上 下
47 / 214

48話 快治

しおりを挟む

 家に戻った俺は早速箱を開け始めた。

 自分に治癒をかけながらだ。


 前まですぐに空いていた箱が今では酷く時間がかかるように感じる。

 すぐに開けなければという意識がそれを起こしているのだろう。


「早く開けよ!」


 箱を開ける手に力が入る。

 かなりの力をかけてもビクともしないその箱にイラつきながらも、黙々と箱を開け続ける。


【スキル《治癒LV2》を入手しました】


 俺はその声を気にもとめずに箱を開け続ける。


 少しでも早く。


 少しでも早く。


 ただその一心で箱を開け続ける。


【スキル《治癒LV10》を入手しました】

【スキル《治癒LV10》がスキル《完治LV1》に昇格しました】


 どのくらいだっただろうか。

 かなりの時間が経った。


 俺は特に気にすることも無いと思い、また箱を開け始めようとした所で違和感に気づいた。


 治癒が掛からないのだ。


 まさか。


 俺はある事を思いつき、腕を思いっきり噛んだ。

 《金剛力》は顎力も向上させてくれるのか、俺の腕にはかなり深い噛み傷がついた。


【完治】


 俺は全身に完治をかけた。


「はぁ…………やっぱりか。」


 ため息をつきながら思考を巡らせる。

 今の検証で分かったことは、《完治》は少しでも傷が無いと使えないという事だ。


 これはかなり面倒くさい。


 何故なら、今までなら治癒を掛けながら箱を開けることが出来たが、今は1度傷を付けなくてはならないのだ。

 いちいち傷を付けるたびに手を止めていては非常に効率が悪い。


「くそっ!」


 俺は高く積まれた箱を蹴り飛ばす。

 がらがらと音を立てて空き箱たちが崩れていく。


「なんでこんなに上手く行かないんだよ! 俺は……俺は選ばれた人間なんじゃ無いのか!?」


 なんでこんなに…………。


 そうか、忘れてたよ。

 俺はにはなれないんだったな。

 だったら…………だったら出来ることをやるまでだ。

 あの時の二の舞には絶対にしない。


 俺は舌打ちをして、家を見回す。


 俺の目に着いたのはガスコンロだ。ガスコンロは屋外のプロパンガスを使っているから電気などが止まった今だとしても使える。


 チチチチチ


 何も乗っていない為か、火がつかない。

 コンロの真ん中の凹む場所を押してみると、火がついた。


「よし、これなら…………!」


 俺は思い切ってコンロの上に乗っかる。


「あっつ!」


 あまりの熱さにすぐさま離れてしまう。

 だが、我慢しなくてはならないだろう。

 コンロなら継続的に俺の体を傷つけてくれる。そうすると俺は完治をかけ続けられる。
 

 俺は痛みに耐えながら箱を開けた。


【スキル《完治LV10》を入手しました】

【スキル《完治LV10》がスキル《快治LV1》に昇格しました】


 2回目の昇格だ。

 その間に完全再生のレベルも何レベルか上がった。


 快治。コナーからは聞かなかった言葉だ。

 これならと似たような事が出来るんじゃないか?


 俺はすぐさま家を出た。


 本当はこれで蘇生をできるとは思っていないが、少しでも状態を良くしておきたい。


 そこら中に溢れるゴブリンたちは気にとめずに俺は走り出した。



 ◇◇◇◇



 ホテル街に入ろうとすると、夥しい数のゴブリンが待ち構えていた。

 来る際に居たゴブリンも少し多いとは思っていたが、今俺を立ち阻んでいるのはもっと多い数のゴブリン達たった。

 この前戦ったえぐい数のゴブリン達よりも更に多い。


「なんだよこれ!」


 まさか、この前の時のようなことがまた起こったのか!?


 俺はとりあえずゴブリンを倒し始めた。


 スキルのレベルがあがったおかげか、ゴブリンが弱く感じる。

 ほぼほとんどのゴブリンが1発で倒れていく。

 しかも、少し攻撃をくらったりしてもほとんどダメージにならないし、すぐに回復出来てしまう。

 しかし、数が多すぎて、半数ほどまで減らすのに五分ほどかかってしまった。


 俺は、苛立ちつつも先へと進んだ。


 
 すぐに俺の目に入ってきたのは…………何人もの倒れた人達だった。


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄るが、既に息をしていなかった。

 一応快治をかけてみるが、体の傷が無くなるだけで息を吹き返すことは無かった。


 これで快治に蘇生効果が無いことが分かってしまったが、このまま帰る訳にも行かないので急いで先に進む。

 何かあってゆうちゃんに被害が出てしまうといけないからな。


 途中に何体ものゴブリンやウルフに出会ったが、瞬殺して進んでいく。


 進んでも進んでも生きている人間に出会わない。

 嫌な予感しかしない。


 ゆうちゃんの所に向かう為に防衛者組合へと向かうと、大きな音が聞こえてきた。


 少し不謹慎かも知れないが、俺は喜んだ。

 なぜなら生きてる人に1回も合わなかったため、全滅してしまった事も視野に入れて考えていたからだ大きな音がなっているという事は、ちょうど今戦っているということだ。


 ならば、俺が今やるべき事は助太刀をする事だろう。


 俺は急いで防衛者組合へと向かった。


 
 防衛者組合につくと、そこらじゅうにウルフやゴブリンが集まっていた。


 やっぱりここに人が集まっているようだ。


 俺は俺に気が付いていないモンスターどもをばっさばっさと切って行った。

 ちょっと、気持ちいい。


 モンスターどもは興奮しているのか、こちらには見向きもせずに防衛者組合に群がっているので、俺は楽にその数を減らせた。


 やっと防衛者組合の入口が見えてきた頃、誰かが俺の名前を呼んだ。


「あっ、晴輝じゃない!」

「げっ。」


 
 俺に声をかけてきたのは、身体中をボロボロにした陽夏だった。


「あんたその力…………。まぁ、いいわ。先に防衛者組合の中に入って! 負傷者が沢山いるの!」

「分かった!」


 陽夏には箱の事を話していないため、この強さは不自然だったのだろう。

 普通の時なら詰め寄られている所だろうが、あいにく今は非常事態。こんな時にまで詰め寄るほど陽夏も馬鹿ではない。

 
 俺は陽夏の指示通りに防衛者組合の中に入る。


 だが、その前に。


【快治】


 ボロボロだった陽夏と、その周りでモンスターを押さえつけていたおっさん達に回復をかけておいた。


「やっぱりあんた何か隠してるわね…………。まぁ、いいわ! 早く行って!」

「へいへい。」


 俺は陽夏に何か言われる前にさっさと負傷者の元へ向かった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...