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66話 膝枕?
しおりを挟むその後のダンジョン攻略は驚く程スムーズに進んでいった。
盾を持ったとはいえゴブリン自身の強さはそこまで変わっていない。
数も殆ど一緒のため、下の階と戦うペースは変わっていない。
しかし、下の階では走っていたのに対して今は小走り程度に速度を落として体力が切れてしまうのを防いでるため速度は落ちてしまっているが、いいペースに変わりは無い。
「晴輝ー、お腹減ったー。」
「そうか、じゃあ一旦休憩するか。」
陽夏は俺のようにご飯を食べなくていいスキルや寝なくてもいいスキルなんか持っていないため、定期的に休憩が必要だ。
俺は持っていた鞄から缶詰を出して陽夏にあげた。
「何これ…………。」
「何って缶詰だが?」
陽夏があまりにも微妙な顔をするため俺もその缶詰を見た。
何だこの缶ずめ、たこ焼き?
初めて見た缶詰だ。
最近はこんな缶詰もあるんだな…………。
陽夏はうーんと言いながらも結局缶詰を開け、たこ焼きを食べていた。
「なっ、何これ美味しい! 普通のたこ焼きと変わんないじゃない!」
陽夏はびっくりしてパクパクと食べていた。
そんなに美味しいなら俺も…………。
俺は鞄からもう一個缶詰を出して食べようとした。
「…………。」
陽夏がこっちを見つめている。
なんだよ、食べちゃダメだって言うのかよ。
まぁ、確かに俺は飯を食べる必要は無い。
それでも美味しそうなものは美味しそうなものなのだ。
俺だって食べたいに決まってるだろ?
陽夏のジト目をかいくぐりつつ、俺は缶詰に手をかけた。
しかし、そこで陽夏が一言言い放った。
「…………太るわよ?」
くっ、その言葉は俺に響くっ!今の俺は痩せているが、昔はものすごく太っていた。
その当時はそこまできにしないようにしていたが、痩せてしまっては話は別だ。
またあの頃に戻るなんか絶対に嫌だ。
俺は黙って缶詰を鞄にしまった。
缶詰を2個ほど食べた陽夏は大きなあくびをした。
「…………何よ。」
「いや、何でもない。少し眠るか?」
「うん。」
陽夏は大きなあくびを見られたからか顔を少し赤くしながら寝転がった。
さて、俺は周りを警戒してるか。
そう思い、陽夏の近くで周りを見渡すが、そのうちに陽夏がこっちへやってきた。
「座って。」
陽夏はいきなり俺にそういった。
「どういうこと?」
「いいから座って!」
「お、おう。」
俺はとりあえず陽夏の言う通りに座った。
なんで俺は座らされたんだ?
周りを警戒するには立っていた方がいいんだが…………。
そうこうしていると、陽夏は俺の太ももに頭を乗っけた。
「え、何やってるんだ?」
「膝枕よ、膝枕。見たらわかるでしょ?」
「いや、それは分かるんだが…………。」
俺が知りたいのはその行為の事ではなく、なぜそんなことをしているかなんだが…………。
「その…………この硬い床だと寝にくくて、膝枕してもらおうと思ったの。この前私もやってあげたし…………ダメ?」
そう言って陽夏は上目遣いでこちらを見てきた。
ま膝枕をしているという状態のため嫌でも上目遣いにはなるのだが、それでも陽夏がやると何だがあざと可愛い感じがする。
それにこの前膝枕をしてくれた事も考えると断りにくい。
「分かった。けど、ゴブリンとかが来たらすぐそっちにいくからな。」
「分かった、ありがとう!」
そう言って陽夏は目を瞑った。
陽夏はその後気持ちよさそうに眠りについたが、俺は平常心を保つ為に常に気を張っていたため、かなり疲れた。
いくら俺を信頼しているからとはいえここまで俺みたいなおっさんの前で無防備な姿を晒すのはどうかと思うけどな…………。
まぁ、俺には陽夏に何かをする勇気もやる気も無いから良いんだけどな。
俺はそのまま陽夏が起きるのを、周囲を警戒しながら待った。
◇◇◇◇
起きた陽夏は恥ずかしそうに昨日の事を謝ってきた。
「ごめんなさい、昨日はちょっと眠くなって判断力が鈍っていて…………。」
「いや、全然大丈夫、それよりしっかり寝れたか?」
結局昨日はゴブリンも出なかったため特に疲れたりはしなかった。
だから俺よりも陽夏の体力が回復してくれた方が絶対的にいい事だ。
「えぇ、お陰様でスッキリしたから、今日の攻略も頑張れそうよ!」
「それは良かった。じゃあ、出発するか。」
「ちょっと待って。」
そういうと陽夏は鞄をゴソゴソと探った。
やや経って陽夏は昨日のたこ焼きの缶詰を取り出していた。
そうか、俺はもうずっと朝ごはんなんか食べていなかったから忘れていたが、朝ごはんも必要だよな。
陽夏はあのたこ焼きの缶詰を気に入ったのか、またそれを食べている。
そして、陽夏がご飯を食べ終わるとやっと出発する事にした。
ご飯を食べた陽夏はこころなしか昨日よりもゴブリンを倒す速度が早くなった気がした。
そうして何時間か上へ上へと進んで行った。
「あ、あっちにあるぞ!」
俺は階段を見つけて陽夏に向かって叫んだ。
今回の階段は少し遠くにあり、探すのに時間がかかった。
「やっとね…………。」
俺達はそのままなんの警戒もせずに階段を登っていった。
次はまた新しい迷路が広がっている。
俺達はそう思って階段を登ったのだが、それは間違いだった。
「っ!?」
そこには大量のゴブリンが居た。
俺は陽夏の手を引き階段を駆け下りる。
間違いない。あそこはあの女の人が居た場所だ。
あそこにそのまま進めば危険だ。
とりあえず俺達は今来た道を引き返した。
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