77 / 214
78話 何故
しおりを挟むここからのダンジョン攻略はものすごく楽になった。
ゴブリンは強くなりはしたが、思ったよりも進むのに支障は出なかった。
今までは消費を最小限にしたかったため魔力を使っていたかったが、それを出来るだけ使わないようにして進んでいくというように変えたお陰もあるだろう。
しかし、陽夏が毒を使えるようになったからというのが1番の要因だろう。
陽夏は毒を活用するために重い攻撃を何発も繰り出し、一発で仕留めるという方法を取るのを辞め、細かい攻撃を何発も何発も放ち、相手を毒状態にしてじわじわと倒していくという方法を取った。
この方法は思ったよりも刀のゴブリンにハマり、刀のゴブリンは一瞬で動けなくなり、すぐさま陽夏に倒されていた。
隊列を組んだゴブリンも2人で協力してサクッと倒していたため、本当に時間がかからなかった。
そしてそのまままたあの女の人がいる部屋へと着いた。
そこにはいつも通り大量のゴブリンが居たが、俺と陽夏にかかれば直ぐに倒し終えてしまった。
前回とは大違いだ。
そして、次に女の人を見る。
今回の女の人は聖剣のようなものを持った勇者の様な人だった。
「……………。」
「晴輝? どうしたの?」
「あぁ、いや、何でもない。」
あれ、なんだこれ、なんなんだ? この感覚は。
俺は何故かあの女の人に抱くはずのない感覚を抱いている。
俺はきっと気のせいだと思い、その感覚を振り払うかのように黒鉄を抜き放つ。
「陽夏、いくぞ。」
「う、うん。分かった。」
俺と陽夏はその女の人に向かっていく。
陽夏と俺の初撃はあの聖剣のようなもので防せがれた。
「晴輝! 私が毒を入れるから晴輝は引き付けてて!」
「了解!」
陽夏が少し下がり、俺が1人でその女の人へと攻撃をする。
これで攻撃が俺に向くはずだ。
そして俺が攻撃を受けている隙に陽夏が攻撃をすればいい。
そう思っていた。
だが、そこで不思議なことが起こった。
俺は何度も何度も攻撃を繰り返している。
なのに、何故か聖剣のようなものを持った女の人はなんの反撃もしてこないのだ。
ただただ柔らかな笑みを浮かべながら俺の攻撃を防いでいるの。
…………駄目だ、俺にはできない。
俺は黒鉄を鞘に収める。
後ろから陽夏の声が聞こえるがそれは無視してその女の人に歩み寄る。
自然と頬に涙が流れる。
何故かは分からない。
何故かは分からないのだが、俺にはこの人が…………いや、この子が敵には見えない。
俺は少しづつ小さくなっていくその子の頭を撫でる。
手慣れた仕草でその子を撫でると、その子は嬉しそうに笑った。
その顔を見るだけで、何故か俺は幸せな気持ちになった。
その子は俺に何かを呟いた。
言葉の意味は分からないが、何故かもういいよも言ったような気がした。
俺はその子の頭を撫でたまま呟いた。
【夢食】
【スキル《夢食LV3》を入手しました】
【スキル《鬼剣術LV3》を入手しました】
【スキル《魅惑LV2》を入手しました】
【スキル《魅惑LV3》を入手しました】
【スキル《魅惑LV4》を入手しました】
その女の子が消え去ると共に少しづつ俺は正気に戻って行った。
「晴輝! どうしたの!?」
陽夏が俺に駆け寄る。
「…………あ、あぁ、陽夏か、どうしたのだ?」
「それはこっちのセリフなんだけど…………あなた今自分が何やってたか分かってる?」
俺は陽夏の言葉にはっとさせられる。
そうだ、俺は何てことをしてたんだ。
あんなの下手したらそのまま首を切られて回復も間に合わずに滅多刺しにされて終わりだ。
あんな危険な事をやるなんてやっぱり俺の頭は変になっているのだろうか。
けど、何だかあの時はあの人が敵には見えなかったんだ。
それに、何故かすっごいちっちゃくなった。
あの姿は何故か見覚えがある。
あの姿は確か…………だめだ、思い出せない。
とにかく、何故やったのかは分からないが、危険な事をしてしまったのに変わりは無い。
気をつけなくては。
「その感じだと晴輝の意思でやったわけじゃ無さそうね…………。じゃあまぁいいわ。なんでこんなことが起こったのかは分からないけど、ダンジョンなんて分からないことだらけだし、探索して探していきましょ!」
「あぁ、そうだな。」
まぁ、ここで俺が考えに考えたところでなぜやってしまったのかの答えなど出るとは思えない。
それならさっさと進んだ方がいいな。
「その前にっと。」
陽夏は自分の刀を聖剣のようなものに突き刺し、吸収する。
陽夏は何故かこれで強くなれるし、これはかなり大事な事だ。
頑張って女の人を倒しても何も無いって言うんじゃモチベーションも上がらないが、強くなれるっていうだけでもモチベーションは上がる。
これが終わればもうこの部屋に用は無い。
先に進もう。
俺は階段へ向かって歩き始める。
しかし、何故か陽夏は立ち止まったままだ。
「何やってるんだ?」
「…………。」
問いかけても陽夏は反応をしない。
「陽夏?」
「…………。」
一瞬ただぼーっとしているだけかと思ったが、違うようだ。
いくら呼びかけても陽夏は反応をしない。
心配になって俺は陽夏を治す。
どこにも怪我はしていないみたいだが、何故か脳が凄く疲れているようだった。
とりあえずその疲れを治す。
すると、陽夏の目に生気が宿る。
「おーい、陽夏、大丈夫か?」
「え…………お兄ちゃん?」
「え?」
え、なんで俺は陽夏にお兄ちゃんって呼ばれたんだ?
本当にちょっとよく分からない。
俺が混乱していると、陽夏はハッとした様な素振りを見せた。
「あっ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた! 今ちょっと変なこと言ってたでしょ? えっとね、あれは…………そう、お兄ちゃんの事を考えていたの!」
「お兄ちゃん? 陽夏お兄ちゃんなんかいたのか?」
「ええっと、そう、そうよ、お兄ちゃん居たわ。」
「そうなのか…………。」
お兄ちゃんの事を考えてぼーっとしていだからといって普通目の前に居る人をお兄ちゃんと見間違えるか?
ひょっとして陽夏って相当なブラコンなのか?
俺はそう思うが、それは胸の奥に閉まっておいた。
「ま、とりあえず行こうぜ。」
「そ、そうね、行きましょ行きましょ!」
陽夏は少し様子が変だったが、気にせずに階段を登っていった。
0
お気に入りに追加
629
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる