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52話
しおりを挟むバートン卿が賢者様から話を聞いてくれたおかげで色々と見えてきたことはある。
魔女には属性があること、ひとりひとり魔法の発動条件が違うこと、自分と同じ属性の魔法攻撃は防げるということ。
だから私の体を奪った魔女は“操ったり”“魅了したり”、そういう精神的に作用するような魔法が得意なんだと思う。
そして、その魔女は『瞳』を使って魔法を発動させている。
その部分だけを鑑みれば、スムーズに納得できるんだけど‥。何か違和感がある。
ーーーリセット魔法は精神的に作用する魔法というより、“時間”に関わる魔法だと思うし‥‥、レオンに対しても、私に対しても、魔女は自分以外の誰かに魔法を授ける力があるってことよね‥?
レオンは魔女と同系統の魔法を使えるとしても、私が使える魔法は同系統のものじゃない。自分の魔法とは別属性の魔法を授けられるのものなのかな‥?
あぁ‥わからなくなってきた。頭がこんがらがってるわ。そもそも‥
「‥‥魔女が他の誰かに魔法を授けられるのなら、もっと魔女の仲間が沢山いてもおかしくないのに」
沢山魔法を授けて、自分の仲間を増やしてしまえばいいのに。私が知る限りでは魔女の仲間は猫しかいないじゃない。‥それともそんなに簡単に授けられるものでもないのかな?
「‥‥‥‥‥魔法を、誰かに授ける‥?」
バートン卿が、絞り出したような声でそう話した。
そういえばまだバートン卿には、私が魔女からリセット魔法を授かっていたことを話していなかったわね。
私の目を見るバートン卿はいつも通り恐ろしく綺麗な顔をしながら、何かに動揺しているように瞳を揺らしていた。
「‥‥‥あ、の‥。バートン卿がいない間に2人には話したのですが、私は魔女から体を解放された際に魔女に魔法を授けられたのです。その、指を鳴らせば朝からリセットすることができるという都合の良い魔法なんですが‥」
バートン卿は切長の瞳を見開いて、息を飲み込んだようだった。どうやらよっぽど動揺しているみたい。
この話を告げた時のノエルのように、バートン卿も“自分が皇女を殺そうとしたことでリセット魔法を使ったのではないか”とか思っているのかな‥?
「‥‥‥‥‥その話は‥‥‥本当ですか‥?」
「え?えぇ、本当です。‥‥あの、バートン卿‥?その、打ち解け合えるまでのことは、その、本当にお気にーーー」
「あぁ‥‥なんてことだ」
私の言葉を遮って、バートン卿は頭を抱えた。艶やかな黒い髪に阻まれて、彼が今どんな顔をしているのか私にはわからない。
「‥‥バートン卿??」
何故そんなに狼狽えて‥‥。ノエルとテッドも私と同様に不安げにバートン卿を見つめている。
「‥‥‥‥賢者様が話していました。“魔女の母”がいるのだと」
「魔女の母‥?」
「‥‥‥‥‥長い歴史の中で、一番初めに魔女としての力を持って生まれた魔女です。彼女こそが全ての魔法の起源。彼女が力を授けた女性が“魔女”に、そして男性は“魔法使い”になったのだと聞きました。‥まぁ男性の魔法使いについては昔いざこざがあり‥魔女の母はそれ以来女性にだけ魔法を授けるようになったらしいのですが‥」
「‥‥力を授けた人々が、魔女や魔法使いに‥?」
バートン卿の言葉を頭の中で繰り返してみた。どこか他人事のように、その言葉の羅列を処理しようとしている。
男性魔法使いがいない理由は分かったけど、あれ‥?それなら私は‥‥?
私って‥
「‥‥皇女様、貴女は“魔女”ということになります」
ーーーードクン、と心臓が一際大きく鳴った。
当然と言えば当然のこと。だって現に魔法が使えているのだから。
魔法を使える女性なのだから、“魔女”に決まってるじゃない。‥‥それなのに、どうしてこんなにも心が苦しいのかな。
あぁ‥そうか、どこかで“自分は違う”と決めつけていたのかもしれない。この力は魔女が一時的に人間である私に授けてくれた力なのだと思っていた。
「‥皇女様‥‥」
ノエルが眉を下げて私を心配そうに見つめていた。
「‥‥‥授けられた力はずっと残るものなのでしょうか‥。私は体を解放されたその日から、自分自身が‥魔女になっていたということなんですね‥」
「‥‥ずっと残るものなのか、詳しいことは分かりません。ただ賢者様曰く‥他者に力を授けることができるのは“魔女の母”だけなのだと‥。散々行われていた魔女狩りは、魔女の母から力を授かった人々が対象だったというわけです」
「‥‥そう、ですか‥‥‥」
‥魔女が取り憑いていた体だと世間に知られたら、“そんな不吉な体は恐ろしい”と魔女狩りの対象になるかもしれないなんて恐れていたけど‥
そもそも、解放された時点で魔女狩りの対象でしかなかったのね。
ーーー私は何もしていないのに。
‥そう思ってハッとした。魔女たちの多くが、今の私と同じことを考えていたんじゃないのかな。何も悪いことをしていないのに、どうして狩られなくてはならないんだろう、と。
魔女ではないのに狩られてしまった女性も、魔女というだけで狩られてしまった女性も‥‥。どうして死を強制されなくてはいけなかったんだろう。
‥‥でも確かに、人間の常識を覆してしまうような力なんて畏怖の対象でしかないのかもしれない‥。
現に私は1日をやり直して自分にとって都合の良い時間を送っていた。それは私以外の人にとっては不都合な時間だった場合だってある。
‥‥何もしてないのに、なんて嘘ね‥。人智を超える力を自分の為だけに使っていたことには変わりないんだ。この力は、人々から恐れられて消されてしまう対象なのね。
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