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一章 聖獣への道のり編

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~ シロ視点 続 ~

人の姿だった時の鎖は、余りにも古びて錆び付いていたが、獣になってから着いてる枷や鎖は黄金色に輝き重みも感じないものだ

ライフ曰く、あの姿の俺が気に入ったらしく
装飾品として残したと言っていたが、いい御趣味だと何度思ったか
この枷と鎖は、コウガが思うよりずっと俺の心を捕らえ続けるものでもある
忘れることの出来ない仲間と殺した者達の血肉

拷問の記憶は消えることもなく、刻まれた過去から逃れる為に、時の無い此所に馴染むまで一人ウロウロしては寝れそうな場所を探していた

「( 独りが、嫌な筈だが此処も独りだな )」

聖獣同士は仲がいい兄弟とは思えないほどに
辺りの連中は俺を見ては目を反らす

他人の評価などに興味ない俺は、気にせず歩いたり川に入っては水浴びをしてる中で
ある者に出逢ったんだ

「 随分と面白味のある聖獣が来たものだ。それは人間界の物ではないのか? 」

男か、女かも分からない中性的な声に
顔を上げ、声のする方を見れば川へと水を流す滝の横に横たわる大きなフェンリルの姿があった

全身が青みがかった毛並みをしているが
雲のような毛並みは揺れる度に消えたり、現れたりを繰り返す
まるで"雲"そのものをフェンリルの形にしたような彼は、口が裂けたように大きな口の口角を上げる

「 ほぅ、私を見ても怯えないとは素質があるな?面白い 」

「 !! 」

立ち上がった事に警戒すれば、一瞬で目の前へと来た彼に音も匂いすらない
川に入ってる俺とは違い、浮いてるままの彼は告げる

「 強くしてやろうか。幼き聖獣よ 」 

それが初めて口を聞き、俺にこの神の庭の事や周りの事を教えてくれた聖獣だ

彼と出逢ったことで、聖獣同士が仲良くできることも知り、そして俺は強くなる素質があるものだと知った

初めての聖獣召喚を経験した日、神の庭に来て慣れた時だったからこそ、冷静にこの姿で改めて人を見れば、男は俺の姿を見て壊れたように笑った

「 やった、やったぞ、俺は成功したんだ!!成功者だ!!! 」

人間と言う生き物の醜さを改めて実感した
力の使い方を間違った者だと悟るのは、一目見て分かった

戦争相手は人間であり、俺と言う聖獣を手に入れた男は、他国を国を滅ぼす為に一つの命令を下した

「 御前は誰にも見えないだろ?だからさっさと行って殺してきてくれ。あ、王は殺すなよ。その首を晒し首にするんだ。そしてこの俺が王だ! 」

「 あぁ、なら良いことを思い付いた…… 」

コウガには言えなかった
俺がやり直せ、と言ったのが他でもない初めての召喚師だと言うことを……

「 なんだ? 」

「 もう一度やり直して出直してこい 」 

「 !!! 」

元の記憶が残ってるまま
愛情の欠片もない人を殺すのは主だろうと簡単だった
牙を喉へと突き刺して、息の根を止め
心臓が止まれば聖獣召喚の魔方陣が現れる

神の庭へと戻ってきたときに、何があったとか、何をした?なんて他の聖獣に問われても答えることはしてない、出来るわけもなかったのだが、彼だけは笑っていた

「 ははっ。流石、私が見込んだだけある。次に会うときは反省して変わると良いな 」

「 変わるのか? 」

「 そう、魂は巡るのだ 」

彼に言われ、俺は主が同じ魂だとその時に知る
それもあったか、召喚されてはいい人と、悪い人を見ては、悪いと思ったときに殺す事は早い

「 もう一度やり直してこい 」

また、いい人間になったときに見てやる
その気持ちが芽生えた頃に

俺が帰ってきたときには、いつもの寝床にいたフェンリルの姿はなく

彼は二度と戻ってくることは無かった

消滅したわけではなく、人間界で人によって聖獣としての契約をされたまま
命令を受け、黄泉の国へ繋がる入り口に繋がれてるとか聞いた

彼は番犬として其処に過ごしてると言う

「( どうでもいい…… )」

フェンリルは狼が通る道、それは成長し何度も召喚師に出逢っては実感する
狼を見かけては彼のように声をかけ、そして育てた者は人間界から戻ってくる者の方が少ない

元々、犬を大きくしたような忠実なフェンリル 
彼は人の為に何かを守っている

子育てにも疲れた頃に、俺の前にレイヴンから届けられた仔犬が来た

「( 御前も、帰ってこなくなる日が来るだろうな )」

俺は神の庭を気に入ってる為に、守れと言われた命令をする者を殺していた
此所に戻ってくれば戦争には無い安らぎがある

だが、子犬に出逢ってからは全てが変わり

俺の未経験な部分が仇となる

「 気持ちの伝え方が下手なのは、育ちとして許してくれないか。これでも、御前が堪らなく好きで好きで仕方ない 」

気に入ったものが死んだり、立ち去っていく
恋愛云々の前に離れていくことの寂しさを、
どう落ち着かせればいいのか分からないんだ

聖獣になって此処まで感情的になったのは
コウガ、御前に出逢ってから初めてだ

過去を思い出し、静かに告げた俺に
彼は獣の姿のまま耳を下げては顔を背けた

『 そんなの……なんか、恋愛感情に思えない 』

「 ……何故だ? 」

『 だってそれ、子育てしてる父親みたいじゃないか 』

違うと否定され、驚いた俺に
彼はふてくしたように告げた

子育てのパパ?そう言われた言葉に
一瞬、頭の中で子供を抱っこしてる父親の姿を思い浮かんだが、俺がコウガに向けるのがそれと同じだと言うのか?

「 いや、そんなことは!! 」

無いと言えるのか?
可愛いと舐めましてた子犬だった子だぞ
離れて欲しくないと怪我するのさえ心配だったのを思い出すと、冷や汗を感じる

「( いや、恋人だろ。恋人って寧ろなんだ!?えっ、俺は…… )」

じとっと見詰めるコウガに、俺は居たたまれなくなりその場を逃げ、部屋を出た

『 あ、シロ!!! 』

「 考えさせてくれ! 」

恋愛とはなんなのか
女を回して抱くあれと同じなのか

そう考えるとコウガを抱きたいと思った性欲に納得できるが
性欲を発散したい訳じゃない

「 っ!? 」

走ったままに洞窟を抜けた瞬間に、足元に広がった見覚えのある魔方陣に目を見開いた

「 聖獣召喚、成功したの……? 」

気付いたときには、目の前には綺麗なドレスを身に纏った若い少女の姿があった

この最高クラスのフェンリルを、こんな小さい少女が呼びだしたのか!?

「 よか、た…… 」

「「 リリア様!! 」」

俺を呼び出した事で気絶した少女に
その周りにいた者達は駆け寄った

そんな事よりコウガだ

「( 俺は逃げたままこっちに来たのか!? )」

珍しく平常心を保つのに苦戦した

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