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2話
しおりを挟む最低限の従者しかいないこの孤城には、メイドが3人と騎士が5人、コックが1人。一応この孤城のすぐ近くに騎士団の拠点があって、そこには沢山の騎士がいるらしいけど一度も見たことはない。
もちろん従者のみんなは私を相当嫌っているし、この孤城で働くことは実質左遷されたも同然。だから当然やる気もなく、無駄に干渉もしてこない。
私のことを嫌っていても、魔女が気に入らない従者を相当痛みつけて何人も退職させていたから、歯向かおうとする者はいなかったみたい。
そろそろメイドのサリーが部屋に来る時間だ。もういい加減、泣き止まないと。
ノック音が聞こえて、サリーが扉を開けた。サリーは肖像画の前にいた私を見つけてギョッと目を見開いた。
「‥‥おはようございます皇女様。今日はお早いのですね」
「‥‥‥おはよう。少し早く目が覚めちゃって」
「‥‥そうでしたか」
サリーはそう言って、水とお酒のボトルとおつまみをテーブルに置いた。そう、魔女は朝から飲酒していた。朝といっても‥今は昼前くらいの時間帯なんだけど。
この時間帯から酒を飲み、酔っ払った頃にまた眠り、夜になるとまた起きて酒を飲み、奴隷を部屋に呼ぶという生活スタイルだった。まともに食事を摂るのは夜だけで、あとは簡単なつまみを食べながら酒を飲むという不健康な食生活を繰り返していた。
体を解放されて初めてホッとしたのは、“飲まなくていい”と思えたことだった。お酒に狂っていたのは、あくまでも魔女であり私ではなかった。
「‥あの、サリー‥。持ってきてもらったのに悪いんだけど‥もうお酒はいらないから」
「え?!‥‥それは、夜も‥でしょうか?」
「うん‥」
サリーの目はまん丸だった。たぶん、こいつ正気か?って思っている。今までが正気じゃなかったんだよ。
困り気味にそう溢すと、サリーは承知しましたと言ってお酒とおつまみを下げた。
酔っ払って寝てしまう魔女は、ドレスを着ることも嫌っていた。好き勝手飲んで寝たい魔女にとって、コルセットをぎちぎちに締めて背筋を伸ばさなくてはならないドレスなんて邪魔でしかなかったのだ。
だから、当然サリーはそのまま部屋を去っていってしまった。
寝巻きのまま、ぽつんと部屋に残る。
クローゼットを開けると、滅多に着もしないのに買い漁っていたド派手なドレスばかりが並んでいる。あとは、無駄にセクシーなランジェリーたち。
ドレスはさすがに、ひとりで着れないなぁ。
でもネグリジェのままいるのもなぁ‥。でも今までドレスの着付けを頼んでいなかったのに、突然頼んでも迷惑だよね。
ぐぅっとお腹が鳴る。水を飲んで誤魔化すけど、夜まで我慢するのはしんどいなぁ‥。‥でも、散々迷惑をかけ続けてきた従者たちにお願いするのは気が引ける。
とりあえず長く伸びたブロンドの髪をブラシで梳かして最低限整えた。ネグリジェの上からガウンを羽織り、部屋を出る‥と、
「え、皇女様?!」
扉の前で護衛していた騎士が心底驚いたような顔をした。たぶん、こんな風に酔っていない状態でいることが珍しいんだと思う。
「‥おはよう」
「‥‥おはようございます」
すぐに目を逸らした騎士の名はレオン。赤茶色の髪をした、端正な顔立ちの男の人。
ちなみに多分、魔女はこの人のことも誑かしていた。‥夜に彼を何度か部屋に無理矢理連れ込んでいたから。その後は案の定意識が飛ぶから、一体彼と何をしていたかはわからないけど。
気まずくなった私はキッチンに向かって歩き出すことにした。
「どちらへ行かれるのですか」
「あ‥軽食を頂こうと思って‥」
「軽食‥?メイドを呼びますので部屋で待っていてください」
「あ、いいの。自分で行きたいの」
「そんなわけにはいきません」
「いや、ほら、ずっとお酒ばっかり飲んでたから運動不足なの。だから動きたいんだよね」
私がそう言うと、レオンはやっと引いてくれた。
ネグリジェにガウンという格好のまま部屋の外に出るなんて普通はあり得ないけど、魔女の規格外の行動を見てきた従者たちにとって、これは特におかしなことではなかった。
キッチンに行くと、コックはパンやスープを用意していた。昼時だから、恐らく従者たちや奴隷たちの分。
「あの‥」
「ひっ!!こ、皇女様?!」
「‥‥驚かせてごめんなさい。よかったら、私にもそのパンとスープを頂けないかしら」
「あ、いえっ、しかし、これは従者や奴隷たちの分でして、皇女様に召し上がって頂くものではないのです!いま別に用意致しますのでお待ちください」
「いえ、同じものでいいわ。それと、もうお酒は飲まないから‥出来れば三食用意して欲しいの。簡単なもので構わないから‥」
私がそう言うと、コックは驚いたように目を丸めた。
この短時間で3人もの驚いた顔が見れたわ‥。
「か、かしこまりました‥!あと部屋へ運ばせますので」
「うん、ありがとう」
軽く軽食を食べたら、午後は奴隷たちのところに行って解放しよう。そう思っていた私は、早くも魔女から授かったリセット魔法を使うことになるとは思ってもいなかった。
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