13 / 18
世界一のクズ
しおりを挟む勇者たち一向が来るまで、俺たちはいつもと変わらない日々を過ごした。
ドワーフ達は木を伐採したりまた新しく小屋を建てたり、俺たちはそれぞれ作物を育てたり、山菜を採ったり、狩りをしたり。
ちなみにメルの家から送られてきた装備品が届いたものの、わざわざ重装備を身に付けて戦うような場面もなかった為まだ身につけてはいない。正直な話、見た目はそんなに高そうにも見えない。ところどころ錆びついた灰色の装備品。竜の翼セットと言うだけあって、鎧にも兜にも剣にも、薄らと竜の翼の絵が描かれていた。
ディアナと俺は一切会話をすることはなかったけど、ディアナの方は俺に話しかけたいようだった。
ガキくさいかもしれないけど、ディアナの話を戯言だと思っている俺からすればディアナの存在は鬱陶しかった。
勇者一向が来た時には、ディアナが戯言を吐かないように見張っておかないといけないな‥。間違いなくその場で首を斬られるだろうし。
でも俺はナイアの姉ちゃんに詰め寄らなきゃならないから、ディアナを見張るのはトマスあたりに任せるか‥。
ーーーメルは、久々に勇者と再会ができて嬉しいだろうな。このまま勇者と離れたくない、とここから去ってしまうかもしれない。実際、メルの能力は素晴らしい。勇者について行ったら、間違いなく支えになるだろう。
チリッ、と心が痛んだ。メルがいずれここから居なくなることは分かっていたくせに、案外ダメージは大きいらしい。勇者の側にいることがメルの幸せなのだから、俺はメル達にとって邪魔者でしかないというのに。
ーー心に少しの影を抱えたまま、日々は過ぎて行った。
「ったく、何で俺様がわざわざ来てやらなきゃいけねぇんだよ!!!」
ある朝、早朝に響き渡った声で目が覚めた。相当に苛立っている、怒号のような声。
「‥‥なんでしょうか‥‥」
トマスも起き上がって目を擦る中、俺は小屋の扉を開けて外に出た。
朝日を浴びて煌々と光る金の髪の男。どうやらこの男が喚き散らした張本人のようだ。両サイドには乳が溢れそうな服を着た若い女がこの男と腕を絡ませている。
その後ろにはクールそうな青い髪の男がいて、青い髪の男の隣にはナイアにそっくりな長髪の女がいた。
全員で5人。‥まさかと思うが、勇者パーティーじゃないよな‥?
「オメェまさかレグノかぁ??偽物の分際で勇者様をこき使いやがってぶっ殺すぞテメェ!!!」
まじかよ。勇者、輩じゃねぇか。
「そーよー!勇者様、お疲れぴょんなんだからー!」
「あたい達とのイチャイチャタイム削ってわざわざ来たのよぉ!感謝しなさいよねぇ!」
勇者の両サイドがピンク色のヤジを飛ばしてくる。
というか‥‥なんだろう、この脱力感。そもそも勇者を一切信仰していなかった俺にとってどうでもいい話なんだが、こんな俺でもガッカリする。正直こんな男にメルは全く似合わない。メルが勿体無さすぎる。つーか嫁がいるのに両サイドに女抱えて旅するなよ‥。ここにメルがいるのも分かっててイチャイチャしてるなよ!!
「‥‥いっつもそんな感じなんですか?」
俺の口から出てきた言葉はこれだった。勇者に引きすぎて溢れてしまった台詞。
「あぁん?!?!?!うっせーぞテメェ!とっとと魔道士寄越せやぁ!!」
誰がこんな奴にナイアを差し出すかよ。
「うちにいる魔道士は、オタクの魔道士さんに魔力を乱されたせいで魔法が使えないんで、まず直してもらっていいですかね」
「あぁ?!くそ使えねぇな!!!!とっととやれマカナ!!」
マカナというのがナイアの姉ちゃんらしい。マカナは勇者に頭を下げると小走りでこちらへ来た。どうやら勇者には逆らえないようだ。
ナイアを呼ぼうとして振り返ったが、勇者の馬鹿みたいな声で皆起きてしまったらしく、俺の元へぞろぞろと集まってきた。
「ナイア‥」
ナイアに呼び掛けた時、ダダが突然走り出した。
「ダダ?!」
「「ダダ様!!」」
ダダは殺気に満ちた表情のまま、青い髪の男の元へと一直線に走って行った。
もしかして‥。ドワーフの里を壊滅させた青い髪の男というのは‥こいつのことなのか?
青い髪の男に向かって近距離で魔法を放とうとしたダダは、何かに弾かれるようにして宙を舞った。そんなダダのことを双子のドワーフ達が見事キャッチする。
「返せ!!ドワーフの民を‥、虹の宝剣を、返せぇぇ!!!」
勇者の腰に下げられていた剣の柄は虹色だった。
‥まさか。勇者に装備させる為に里を滅ぼしたのか‥?
「これも勇者の為、つまり世界を救う為‥。尊い犠牲でしたね」
青い髪の男は糸目を愉快そうに歪ませてニンマリと笑った。極悪人だ。とても世界を救うための旅をしているとは思えない。
「仕方ねぇだろぉが!!そこの!女が!!!使えねぇ装備品を用意してきたんだからよぉ!!!」
勇者は間違いなくメルを指差していた。
メルの表情は無だった。こんなメルの表情、見たことがない‥。
「‥おい勇者、お前いい加減にしろよ。何様なんだよ」
勇者なんかと絡むなんて絶対に嫌だったけど、もうこれは絡まざるおえないだろ。虫唾が走って仕方がない。自分よりもここまでカスな奴見たことないぞ。
「あぁん?!?!俺は王子様であり勇者様なんだよ!!お前みたいな害虫とはちげぇんだよ!!!てめぇはひとりで死んどけボケェ!!!」
相手にするのも馬鹿馬鹿しくなるほどのカス。いっそ清々しい。確かに王子様であり勇者様だな、そんでこの世でいちばんの愚か者。
メルが無言のまま近づいて行った。勇者の両サイドの女たちが頬を膨らましているのがまた腹が立つ。
「なんだ、お前も俺と乳繰り合ーーー」
メルの足が一瞬で高く上がったかと思いきや、勇者がいつのまにか地面に伏していた。まさか、と思うが‥メル、お前‥魔物滅殺用の殺人ブーツで踵落としを‥‥?
「‥‥おま、いいのかよ‥相手勇者だぞ?確かに清々しい程カスだったけど」
「ーーいいのです。もしも彼が本当に勇者ならば、道を正すのも私の務めですから」
勇者は頭から血を流しながらぴくぴくと小さく痙攣していた。息はある。だが、一応こいつ王子なんだろ‥。なんかとんでもなくやばい展開なんじゃ‥?
しかも“もしも彼が本当に勇者ならば”って‥。残念ながらこのしょうもないクズが勇者なんだってば。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる