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~ 瑠菜 視点 ~
一番古い記憶では、私と違う耳や尻尾、中には羽を持った子達が玩具のある真っ白な部屋で其々好きな事をして遊んでいた
与えられる食事はいつも二回、朝と夜に貰える料理はふやかされたミルク粥のような、ほんのり甘いものだった
此処にいる子達に両親はいない、白衣を着てる人達が親代わりのように一定の距離感を持ってカルテを持ち見守るように立っているだけだった
獣人は一匹で生きていける
獣の様には喧嘩をして痛みを知り、力加減を学び、
そして、時に人の様に言葉を教えられた
「 みっ! 」
「 No.2022。君を見てみたい人が現れたよ 」
「 みー? 」
白いキャップ帽に白いマスクをした男性は、他の子と遊んでる子達の中で、迷う事なく私の元へとやって来た
眩しいほどに明るい天上と共に彼を見上げては、身体をそっと抱き抱えられた
浮遊感に驚き、耳を下げては軽く擦れるように当たる、尾てい骨が出る場所だけ僅かに切り込みが入り空いてる人間用のオムツ
まだ少し成長した子達のように人の言葉は発せないまま、私を求める人の所へと向かった
一枚のガラスで仕切られた何もない部屋
ガラスの前には目の下に隈があり、長い黒髪をした女性が立っていた
「 この子がNo.2022。お望みの年齢と種族ですよ。品種はターキッシュアンゴラの血筋を引いている。トルコの生きる宝石と呼ばれるほど、成長後はお墨付きですよ。この子と同じ遺伝子の子達もまた美しい白猫に…… 」
「 その子にするわ。白猫が欲しかったの 」
「 そうですか……。雌はお高いですが構いませんか? 」
「 えぇ、お金ならいくらでも払うわ 」
まるでペットショップ
それでも彼女がガラスの向こうで仮契約をするのを他人事のように見ていれば、抱っこしていた男性は一旦他の部屋へと私を連れて行った
「 さて、トライアル期間が一ヶ月あるけど、その前に身体を洗って、ネコ科のワクチン接種をしよう。マイクロチップも埋めたいし……我慢してね? 」
「 みぃ… 」
トライアル期間とは、里親募集をされている犬猫のようにその家庭と相性がいいかを見る、お試し期間でもある
もし飼えなくなったり、飽きた場合に戻ってこれるように……
隅々まで身体を洗われ、チクッとする痛い注射と、うなじにホッチキスが刺さったような痛みが走った
少し抵抗したが慣れた手付きの男性によって、私は新しい服を着てこの女性の元へと行った
「 では、トライアル期間。しっかりと可愛がって下さいね。獣人は、愛情を与え、愛されるほどに美しく成長しますので…… 」
「 流石愛玩用。まるで花ね 」
「 強ち間違っていませんね。綺麗に咲かせて上げてください 」
「 えぇ、勿論。そうするわ 」
女性の腕に抱かれ、少し不安げに男性を見れば彼はマスクをしてても分かる程に、目元は優しく微笑んだ
行ってらっしゃい、と見送った男性は私をずっと見守り育ててきた一人だった
バイバイ…もう会えない、そう何処かで思ったからこそ心は少し冷たかった
車に乗せられ、トランクにある大型犬用のケージの中に毛布があり、その中へと入れられれば声を出すこともなく
只、不安のまま揺られていた
とても長く揺られて、疲れて眠っていればいつの間にかエアコンの付いた広い部屋に来ていた
「 白猫を飼ってくると言ったから猫かと思ったら、これは獣人じゃないか。さぞ、いい値がしたんだろうな? 」
「 えぇ、愛車が五台は買えるわ。でもまぁ、その辺にいる獣よりは見栄えもいいでしょ 」
「 ははっ、確かにこれは自慢出来る 」
一部の富裕層には、獣人を飼うことが一つのステータスになっていた
金があると自慢が出来て、何よりも獣でも、人間の子供でもなく、愛玩用の獣人だからこそ扱いは良かったらしい
雑食の為に餌は何でもよく、与えたものを食べるのは都合がいい
人間のように知能もあり、そして獣の様にペット感覚にもなれる
けれどそれは、多少成長した獣人であり
幼い獣人は、それは″子猫″に過ぎなかった
「 みぃぃ!みぃい!! 」
皆はどこ?なんで皆はいないの?
お腹空いたよ、寒いよ、怖いよ、一人は嫌だよ
親を呼ぶように子猫の声で時間帯を問わず泣く声に、女性は片耳を塞ぎ寝間着のままやって来た
「 うっさいわねぇ!! 」
「 みっ! 」
「 静かにしなさい!」
遊ぶ場所もない狭いケージの中で鳴いていれば、女性はケージを蹴り飛ばした
ガシャン!と音が響き驚いて身を縮めれば、女性は冷たく見下げてきた
「 大体、人の姿をしてるのに猫みたいに鳴くなんて気持ち悪い……なんで私、こんな化物を買ったんだろ…… 」
「 みぃっ……… 」
「 鳴かないで!その顔で、その声を発しないで!!気持ち悪いのよ!! 」
いつしか鳴けばケージを蹴られる事を学び、鳴くことを止めた
お腹が空いててもじっとして、寝ていれば空腹が凌げる為にそれで耐えしのいでいた
冷たく寒い部屋の中で、連れてこられた時にあの男性からもらった唯一の香りが残る布に包まって眠る日々が続く
そして、この容姿は男の人に魅力らしい
「 可愛いなぁ。ほら、手から食べてみなさい 」
「 みぃ…… 」
「 よくそんな化物に近付けるわね。頭、可笑しいんじゃない? 」
空腹だからこそどんなものでも欲しかった
粉ミルクを溶かし、パンに浸された其れを向けられ手から食べていれば、頬を大きな手がなぞる
「 可愛いじゃないか。ほらほら、もっと食べて大きくなって…そしたら…… 」
「 ちょっと止めてよ。トライアル終了前に返すつもりだから。そしてら、お金も戻ってくるし 」
「 戻す必要はないじゃないか。こんな可愛いのに。それに将来性があるんだ。愛玩用ならば…… 」
「 まさか、手を出す気で育ててるの…?止めて、聞きたくない!! 」
男性は優しく扱ってくれていたけど、女性は気味悪がり次第にケージの外からではなく、引きずり出して手を上げてきた
叩かれる事に理解できず、震えて怯えながら生きていた
それが、愛玩用として創り出されて生まれた
獣人の生き方だと思って……
最後にお風呂に入ったのは、女性に貰われる前の話だった
ケージは無くなり、何もない一人部屋を与えられても、女性がやることは虐待と呼ばれるもので
男性は時に、自分の腰を押し付けて同じことを言う
「 ほら、小さな舌で舐めて。出来るだろう?あー!ミルクを付けたほうが舐めやすいね…… 」
黒い異物に粉ミルクを溶かしたものを垂らし、濡らしてから口元へと向けてきた
固定物を貰えることが減った為に、其れを咥えれば舌で舐めては犬歯を突き立てていた
「 いっ!!咬むんじゃない!! 」
「 みっ……っ…… 」
口から引き抜き、思いっきり頬を叩かれ床へと倒れれば、男性は髪を掴み顔を上げさせた
「 いいか、咬んだらだめだ。舐めるだけだ……分かったな? 」
「 みぃ…… 」
トライアル期間は、男性によって終了され、そのままこの家にいることになった
咬んだら叩かれる、どんなに空腹でも牙を向けたらダメ
そう学び、ミルクの味とは違った独特な匂いと味のするものを夢中で舐めていれば、時より男性は声を漏らし、口内へと吐き出した
「 はぁ、さすが…愛玩用……教えれば上手くなるな。いい子だ 」
「 みぃ……( 褒められた……? )」
上手く出来れば頭を撫でられる、それが只心地よかった
縋るようにその手にすり寄って、向けられる異物を求めるように自ら舐めていた
そんな日が続く中で、女性は私の前へと現れた
「 あなたのせいで、私の旦那が壊れたじゃない。こんな汚れた化物を飼ってる事すら間違いなのよ…… 」
女性は私の手を引き、そのまま車へと乗せられまた、遠くへと向かって行った
何処に行くのだろうか、記憶に薄い皆の場所に帰れるのだろうか
そんな事を思いながら、只意識も朦朧とする中で車が止まる音を聞いていた
「 降りなさい…… 」
乱暴に手を引かれ、車から降ろされればガラクタの捨てられたゴミ捨て場だった
焼却炉はなく、不法投棄をされた物が多くある川の近く
嗅ぎなれない森やら、水の匂いに震えればその場に立たされ、女性は告げた
「 もう疲れたの……。こんな化物を買うんじゃなかった……。1年も育てて上げたの、十分でしょ?私を恨まないでね 」
そう告げた女性は、車へと乗りその場を離れた
追い掛ける気力も無く、どうしたら良いのかも分からずその場に立ち竦んでいた
外の世界をどう生きていくのかも分からず、
ここがどこで、自分が何をしたら良いのか、それすら理解できなかった
「 みぃ…… 」
寒い……
引き取られた夏のように、エアコンで涼しいわけではなく
雪のちらつく冬だからこそ、手足が冷え、尻尾の先や耳の先は凍り付くような感覚だった
徐々に耳や尻尾の先に痛みを感じ、暖かさを求めてゆっくりと川に沿って歩いていた
雪がちらつき、アスファルトがうっすら白く積もる中を、トボトボと行く宛も分からず歩く
空腹なのかも分からない感覚で、遠くに聞こえる車の音に時より肩を揺らし、尻尾を股へと丸めて歩いていく
「 みっ……! 」
フラついた身体は小さな石ころで躓いて転け、薄い布切れ一枚の身体を濡らした
寒くて、痛くて、けれど倒れても仕方ないと察してるからまた、立ち上がり歩いていた
生まれたときから人によって育てられた獣人
どんな扱いを受けても人が好きなのには変わらず、人の匂いや声がする方へと引き寄せられるように歩いていく
「 みぃ…… 」
人通りが減った道路の脇に足を止めた
もう、歩く気力も体力もない
手足の感覚すら無くなって只痛いから
その場に、座り込みじっとしていた
時より通る車の音、あの女性の乗っている車と同じエンジン音が稀に聞こえる度に、肩はピクリと動く
心の何処かで迎えに来てくれる、そう信じたはずなのに来る事は無かった
辺りが暗くなり、眠気と空腹でウトウトとしてる頃に、前を通った一台の車は少しして戻ってきた
そして、ゆっくりと目の前を走り
もう一度、戻ってきては車は近くに止まりそして人が下りてきた
「 やっぱり見間違えじゃなかった……子供だよな……? 」
聞こえてきた男性の声に、うっすらと瞼を開ければ、問い掛けられる言葉が耳に入る
「( 獣の耳?獣人か? )御前……一人なのか?親は? 」
私服姿っぽい男性を色変わりのしてない、ブルーの瞳で見上げれば、彼は僅かに息を飲んだ
「( 捨てられたのか…… )」
若い男性は、その場でしゃがみ込めばそっと手を伸ばしてきた
叩かれる!と反射的に思い、怯えてピクリと肩を揺らしてぎゅっと目を閉じ身を丸めれば、彼は一つ言葉を告げる
「 そう怯えなくとも、俺は何もしない 」
「 みぃ…… 」
ほんと?とばかりにもう一度顔を向ければ、何かを理解したように、男性は呆れたように白い息を吐く
「 そうか……。俺の家に来るか?一緒に暮らそう 」
まるで捨てられてたことを悟ったような反応と、そして優しそうな雰囲気に掠れた声で一つ鳴いた
「 みぃー… 」
「 ふっ、いい返事だ。寒いだろ?車の中は暖房が付いてるから暖かいぞ 」
頬に触れた優しい手つきは、薄れた記憶の中に残るあの、男性のようだった
それよりもずっと壊れ物を扱うような優しさに自然とその手にすり寄っていた
彼は着ていた上着を身体に巻きつけ抱けば、そのまま若葉マークの貼り付けられた車へと乗った、助手席に座るように置かれ
彼は車を走らせた
確かに車の中は、暖房が付いてて暖かくて、疲れていた身体は急に眠気に誘われるように眠ってしまった
「 獣人!!?ちょっ、盗んできたの!? 」
「 なわけあるか。捨てられてたんだよ 」
「 獣人を捨てる富豪なんているのか……… 」
「 みぃ……? 」
男性とは違う人の声で目を覚ませば、彼に抱っこされてるまま、目の前には知らない二人の年配の男女の姿があった
また、夫婦…?その事に少し怯えて服をきゅっと掴めば、彼は告げる
「 雪の中で丸まっていた。怪我も多く、怯えた様子から虐待されていたに決まってる。俺が育てるから、ここに置いてくれないか? 」
「 ドライブに行った後にこれか……。獣人は犬猫じゃないんだぞ。半分人間であり、扱いも違ってくる…愛玩用として造られた生物だぞ 」
「 それでも、俺はこの子の家族になってやりたい 」
夫婦はお互いの顔を見合わせ、渋い顔を見せた
話は一旦そこで終わったけれど、夫婦が頷くのはもう少し後の話だった
まずは、冷えた身体を温めるのが先だと風呂に入れて貰った
一番古い記憶では、私と違う耳や尻尾、中には羽を持った子達が玩具のある真っ白な部屋で其々好きな事をして遊んでいた
与えられる食事はいつも二回、朝と夜に貰える料理はふやかされたミルク粥のような、ほんのり甘いものだった
此処にいる子達に両親はいない、白衣を着てる人達が親代わりのように一定の距離感を持ってカルテを持ち見守るように立っているだけだった
獣人は一匹で生きていける
獣の様には喧嘩をして痛みを知り、力加減を学び、
そして、時に人の様に言葉を教えられた
「 みっ! 」
「 No.2022。君を見てみたい人が現れたよ 」
「 みー? 」
白いキャップ帽に白いマスクをした男性は、他の子と遊んでる子達の中で、迷う事なく私の元へとやって来た
眩しいほどに明るい天上と共に彼を見上げては、身体をそっと抱き抱えられた
浮遊感に驚き、耳を下げては軽く擦れるように当たる、尾てい骨が出る場所だけ僅かに切り込みが入り空いてる人間用のオムツ
まだ少し成長した子達のように人の言葉は発せないまま、私を求める人の所へと向かった
一枚のガラスで仕切られた何もない部屋
ガラスの前には目の下に隈があり、長い黒髪をした女性が立っていた
「 この子がNo.2022。お望みの年齢と種族ですよ。品種はターキッシュアンゴラの血筋を引いている。トルコの生きる宝石と呼ばれるほど、成長後はお墨付きですよ。この子と同じ遺伝子の子達もまた美しい白猫に…… 」
「 その子にするわ。白猫が欲しかったの 」
「 そうですか……。雌はお高いですが構いませんか? 」
「 えぇ、お金ならいくらでも払うわ 」
まるでペットショップ
それでも彼女がガラスの向こうで仮契約をするのを他人事のように見ていれば、抱っこしていた男性は一旦他の部屋へと私を連れて行った
「 さて、トライアル期間が一ヶ月あるけど、その前に身体を洗って、ネコ科のワクチン接種をしよう。マイクロチップも埋めたいし……我慢してね? 」
「 みぃ… 」
トライアル期間とは、里親募集をされている犬猫のようにその家庭と相性がいいかを見る、お試し期間でもある
もし飼えなくなったり、飽きた場合に戻ってこれるように……
隅々まで身体を洗われ、チクッとする痛い注射と、うなじにホッチキスが刺さったような痛みが走った
少し抵抗したが慣れた手付きの男性によって、私は新しい服を着てこの女性の元へと行った
「 では、トライアル期間。しっかりと可愛がって下さいね。獣人は、愛情を与え、愛されるほどに美しく成長しますので…… 」
「 流石愛玩用。まるで花ね 」
「 強ち間違っていませんね。綺麗に咲かせて上げてください 」
「 えぇ、勿論。そうするわ 」
女性の腕に抱かれ、少し不安げに男性を見れば彼はマスクをしてても分かる程に、目元は優しく微笑んだ
行ってらっしゃい、と見送った男性は私をずっと見守り育ててきた一人だった
バイバイ…もう会えない、そう何処かで思ったからこそ心は少し冷たかった
車に乗せられ、トランクにある大型犬用のケージの中に毛布があり、その中へと入れられれば声を出すこともなく
只、不安のまま揺られていた
とても長く揺られて、疲れて眠っていればいつの間にかエアコンの付いた広い部屋に来ていた
「 白猫を飼ってくると言ったから猫かと思ったら、これは獣人じゃないか。さぞ、いい値がしたんだろうな? 」
「 えぇ、愛車が五台は買えるわ。でもまぁ、その辺にいる獣よりは見栄えもいいでしょ 」
「 ははっ、確かにこれは自慢出来る 」
一部の富裕層には、獣人を飼うことが一つのステータスになっていた
金があると自慢が出来て、何よりも獣でも、人間の子供でもなく、愛玩用の獣人だからこそ扱いは良かったらしい
雑食の為に餌は何でもよく、与えたものを食べるのは都合がいい
人間のように知能もあり、そして獣の様にペット感覚にもなれる
けれどそれは、多少成長した獣人であり
幼い獣人は、それは″子猫″に過ぎなかった
「 みぃぃ!みぃい!! 」
皆はどこ?なんで皆はいないの?
お腹空いたよ、寒いよ、怖いよ、一人は嫌だよ
親を呼ぶように子猫の声で時間帯を問わず泣く声に、女性は片耳を塞ぎ寝間着のままやって来た
「 うっさいわねぇ!! 」
「 みっ! 」
「 静かにしなさい!」
遊ぶ場所もない狭いケージの中で鳴いていれば、女性はケージを蹴り飛ばした
ガシャン!と音が響き驚いて身を縮めれば、女性は冷たく見下げてきた
「 大体、人の姿をしてるのに猫みたいに鳴くなんて気持ち悪い……なんで私、こんな化物を買ったんだろ…… 」
「 みぃっ……… 」
「 鳴かないで!その顔で、その声を発しないで!!気持ち悪いのよ!! 」
いつしか鳴けばケージを蹴られる事を学び、鳴くことを止めた
お腹が空いててもじっとして、寝ていれば空腹が凌げる為にそれで耐えしのいでいた
冷たく寒い部屋の中で、連れてこられた時にあの男性からもらった唯一の香りが残る布に包まって眠る日々が続く
そして、この容姿は男の人に魅力らしい
「 可愛いなぁ。ほら、手から食べてみなさい 」
「 みぃ…… 」
「 よくそんな化物に近付けるわね。頭、可笑しいんじゃない? 」
空腹だからこそどんなものでも欲しかった
粉ミルクを溶かし、パンに浸された其れを向けられ手から食べていれば、頬を大きな手がなぞる
「 可愛いじゃないか。ほらほら、もっと食べて大きくなって…そしたら…… 」
「 ちょっと止めてよ。トライアル終了前に返すつもりだから。そしてら、お金も戻ってくるし 」
「 戻す必要はないじゃないか。こんな可愛いのに。それに将来性があるんだ。愛玩用ならば…… 」
「 まさか、手を出す気で育ててるの…?止めて、聞きたくない!! 」
男性は優しく扱ってくれていたけど、女性は気味悪がり次第にケージの外からではなく、引きずり出して手を上げてきた
叩かれる事に理解できず、震えて怯えながら生きていた
それが、愛玩用として創り出されて生まれた
獣人の生き方だと思って……
最後にお風呂に入ったのは、女性に貰われる前の話だった
ケージは無くなり、何もない一人部屋を与えられても、女性がやることは虐待と呼ばれるもので
男性は時に、自分の腰を押し付けて同じことを言う
「 ほら、小さな舌で舐めて。出来るだろう?あー!ミルクを付けたほうが舐めやすいね…… 」
黒い異物に粉ミルクを溶かしたものを垂らし、濡らしてから口元へと向けてきた
固定物を貰えることが減った為に、其れを咥えれば舌で舐めては犬歯を突き立てていた
「 いっ!!咬むんじゃない!! 」
「 みっ……っ…… 」
口から引き抜き、思いっきり頬を叩かれ床へと倒れれば、男性は髪を掴み顔を上げさせた
「 いいか、咬んだらだめだ。舐めるだけだ……分かったな? 」
「 みぃ…… 」
トライアル期間は、男性によって終了され、そのままこの家にいることになった
咬んだら叩かれる、どんなに空腹でも牙を向けたらダメ
そう学び、ミルクの味とは違った独特な匂いと味のするものを夢中で舐めていれば、時より男性は声を漏らし、口内へと吐き出した
「 はぁ、さすが…愛玩用……教えれば上手くなるな。いい子だ 」
「 みぃ……( 褒められた……? )」
上手く出来れば頭を撫でられる、それが只心地よかった
縋るようにその手にすり寄って、向けられる異物を求めるように自ら舐めていた
そんな日が続く中で、女性は私の前へと現れた
「 あなたのせいで、私の旦那が壊れたじゃない。こんな汚れた化物を飼ってる事すら間違いなのよ…… 」
女性は私の手を引き、そのまま車へと乗せられまた、遠くへと向かって行った
何処に行くのだろうか、記憶に薄い皆の場所に帰れるのだろうか
そんな事を思いながら、只意識も朦朧とする中で車が止まる音を聞いていた
「 降りなさい…… 」
乱暴に手を引かれ、車から降ろされればガラクタの捨てられたゴミ捨て場だった
焼却炉はなく、不法投棄をされた物が多くある川の近く
嗅ぎなれない森やら、水の匂いに震えればその場に立たされ、女性は告げた
「 もう疲れたの……。こんな化物を買うんじゃなかった……。1年も育てて上げたの、十分でしょ?私を恨まないでね 」
そう告げた女性は、車へと乗りその場を離れた
