この世界に2人ぼっち

江田真芽

文字の大きさ
上 下
21 / 22

第19話

しおりを挟む

 結局あの後蒼くんからは小さな寝息が聞こえてきて、朝までぐっすりと眠っていた。
 体力があるからか、それとも薬が効いたのか、もうすっかり熱はないみたい。

「‥ベタベタだから風呂入ってくる」

「あ、うん‥!」

 無事に回復してよかった‥。私のせいでこの世界に来てしまった手前、蒼くんを危険な目に合わせてはいけない。だから本当に、よかった‥。

 澄んだ水色の空を見上げて、深呼吸を繰り返す。思っていたよりも、私は臆病だったらしい。

 ーーそれにしても蒼くん、昨日の夜のこと全く覚えてないみたい。目覚めた蒼くんの熱を測っている時に昨日のことをそれとなく聞いてみたけど、「は?」と言われて終わった。

 私には結婚寸前の彼氏がいるらしいし、その人と私を引き合わせたのは蒼くんだったらしい。

 だから昨日の話はきっと気の迷いからの発言。それか、私の聞き間違い。

 そうじゃないと‥元の世界に戻ったり記憶が戻ったりした時に、取り返しがつかないことになるかもしれない。

 冷静に考えれば分かることなのに、水色の空を眺めたまま蒼くんの切ない声を繰り返し思い返していた。

『ずっと‥好きだったのに』

 その声が、耳に焼き付いて離れてくれない。
それが“過去形”だったことは分かるけど、何故か私まで切なくなる。きゅうっと心臓を握られているみたい。

 私は一体‥どんな嘘をついてしまったんだろう。



 しばらくして蒼くんが戻ってきた。
さっぱりしている姿を見ると、一晩ですっかり良くなったのだと分かる。

「‥昨日俺のせいで寝れなかったでしょ。悪かったな」

 どうして私が寝ていないことがわかったんだろう。‥あ。

「もしかして目の下にクマできてる?!」

「いや、できてないけど」

 じゃあなんでわかったんだろう。テレパシー‥?

「すごいね。腐れ縁パワー?」

「‥‥お前案外臆病なとこあるじゃん。俺熱出てる間寝れねーんじゃないかと思って」

「‥‥」

 あー。そうですか‥。そういうの、分かっちゃうんですか‥。へぇ‥。ま、お隣さんだしね。付き合いも長いしね。

 あぁ。どうしよう。心臓が‥痛い。

「‥ほっぺ赤いけど‥。風邪移った?」

「‥‥あー、どうだろ。熱測ってこようかな、あっちで」

「?ここで測れば良くね?」

「‥気分転換を兼ねてくるよ」

「‥?」

 ああ、どうしよう。元の世界に戻った時のことを考えないといけないのに、心が勝手に走り出してしまっている気がする。

 むしろこんなに理解しあってて、仲だって普通に良くて‥どうして今まで恋に発展してこなかったんだろう‥‥?

 普通だったらくっついてるんじゃないの?と思ってしまう。だめだ。こう思ってる時点できっともう蒼くんに惹かれ始めてる。

 早くこの気持ちに蓋をしないと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

処理中です...