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ほんと世話が焼けるわね!!
しおりを挟むご挨拶を済ませたあと、私ははにかみそうな口元を隠すことで精一杯でした。ジュリアはそんな私をぼうっと見つめております。
私のことばっかり見てないで少しはレックス様に視線を向けなさいよ!
グレン・ペリング伯爵は私たちの5歳上、つまり20歳でございます。レックス様が17歳なので、2人はどういう繋がりなのかと首を傾げているとレックス様が軽く説明してくださいました。
「幼い頃、オレもグレンも元々は別のところで剣術を習ってたんだけど、どっちも筋がよかったみたいで最終的に同じ師匠の元に通うことになってさ」
「では、剣術繋がりのお友達ということですね!」
ええ、私‥前のめりです。当然ですよね、目の前にご褒美がいるのですから。
「そうそう。興味津々だね、アレクサンドラ嬢」
「レ‥‥‥。コホン。」
私は扇子をバチン!と閉じました。なんとか堪えましたがきっとキツイ顔をしていたことでしょう。「レックス様には毛程の興味もありませんけど」なんて言葉が飛び出さなくてホッとしております。「レ」まで出ましたが。ええ。
仮にも公爵家嫡男、そしてペリング伯爵の目の前ですもの。棘は隠さなくてはなりませんね。
「ノーランド侯爵家の美人姉妹がこう並んでいると眼福ですね!お二人とも目に入れても痛くなさそうです」
ペリング伯爵がにこやかに言い放った。目に入れたら痛いに決まってるじゃない‥。一番の年上なのに愛嬌のある笑顔を見せてくるペリング伯爵。くーっ、カッコいいわ!少しアホそう‥と思ったけどやっぱりカッコいい!
「あ、ありがたいお言葉ですわ。おほほほ」
私たちは美術館の入り口へ歩き始めました。レックス様は二歩くらい先を歩いていて、ペリング伯爵と私は談笑していて、そんな私の一歩後ろをジュリアは歩いています。
なんで仮にも婚約者同士の2人が一番離れているのよ。振り返ってジュリアを見ますが、人見知りを発揮しているのか視線は下がったまま。馬車ではあんなには楽しそうにぽわぽわしていた癖に!
ジュリアからアクションをかけるのは無理でしょう。私はさりげなくレックス様に声を掛けました。
「‥レックス様、お姉様はしょっちゅう躓くんですの。宜しければお姉様をエスコートしてくださいます?」
レックス様は笑顔でしたが一瞬の間がありました。
「失礼、ジュリアさんはアレクサンドラ嬢の近くでゆっくり歩みたいのかと思ってたよ」
そう言ってレックス様は立ち止まり、腕を差し出しました。その所作のなんとスムーズなこと。見た目の良さも相まって、優しく微笑むその姿は息を飲むほど綺麗でした。まぁ、見た目は抜群なのよこの人、見た目はね。
ジュリアは困ったように私を見つめてきましたが、差し出された手を無下にすることもできないので、レックス様の腕にソッと手を置いていました。
ふと隣を見ると、ペリング伯爵が「よかったら」と腕を差し出しております。きゃーーー、さいこーーーう!!
「ありがとうございます」
私はペリング伯爵と控えめに腕を組みながら、最高の気分でした。
ただ、ジュリアの後ろ姿を見て少しだけ心が翳ります。不安そうな、元気のない背中。せっかく綺麗に着飾ってきたのに‥せっかくあんなに楽しそうにしていたのに。
そもそもレックス様に警戒心を抱いているのは私だけの筈です。なんたってジュリアはレックス様の腹の黒さに気付いていないのですから。
だから、ただ単に人見知りなんでしょう。男性に慣れていないから、尚のこと‥。だけど私たちはいずれ嫁に行くのですし、仮にもレックス様はジュリアの婚約者。ここは少し突き放して、2人の距離が縮まるのを見守らなくては。
「この絵、とても綺麗ですね」
ペリング伯爵の声にハッとする。
「ほ、本当ですわね」
「‥‥大丈夫ですか?先程からぼーっとされていますが」
「‥っ、ええ、大丈夫ですわ」
なんてことですの。せっかくのご褒美タイムだというのに‥!!
くぅっ‥‥‥!!あぁ‥‥私は馬鹿ですわ‥。隣に一押しがいるというのに、こんなに素敵な絵画が飾られているのに、ジュリアの背中ばかり見て‥‥!
「‥‥‥お姉様!!」
私は少し前を歩いていたジュリアに声を掛けました。少々大きな声が出てしまいましたが、ここには私たち以外に護衛や側近達しかおりません。
「‥‥アリー‥」
前を歩く2人が足を止め、私を振り返りました。
「ペリング伯爵、少々失礼致します‥」
ペリング伯爵にそう告げて、私はジュリアの元へ行きました。
ふんっ、と何故か息巻いてレックス様を見上げますと、レックス様は小さく吹き出しておりました。何故吹き出されなきゃいけないのよ!腹立つわね!!
「ちょっとだけお借りしますわ!!」
「ふふ、どうぞどうぞ」
私はレックス様にほんの少しばかりキツめの視線をお見舞いして、ジュリアの手を取りました。目を丸くして頬を赤くするジュリア。私は扇子をバッと広げて口元を隠しました。
「‥‥あそこに、お姉様に見せたい絵がありましたの!!!お姉様にその価値は分からないと思いますけど!!!一緒に見る気があるなら歩いてくださる?!」
「‥うんっ!!」
ジュリアは目尻を下げ、頬を真っ赤にして、馬車で見せたような幸せそうな笑顔を浮かべておりました。
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