追い掛ける気力も無く、どうしたら良いのかも分からずその場に立ち竦んでいた
外の世界をどう生きていくのかも分からず、
ここがどこで、自分が何をしたら良いのか、それすら理解できなかった
「 みぃ…… 」
寒い……
引き取られた夏のように、エアコンで涼しいわけではなく
雪のちらつく冬だからこそ、手足が冷え、尻尾の先や耳の先は凍り付くような感覚だった
徐々に耳や尻尾の先に痛みを感じ、暖かさを求めてゆっくりと川に沿って歩いていた
雪がちらつき、アスファルトがうっすら白く積もる中を、トボトボと行く宛も分からず歩く
空腹なのかも分からない感覚で、遠くに聞こえる車の音に時より肩を揺らし、尻尾を股へと丸めて歩いていく
「 みっ……! 」
フラついた身体は小さな石ころで躓いて転け、薄い布切れ一枚の身体を濡らした
寒くて、痛くて、けれど倒れても仕方ないと察してるからまた、立ち上がり歩いていた
生まれたときから人によって育てられた獣人
どんな扱いを受けても人が好きなのには変わらず、人の匂いや声がする方へと引き寄せられるように歩いていく
「 みぃ…… 」
人通りが減った道路の脇に足を止めた
もう、歩く気力も体力もない
手足の感覚すら無くなって只痛いから
その場に、座り込みじっとしていた
時より通る車の音、あの女性の乗っている車と同じエンジン音が稀に聞こえる度に、肩はピクリと動く
心の何処かで迎えに来てくれる、そう信じたはずなのに来る事は無かった
辺りが暗くなり、眠気と空腹でウトウトとしてる頃に、前を通った一台の車は少しして戻ってきた
そして、ゆっくりと目の前を走り
もう一度、戻ってきては車は近くに止まりそして人が下りてきた
「 やっぱり見間違えじゃなかった……子供だよな……? 」
聞こえてきた男性の声に、うっすらと瞼を開ければ、問い掛けられる言葉が耳に入る
「( 獣の耳?獣人か? )御前……一人なのか?親は? 」
私服姿っぽい男性を色変わりのしてない、ブルーの瞳で見上げれば、彼は僅かに息を飲んだ
「( 捨てられたのか…… )」
若い男性は、その場でしゃがみ込めばそっと手を伸ばしてきた
叩かれる!と反射的に思い、怯えてピクリと肩を揺らしてぎゅっと目を閉じ身を丸めれば、彼は一つ言葉を告げる
「 そう怯えなくとも、俺は何もしない 」
「 みぃ…… 」
ほんと?とばかりにもう一度顔を向ければ、何かを理解したように、男性は呆れたように白い息を吐く
「 そうか……。俺の家に来るか?一緒に暮らそう 」
まるで捨てられてたことを悟ったような反応と、そして優しそうな雰囲気に掠れた声で一つ鳴いた
「 みぃー… 」
「 ふっ、いい返事だ。寒いだろ?車の中は暖房が付いてるから暖かいぞ 」
頬に触れた優しい手つきは、薄れた記憶の中に残るあの、男性のようだった
それよりもずっと壊れ物を扱うような優しさに自然とその手にすり寄っていた
彼は着ていた上着を身体に巻きつけ抱けば、そのまま若葉マークの貼り付けられた車へと乗った、助手席に座るように置かれ
彼は車を走らせた
確かに車の中は、暖房が付いてて暖かくて、疲れていた身体は急に眠気に誘われるように眠ってしまった
「 獣人!!?ちょっ、盗んできたの!? 」
「 なわけあるか。捨てられてたんだよ 」
「 獣人を捨てる富豪なんているのか……… 」
「 みぃ……? 」
男性とは違う人の声で目を覚ませば、彼に抱っこされてるまま、目の前には知らない二人の年配の男女の姿があった
また、夫婦…?その事に少し怯えて服をきゅっと掴めば、彼は告げる
「 雪の中で丸まっていた。怪我も多く、怯えた様子から虐待されていたに決まってる。俺が育てるから、ここに置いてくれないか? 」
「 ドライブに行った後にこれか……。獣人は犬猫じゃないんだぞ。半分人間であり、扱いも違ってくる…愛玩用として造られた生物だぞ 」
「 それでも、俺はこの子の家族になってやりたい 」
夫婦はお互いの顔を見合わせ、渋い顔を見せた
話は一旦そこで終わったけれど、夫婦が頷くのはもう少し後の話だった
まずは、冷えた身体を温めるのが先だと風呂に入れて貰った
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