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55話 膝枕
しおりを挟む俺は教会のような場所に居た。
見覚えは無いはずだが、なぜだか見覚えがあるような気がする。
体を動かそうとするが、何故か自由に動かない。
まるで誰かの視界を観ているかのような感覚だ。
今俺は書類のような物に何かを書いているようだ。
謎の言語で書いてある為、内容は分からないが、かなりの量があり大変そうだ。
キイイと音を立てて扉が開き、小柄な女の子が入ってくる。
少し見覚えのあるような女の子だ。
女の子はトテトテとこちらに走ってきて、俺に抱き着いてきた。
俺はその子の頭を優しく撫でた。
とても不思議な感覚だ。だが、何故かとても幸せで懐かしい感じがする。
ーーーーーーーーーー
「っ!?」
俺は頭痛と共に目覚めた。
どうやら俺は寝てしまっていたらしい。
んーと、俺は何をして…………。
「お、おはよう…………。」
「あぁ、おはよう。」
そういえばこんな風に人と挨拶を交わすの何時ぶりだろうか。
引きこもっていたら人と会う機会などないので、こうやって挨拶を交わすなどしてこなかった。
俺は久々の感覚に胸を熱くしつつ、声の主の方を向いた。
「…………え?」
何とそこには赤面した陽夏の顔があった。
そこまでならまだ良いのだが、この俺が陽夏の顔の角度がおかしい。
この角度はまるで…………。
「…………お、起きたんだったら早く避けなさいよ。」
「ごっ、ごめん!」
俺は勢いよく飛び起きた。
そうか、思い出したぞ。
俺達は謎の女の人と戦っていて、それで俺が捨て身であの女の人を抑えつけたんだった。
だけど、思った以上の反撃を受けて俺は気絶、そして今の状態に至るというわけだ。
うん。意味が分からない。
だからと言って陽夏が膝枕をすると言う結果に至るビジョンが見えない。
「な、なんでこんな体制になったのか教えてくれないかい? 場合によっては腹かっさばいて謝るからさ。」
俺は冷や汗を垂らしながら聞いた。
もしかしたら俺が無意識のうちに陽夏に迫っていって無理やり膝枕をさせた可能性もある。
そうなのだったら切腹ものの罪だ。
まぁ、俺は死ぬ気は無いがスキルで治るとしてもかなりの痛みを受ける位の誠意は見せなければいけないだろう。
「ちょっと何言ってるのか分かんないけど、あなたがあの女の人を倒してくれたんだし、1番の功労者であるあなたを地べたに転がしておくのは悪いなって思ったからやってあげたのよ。別に変な意味は無いわ!」
「いや、あの女の人を倒したのは陽夏だろ? 俺は抑えていただけだしな。」
直接見た訳では無いが、あの女の人にトドメを刺したのは陽夏なはずだ。
それからの事は気絶してしまっていたため分からないが、少なくとも今回の戦いでの一番の功労者は陽夏のはずだ。
「いやいやいや、確かに私は首を落とす所までは出来たけど、それ以降は晴輝がやったでしょ? 私がやったのは一撃入れただけだけど、晴輝はそれ以外の全部をやってたじゃない。だからあの女の人はあなたが倒したみたいなものよ。」
どういうことだ? 話が噛み合わない。
「それ以降は気絶していたし、俺は何もして無いぞ?」
「ん? 気絶してた?」
陽夏は不思議そうな顔をした。
いや、不思議なのはこっちなのだが。
「ええっと、もしかして晴輝は首を切られたあとの記憶って無かったりする?」
「え? 俺首切られたの?」
「え? うん。」
ちょっと待って初耳なんですけど。
そうか、あの意識が無くなった瞬間ってのは俺が陽夏に首を切られた瞬間だったって訳か…………。
いや、よく俺生きてたな。
とうとう俺も人間じゃ無くなってきてるな…………。
俺が複雑な気持ちになっていると、陽夏は少し焦った様子で俺から少し距離を取った。
「ちょ、ちょっと待っててね!」
そう言うと陽夏は額に指を当てて何かブツブツ言い始めた。
しばらくして、考えがまとまったのかスッキリした顔でこっちに戻ってきた。
「えっと、確認なんだけど、晴輝は私に首を切られたあと…………というかあの女の人を抑えてる時に意識を失った時からさっき起きるまでの記憶は無いって事でいい?」
「あぁ、気絶していたし記憶なんてないぞ?」
俺がそう言った瞬間、陽夏はずいっとこっちに寄ってきた。
「じゃ、じゃあ! 私がその間に話した事とか、やった事とかは何一つ覚えていないって事でいいよね!?」
「えっと…………。」
「いいよね!?」
「お、おう。」
陽夏の圧が強すぎて思わず返事をしてしまった。
まぁ、別に記憶なんて当然無いし、間違った事は言ってないけどな。
というかあれだけ確認するって…………陽夏は俺に何をやったんだ?
俺は非常に気になったが、少し怖くなったのでグッと飲み込んで聞かない事にした。
返事を聞いた陽夏は安心したようでがっかりしたような顔をした。
「分かった。じゃあ今から晴輝が気絶してきた時に起きた事の話をするね。」
気絶していた時のこと…………?
気絶していた時はあのまま俺はぶっ倒れて、それで陽夏が膝枕をして起きるまで介抱してくれていたのじゃないのか?
俺は頭にクエスチョンマークを浮かべつつも、陽夏の話を聞くことにした。
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