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第1章
6話
しおりを挟む私は今バージル様がお仕事をする部屋にいた。側近のリュカという男の人と、バージル様と私の3人だけがいる部屋。
マリアとユリアは部屋の外にいるんだって。バージル様もリュカも机に向かって一生懸命お仕事してるのに、私はお絵描きしてていいのかなぁ?
「‥ドロシー様、ひと休みなさいますか?」
リュカの言葉に首をぶんぶんと横に振った。リュカは何故か私をドロシー様って呼ぶの。バージル様がリュカをリュカと呼ぶから、私もリュカって呼んでるけど‥リュカはどうして私に様をつけるんだろう。
バージル様はこの広いお屋敷の主人様。沢山人がいるこの屋敷の一番偉い人。私に美味しいご飯を食べさせてくれて、素敵なお部屋を用意してくれて、こうしてお絵かき道具なんかを与えてくれる神様みたいな人。
バージル様みたいな人が様を付けられるなら納得できるんだけど‥。
「そうですか。お疲れの際はいつでも仰って下さいね!お布団をご用意致しますから!!」
リュカはそう言って笑った。
「リュカもバージル様みたいに優しいねぇ」
「え?私ですか?」
「うん。話しかけてくれるし、優しくしてくれるし、みんな神様みたい」
「そ、そんな‥このくらい普通ですよ」
普通‥‥?
「違うよ。ここは天国みたいなんだよ。白くて綺麗で、人がたくさんいて、お話してくれる人がいて、ご飯も沢山食べれて、お布団まであるんだもん!!こんなの普通じゃないよ」
「っ‥‥」
リュカと話していた筈なのに、バージル様が仕事の手を止めて私を見てた。‥‥大きい声で話しすぎちゃったかな。
「ごめんなさい」
「なんで謝る」
リュカはもう口を閉じてて、代わりに言葉を落としたのはバージル様だった。ピリッと空気が凍るような冷たい声。‥本当は神様みたいに優しいのにね。
「セシルが言ってたの。何かあったらすぐに謝りなさいって。私はセシル以外の人を見たことがなかったから謝る機会もなかったんだけどね。一生手足を縛られて生きたくなければ謝るのです、って」
「そんな‥」
リュカが口から溢れでたその言葉にハッとし、口を噤んでいた。バージル様は怖い顔をしたままジッと私を見てた。
「バージル様は私の手足を縛る?」
「‥‥‥いや」
「そうなんだ!やっぱり優しいんだね」
「‥‥‥」
なんだか空気が重くなった気がする。バージル様、やっぱり怒ってる?
「怒った?」
「‥‥‥‥少しな」
「ごめんなさい」
「お前にじゃない。あと謝るな」
「えっ、でも、謝らないと手足がー」
「縛らない。‥‥お前の普通は普通じゃない。ここは天国でもないし俺らは神様でもない。これが普通。お前の元いた場所が普通じゃないんだ」
「‥‥‥‥そっか」
思わず目を見開いたけど、少し納得だった。
私はあれが普通だったけど、セシルは私を可哀想だって言ってたもんね。
そっかー、普通じゃなかったのか。
「よかったぁ‥」
頬が勝手に緩んで、思わずエヘヘと笑ってしまった。
「‥‥なんで笑ってる」
「え?‥だってこれが普通なんでしょ?
みんな優しくて、幸せな世界だね」
そう言って笑うと、バージル様はまた少し怖い顔をしてた。リュカも青い顔のまま。こんなに幸せな生活をしてるんだから、もっと幸せな顔をしてればいいのに。
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