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79話 戦い

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 階段を登った先ではまた新しいゴブリンが出現していた。

 今度は陽夏の予想通り杖のゴブリンだった。

 だが、思ったよりも面倒では無かった。

 何故なら、思ったよりも魔法が弱かったからだ。

 杖のゴブリンが放つ魔法は確かに色んな種類の魔法を放ってきた。

 しかし、それは杖の女の人と比べる程もないほど弱く、遅かった。

 なので普通に開始したりガードしたりすれば全然楽勝だった。

 しかも、耐久力も無いため、攻撃をすればすぐ倒れる。

 拍子抜けした俺達はダンジョンを進んでいく。

 それ以外に変わったことといえば他のゴブリンが少し強くなったくらいだったのでかなりのペースで進んでいく。

 途中で休憩を挟み、約1日ほどかけてまたあのだだっ広い部屋へと辿り着いた。

 俺は何故あの時あんな感覚になったのかを知るためにもこの時を待ちわびていた。

 その部屋にはやはりゴブリンが溢れかえっていた。

 そこには杖のゴブリンも混じっていたが、フレンドファイヤーを恐れて中々魔法を撃ってこない。

 そんなヤツらを相手に俺と陽夏が遅れをとるわけがない。

 俺達はかなりの数のゴブリンを蹴散らして行った。

 これは中々に爽快感があって楽しいな。

 それは陽夏も同じなようで、嬉々とした表情でゴブリンを狩っていく。

 こういう時の陽夏の殲滅力はもの凄いが、俺も攻撃を食らっても治して倒し続けるというゴリ押しをしているため、中々の殲滅力を誇っている。

 最後の一体のゴブリンを倒し終えると、奥の方に正座をした女の人がいた。

 気をつけながら近ずいて見ると、そこには髪を後ろで結んだいかにも侍といった様子の女の人が居た。

 腰には一振の刀を携えており、凛とした雰囲気を醸し出している。

 その姿には敵意は感じられなかったが、それでも本能的に戦わなければいけないという事は分かった。

 俺が黒鉄を抜こうと手を添えるが、陽夏がそれを制した。


「待って晴輝。ここは私がやるわ。」


 そう言って陽夏が前に出て、刀を抜き放つ。

 それと同時に刀の女の人も刀を抜き放った。


「ちょ、まて、流石に1人は危なすぎるだろ!」

「大丈夫…………多分。少なくとも敵意は感じるけど、殺意は感じらない。どちらかと言うと…………よく分からないけど本当に大丈夫だから、私一人にやらせて。」


 それで良いと言えるはずが無いだろ。

 少なくともこの刀の女の人が俺に向かって敵意を向けていない事は分かる。

 だが、それはわざと敵意を消してこっちを油断させようとしている可能性もある訳だし、危険なことに変わりは無いだろう。


「それに、昨日位に吸収したあの剣の女の人の能力で剣術が更に磨かれた気がするの。けど、あのゴブリンとかじゃ試せなかったから、試してみたいってのもあるの。」

「いや…………でも…………。」

「あぁ、もう、しつこい! 大丈夫、私は強いから!」


 陽夏はそう言って無理やり俺との話を終わらせようとする。

 確かにそこまでの危険性は今の所は感じられない。

 …………しょうがないな。


「分かった。何か危なくなるまでは介入しないが、少しでも危なくなったらすぐに俺も参戦するからな?」

「わかった!」


 そう言って陽夏は刀の女の人と向き直る。

 その瞬間、先程までの明るい雰囲気が嘘のように消え去り、緊張した空気が流れる。

 お互い刀を構え向き合う姿はまるで世紀の一戦のようだった。


 陽夏の地面を蹴る音が聞こえる。

 先に攻撃を仕掛けたのは陽夏だった。

 陽夏は疾し一撃を放つが、それは刀の女の人に易々と防がれてしまう。

 その瞬間、刀の女の人がにやりと笑った気がした。

 刀の女の人は合わさる刀と刀の力を上手く流し、そのまま陽夏を斬り付けようとする。

 危ないと思い俺も参戦しようかと思ったが、陽夏は後退しながら刀で攻撃を防ぎ後ろへ飛び退く。

 陽夏の表情は生き生きとした物で、とても命の危険を感じているような表情では無かった。

 俺は不安ではあったが、一旦見守る事にした。

 今の所陽夏も刀の女の人もスキルの様なものを使っている様子は無い。

 まだ小手調べと言ったところなのだろうか。

 それにしては2人の動きには品があり、何かの舞踊を見ているかのような感覚になる。


 鋭い金属音が響き渡り、2人はぶつかり合う。

 2人とも攻守のバランスが取れ均衡しているようだった。


 キィィン


 一際大きな金属音が鳴り響き、陽夏が大きる後ろに飛び退く。


「あっはは、楽しいわね! じゃあ次からは本気で行くわよ!」


 陽夏がそう言うと刀の女の人もニヤリと笑い、直後2人の纏うオーラが変わる。

 2人とも本気を出し始めたようだ。

 陽夏のスピードはさらに増し、力強くなっていく。

 それと対照的に刀の女の人は滑らかで無駄の無い動きで陽夏の攻撃を受け流し、カウンターを仕掛けていく。

 もうここまで来ると2人の戦いを目で追うのですら目いっぱいだ。

 しかし、それでも2人の力は拮抗する。

 どちらの体にも少しづつ切り傷が着いていく。

 俺がここで陽夏の体を治してしまえば陽夏の勝ちは確定するだろう。

 しかし、それは何故か違う気がした。


「はぁ、はぁ、よし! じゃあ、私の一番の一撃、受けてみなさい!」


 陽夏が叫び、魔力を練り込んでいく。

 それと同時に刀の女の人も刀を構え、魔力を練っているようだ。

 俺はその様子を息を飲んで見守っていた。
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