお陰かもしれないしな。
まぁ、酔拳というものがあるくらいだし陽夏もそれに近いもので酔ったら強くなる人なのかもしれないけどな。
ともかくこれからは無闇矢鱈に薬を飲んだり物を使ったりするのはやめておこう。
陽夏の酔いが完全に醒め、俺達は探索を再開する。
探索はただ進むよりも中々に精神にくる。
それでもあのスキルの石が出た時だけはテンションがあがる。
どうやらあのスキルの石で手に入れられるのは剣術だけではないようで、陽夏は他のスキルもチラホラと手に入れたらしい。
どのスキルが手に入っても結果的に戦力の強化となるため、全て陽夏が使った。
まぁ、俺はほとんど使えるやつは無かったけどな。
しかし、一つだけ俺にも使える石があった。
【スキル《運搬LV1》を入手しました】
陽夏に石を渡そうとしていると突如石がひかり出したと思ったら、頭に聞き覚えのある声が響き渡った。
運搬か…………。
名前からして物を運ぶのが上手くなるんだろうが…………もっと強いスキルが良かったな。
確かに俺はまぁまぁの重さの荷物を持っている。
水など色々含めて数十キロはあるだろう。
それでも俺の力だとそれを運ぶなど造作もない事だ。
というかそれを持ちながら戦うことだって出来る。
流石に強い相手と戦う時は荷物の事を気遣って下ろすが、それ程度の障害にしかなっていない。
つまりこのスキルが無くても別にきついことは無いので、それだったらもっと攻撃に直結するスキルや探索に使えるスキルなどが手に入れられた方が良かった。
俺が気を落としながらまた歩き始めると、そこで俺は気づく。
やばい、荷物がめちゃくちゃ軽い。
びっくりしたことに、このスキルは運びやすくするというレベルでは無い程の効果だった。
このレベルで軽くしてくれるならもうめちゃくちゃ楽になる。
確かにこの昨日があったところで探索が早くなったり戦闘力が上がったりする訳では無いが、それでも楽というのは良すぎる。
俺はこのスキルへの認識を改めた。
しかし、その後俺はこのスキルへの認識を更に改めることとなる。
運搬を手に入れて少し経った頃、陽夏が急に立ち止まった。
「やっぱり…………。」
「どうしたんだ?」
「やっぱり確実に歩きやすくなってる。初めは気のせいかなって思ってたんだけど、ちょっといつもなら疲れそうな動きをしても全然疲れないの!」
どういう事だ?
確かにさっきから陽夏はちょっと変な動きを繰り返しては居たが、疲れない?
どういう事か分からず、陽夏に聞いてみるが、陽夏もよく分かっていないらしい。
「ねぇ、さっき晴輝が手に入れたスキルって運搬何だよね?」
「あぁ、そうだけど、それがどうしたんだ?」
「そのスキルの効果が私にも適応されてるんじゃないかって思ったのよ。」
「え?」
「その晴輝が運んでる物が私も含まれてるんじゃないかなって思ったの。晴輝は持ち物が軽くなったりしたんでしょ?」
「あぁ…………ってまさか!?」
そこで俺は理解した。
俺が運んでいるというものに陽夏が含まれるということは、多分陽夏の重さもかるくなってるか、それに類似するいい効果が発揮されているということなのだろう。
そうすればこの運搬というスキルは物を運ぶという力以外に周りの人の探索を早めることも出来るということになる。
それだったら最高のスキルじゃないか。
俺はこのスキルへの認識をさらに向上させた。
しかし、事件は起こる。
俺達はまたでっぱりを見つけ、開けてみる。
そこにはまたいつものようによく分からない薬が入っていた。
「あぁ、もう、また薬? もういやになってくるわね。」
「まぁ、そうだな。根気強くいこうぜ。」
こうも同じようなものばかり出てきたら嫌にもなってくるが、それでも俺はまだあの石が欲しかったし、探索は続けていた。
とりあえずその薬もひと口舐め、危険性がないことがわかったので鞄に入れることにした。
「あれっ?」
そこでおかしなことが起こった。
鞄の中が明らかに大きくなっている。
外観は変わらないのだが、中身だけが広がっていた。
ま、まさかこれも運搬の…………いや、運搬様の力ってことなのか!?
運搬というスキルは決して使えないスキルでは無かった。
Lv1でこれということはさらに物凄い進化を遂げることも考えられる。
俺は運搬様に心の中で土下座した。
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