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放課後の河川敷

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放課後の鐘が虚しく鳴り響くと、教室は瞬く間に無音の世界に変わった。机や椅子が整然と並ぶ無人の空間には、微かな埃の香りが漂い、沈鬱な静けさが染み込んでいた。教室の片隅に立つひとりの少女、紗良(さら)は、窓辺に視線を向けていた。外の景色は陰鬱な夕暮れに染まり、寂寥感が漂っていた。彼女の心もまた、日々の雑踏から解放される瞬間を求めていた。

鞄を肩にかけ、紗良はゆっくりと校舎を後にした。彼女の足取りは自然と河川敷へと向かっていた。そこは彼女にとって、逃避の場所であり、孤独を噛みしめる場所でもあった。風に揺れる木々や、静かに流れる川の音が、彼女の心を包み込むように響いていた。

河川敷に辿り着くと、紗良はいつものように、大きな柳の木の下に腰を下ろした。夕暮れの空が鈍色に染まり、川面がその陰鬱な光を反射して沈んでいた。彼女は体育座りをして、膝を抱え込み、静かに目を閉じた。川のせせらぎと風の音が、彼女の思考を沈黙の中に押しやった。

彼女の心の中には、解き放たれたい思いが渦巻いていた。学校生活の葛藤や友人関係の悩み、そして未来への不安が、彼女の胸を重く圧していた。言葉にすることのできない感情が、彼女の内側で静かに燃えていた。

紗良は自然と呼吸を整え、静かな空気を肺いっぱいに吸い込んだ。しかし、座った瞬間、彼女のスカートが冷たく湿った感触に包まれるのを感じた。ひんやりとした冷気が、彼女の肌を通じてじわりと伝わってきたが、その感覚を気に留めることはなかった。紗良はただ、自分自身の思考に没頭していた。

彼女のスカートは紺、黄色、赤、緑色のきめ細やかなチェック柄のプリーツスカートだった。その細かな模様が彼女の制服に生気を与えていたが、今はその美しい模様が泥で汚れていく様子が、彼女の心を映し出しているようだった。



時間が経つにつれ、スカートの冷たさが次第に広がり、湿り気が染み込んでいくのを感じた。見下ろすと、スカートの裾が地面に広がり、その部分がじっとりと濡れていた。泥がチェック柄の布地に吸い込まれるように広がり、暗いシミが次第に大きくなっていった。細かなチェック柄の上に泥がじわりじわりと染み渡り、紺色の部分は特に目立つ泥色に染まっていった。黄色や赤、緑の色彩も泥の影響でその鮮やかさを失い、鈍くくすんだ色合いになっていった。

泥は、彼女のスカートをまるで侵食するようにじわじわと広がっていった。最初は細かなチェック柄の中に小さな斑点が現れ、それが次第に広がり、布地全体を覆い尽くしていった。泥が染み込むごとに、チェック柄のラインがぼやけ、色彩が曇っていく。かつての鮮やかなプリーツスカートは、その美しさを失い、ただのくすんだ布切れに変わりつつあった。

彼女はそれを見ても動じることなく、ただ静かに深呼吸を繰り返した。自然の中で感じる風と川の音が、彼女の心を浄化してくれるようだったが、その効果も一時的なものでしかなかった。紗良はその場にしばらく座り続け、自分自身と向き合う時間を過ごした。彼女の心には、少しの平穏と、それ以上の虚無が広がっていった。

夕陽がゆっくりと沈みかける頃、紗良は立ち上がり、泥だらけのスカートを軽く払って家路についた。彼女の心には、今日の出来事が重く沈んでいた。この放課後の河川敷でのひとときが、彼女にとって何かを変えることはないだろう。未来への希望も、特別な決意もない。ただ、沈んだ心を抱えたまま、いつも通りの日常に戻るだけだった。

河川敷を後にする紗良の背中には、どこかしら重苦しい影が見え隠れしていた。彼女は、自分自身の内なる声に耳を傾け、その先にある未来を見据えようとはしなかった。暗闇の中でただ漂うように、無目的な一歩を踏み出していった。
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