上 下
13 / 51

ほんと世話が焼けるわね!!

しおりを挟む

 ご挨拶を済ませたあと、私ははにかみそうな口元を隠すことで精一杯でした。ジュリアはそんな私をぼうっと見つめております。
 私のことばっかり見てないで少しはレックス様に視線を向けなさいよ!

 グレン・ペリング伯爵は私たちの5歳上、つまり20歳でございます。レックス様が17歳なので、2人はどういう繋がりなのかと首を傾げているとレックス様が軽く説明してくださいました。

「幼い頃、オレもグレンも元々は別のところで剣術を習ってたんだけど、どっちも筋がよかったみたいで最終的に同じ師匠の元に通うことになってさ」

「では、剣術繋がりのお友達ということですね!」

 ええ、私‥前のめりです。当然ですよね、目の前にご褒美がいるのですから。

「そうそう。興味津々だね、アレクサンドラ嬢」

「レ‥‥‥。コホン。」

 私は扇子をバチン!と閉じました。なんとか堪えましたがきっとキツイ顔をしていたことでしょう。「レックス様には毛程の興味もありませんけど」なんて言葉が飛び出さなくてホッとしております。「レ」まで出ましたが。ええ。
 仮にも公爵家嫡男、そしてペリング伯爵の目の前ですもの。棘は隠さなくてはなりませんね。

「ノーランド侯爵家の美人姉妹がこう並んでいると眼福ですね!お二人とも目に入れても痛くなさそうです」

 ペリング伯爵がにこやかに言い放った。目に入れたら痛いに決まってるじゃない‥。一番の年上なのに愛嬌のある笑顔を見せてくるペリング伯爵。くーっ、カッコいいわ!少しアホそう‥と思ったけどやっぱりカッコいい!

「あ、ありがたいお言葉ですわ。おほほほ」

 私たちは美術館の入り口へ歩き始めました。レックス様は二歩くらい先を歩いていて、ペリング伯爵と私は談笑していて、そんな私の一歩後ろをジュリアは歩いています。
 なんで仮にも婚約者同士の2人が一番離れているのよ。振り返ってジュリアを見ますが、人見知りを発揮しているのか視線は下がったまま。馬車ではあんなには楽しそうにぽわぽわしていた癖に!

 ジュリアからアクションをかけるのは無理でしょう。私はさりげなくレックス様に声を掛けました。

「‥レックス様、お姉様はしょっちゅう躓くんですの。宜しければお姉様をエスコートしてくださいます?」

 レックス様は笑顔でしたが一瞬の間がありました。

「失礼、ジュリアさんはアレクサンドラ嬢の近くでゆっくり歩みたいのかと思ってたよ」

 そう言ってレックス様は立ち止まり、腕を差し出しました。その所作のなんとスムーズなこと。見た目の良さも相まって、優しく微笑むその姿は息を飲むほど綺麗でした。まぁ、見た目は抜群なのよこの人、見た目はね。

 ジュリアは困ったように私を見つめてきましたが、差し出された手を無下にすることもできないので、レックス様の腕にソッと手を置いていました。

 ふと隣を見ると、ペリング伯爵が「よかったら」と腕を差し出しております。きゃーーー、さいこーーーう!!

「ありがとうございます」

 私はペリング伯爵と控えめに腕を組みながら、最高の気分でした。

 ただ、ジュリアの後ろ姿を見て少しだけ心が翳ります。不安そうな、元気のない背中。せっかく綺麗に着飾ってきたのに‥せっかくあんなに楽しそうにしていたのに。
 そもそもレックス様に警戒心を抱いているのは私だけの筈です。なんたってジュリアはレックス様の腹の黒さに気付いていないのですから。

 だから、ただ単に人見知りなんでしょう。男性に慣れていないから、尚のこと‥。だけど私たちはいずれ嫁に行くのですし、仮にもレックス様はジュリアの婚約者。ここは少し突き放して、2人の距離が縮まるのを見守らなくては。

「この絵、とても綺麗ですね」

 ペリング伯爵の声にハッとする。

「ほ、本当ですわね」

「‥‥大丈夫ですか?先程からぼーっとされていますが」

「‥っ、ええ、大丈夫ですわ」

 なんてことですの。せっかくのご褒美タイムだというのに‥!!
くぅっ‥‥‥!!あぁ‥‥私は馬鹿ですわ‥。隣に一押しがいるというのに、こんなに素敵な絵画が飾られているのに、ジュリアの背中ばかり見て‥‥!


「‥‥‥お姉様!!」

 私は少し前を歩いていたジュリアに声を掛けました。少々大きな声が出てしまいましたが、ここには私たち以外に護衛や側近達しかおりません。

「‥‥アリー‥」

 前を歩く2人が足を止め、私を振り返りました。

「ペリング伯爵、少々失礼致します‥」

 ペリング伯爵にそう告げて、私はジュリアの元へ行きました。


 ふんっ、と何故か息巻いてレックス様を見上げますと、レックス様は小さく吹き出しておりました。何故吹き出されなきゃいけないのよ!腹立つわね!!

「ちょっとだけお借りしますわ!!」

「ふふ、どうぞどうぞ」

 私はレックス様にほんの少しばかりキツめの視線をお見舞いして、ジュリアの手を取りました。目を丸くして頬を赤くするジュリア。私は扇子をバッと広げて口元を隠しました。

「‥‥あそこに、お姉様に見せたい絵がありましたの!!!お姉様にその価値は分からないと思いますけど!!!一緒に見る気があるなら歩いてくださる?!」

「‥うんっ!!」

 ジュリアは目尻を下げ、頬を真っ赤にして、馬車で見せたような幸せそうな笑顔を浮かべておりました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の本性を知るのは私だけ。みんな騙されないで〜!

リオール
恋愛
可愛い系で、皆に人気の王太子様は私の婚約者。キャルンとした彼は、可愛い可愛いと愛されている。 でも待って、その外見に騙されてはいけないよ! ツンデレヤンデレ腹黒王太子。 振り回されながらも…嫌いになれない私です。 === 明るいテンションで進む予定です。 ギャグというよりラブコメ?

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

ワガママ王女の婚約について

しきみ彰
恋愛
ディートリンデはワガママ王女を演じる。婚約者が死なないように。ワガママ王女を演じて、色々な場所へ連れ出した。 そんな彼が笑うようになったのは、数年前。 もう、いいでしょう。 そう感じたディートリンデは、婚約者に婚約解消を告げる。 どうか幸せに。そんな願いを込めて。

処理中です...