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第18話 ロン、殺されかける

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 武術大会は最終学年に進級する直前に行われた行事だった。あれから数日後、今日は久しぶりの登校日。今日から俺たちはこの貴族学校の9年生だ。
 9年生は通常だと18歳になる歳。家業の一端を担っている生徒も多く、6年生以降は家業と折り合いをつけながらの登校が許されている。つまり、最低限の出席日数でも単位が取れるのだ。

 貴族の女性は早くに結婚する人も多いのだが、ここ数年で認められるようになった女性の教育環境の改善により、卒業を待ってから結婚する人も多くなった。
 その女性の教育環境の改善というのはジェシーの父である叔父さんが筆頭となって推し進めてきた施策。その為ジェシーはある種、世の中の未来あるご令嬢たちの見本となる存在だったりする。

 一方ひとり息子の俺はもちろん自身の領土の勉強を幼い頃からやってきた。今では父の仕事を手伝ったりもしてる。

 だけど世の中のご令嬢たちの見本であるジェシーが、休まずに毎日学校に通うのなら俺だって一緒に通うしかない。

 なにせ今年度は‥やっと、やっと!!!
ジェシーと同じクラスになったんだから!!!9年目にしてやっとだ!!このまま同じクラスにならなければ学校を訴えてしまうところだった。

「いやぁ、ご機嫌だね。この1年間はロンの新たな顔を沢山見れるわけだね!」

 見慣れすぎた、波打つオレンジの髪。
エド‥どうしてお前とはこんなにも高確率で同じクラスになるんだよ!!

「‥俺の顔を見るより教本を見るべきじゃない?エド、進路決まってないでしょ」

 大神官の息子でありながら神官の素質がなかったエド。かといってこいつは武術の腕に自信があるわけでもないから騎士にも向いてない。

「俺成績いいから大丈夫だもーーーん」

 へらへらとエドは緩く笑った。釣られて思わず俺の顔も緩くなる。これは生理現象のようなもので、こいつの間抜けな顔を見ると余計な力がふっと抜けてしまうのだ。

「ぎゃああっ、ロ、ロン様が優しい顔してるわっ」
「しーっ!!睨まれるよ!!睨まれたいけど!!嫌われちゃうから静かにっ!!!」
「私は‥エドくんに癒されて溶けちゃう‥なにあの子犬顔。反則でしょ‥うちに婿に来てくれないかしら‥」

 教室の隅から聞こえたそんな声。がっつり壁を作って冷たくして9年目。よくもまぁ飽きずに騒ぐよなぁ‥。いつのまにかロンくんからロン様に変わってるし‥

「貴女たち!ロンくんのことをキャーキャー言ったらジェシーが複雑な想いをするじゃないの!!」

 そんな大きい声を出しているのはなんとサラだ。この数年で、いつのまにかジェシーとサラは友だちになったらしい。

 なんでもサラに婚約者ができて、その婚約者のことをジェシーに自慢しているうちに2人は打ち解けるようになっていったらしい。

 本当、何が起こるかわからないもんだな‥。

「ありがとうサラ。でも大丈夫だよ。みんなだって目の保養とか、そういう意味合いでロンを好いてくれてるんだもん。だから私のことなんて気にしないで」

「ジェシカ嬢‥(羨ましい‥)」
「ありがとうございます‥(羨ましい‥)」
「でも、少々大人しくなりますわ。煩くしてしまい申し訳ありません(羨ましい‥)」

「あら随分余裕たっぷりなのね?ジェシー!!」

「そういうわけじゃ‥」

 こればっかりはサラの言う通りだ‥。俺は今まで、ジェシーに男が寄ってこないように裏で散々男たちを威嚇してきた。ずっとジェシーに恋をし続けていた俺とジェシーとでは、そりゃ同性への警戒度合いが違うのは当たり前だけど‥。

 そもそも俺はジェシーに無駄な心配を掛けたくないから、ジェシーが妬くような展開なんて起こさせないけど(妬いてくれるかどうかは別として)、もう少し俺に対して興味を持ってくれないかな‥。欲を言えば、独占欲というかなんというか‥。

 まぁこれが“今の段階”ってことだよな‥。クラスメイトってのを利用してもっともっとアピールして、絶対今よりも好感度上げてやる。あわよくば惚れさせてやる‥‥!!

 俺が表情を一切崩さないまま腹の中で決意表明を終えた時、ジェシーとぱっちり目が合った。

 かわいい。

 すぐさま逸らしたくなったが、敢えて我慢した。目を逸らさずにジェシーを見ていると、真横に結ばれていた果実のような唇が微かに動き出した。

 白い肌が、ほんのり紅潮してる。‥かわいい。ジェシー、なんか焦ってるのか‥?眉間に皺が寄り始めているし、左右の指を絡めてもじもじしてる。

「‥‥余裕たっぷりとか、じゃなくて‥その‥‥。‥ロンが私のこと大切に想ってくれてて‥‥一途でいてくれてること、分かってるから。‥私、ロンのこと心から信じてるんだ」

 ーーーーーーーーーーーーーは?殺す気?

 え、なんなの。やばいんですけど。は?かわいい。待って理解が追いつかないんですけど。何この子、神なの?女神なの?

「ジェシーちゃん!ロン、すっげぇクールな顔したまま死んでるよ!あはは!うける!!」

 エドが何か騒いでいたけど、なんて言っているのか全く聞き取れなかった。

 この日分かったことは2つ。
ひとつ目は、ジェシーと同じクラスなのが最高すぎるってこと。ふたつ目は、日々進化しているのは俺だけじゃなくジェシーもだってこと。

 俺の意識が遠のいたのは朝だった筈なのに気付いたら昼休みが終わっていた。ジェシーの爆弾の威力が半端ない。

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