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一章 聖獣への道のり編

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「 えいっ!! 」

『 わっ! 』

川を見ていた俺に、ランケは蔓を使い俺の前肢を掴んだ

そのまま川へと落とした彼に、深さに驚き顔を上げじたばたと泳ぎなんとか呼吸をするも水を飲んだのか咳をする
ランケは笑って蔓で川から浮かし気にも止めてない

『 ケホッ!俺は小さいから、気を付けて欲しい 』

「 ははっ。まだ子犬だもんね 」

『 子犬いうな…… 』

子犬だけど、子犬とは認めたくはない
小さくて不自由な身体だからこそムスッとすれば彼は蔓を動かした
一瞬、冷たく光るエメラルドグリーンの瞳の色に全身の毛が逆立つ感覚がある

「 小さいのに、なんで…最高ランクの聖獣に好かれてんの? 」

『 何が…… 』

頭の中で鳴り響く警戒音、本能的に川から上がった方がいいと察するも、彼の蔓が身体を絡み付き
徐々に首の方へと周り絞めていくのが分かる

「 聖獣ってどうやって手っ取り早く成長するか知ってる? 」

『 ランケ…?ちょっ、離してくれ……。もう、川から上がろ 』

不味いと思うのは本能なのか
身体を動かし蔓を引っ掻くも、彼は気にも止めず
瞳はじっと俺を見詰めた後に狼の口端が拡がっていくのに目を見開く

「 魔力を喰らったら……一番、早いんだよ? 」

『 !! 』

ブランシュが何かを察して離れようとしたのは
きっとランケが隠してるのに気付いたからだろ

狼の顔は四つに別れぱっくり開いたそれは、食虫植物に思える印象がある
身体が震える感覚と圧倒的な力の差を感じて身動きが出来ない

「 雷鳴の巨狼は直接喰えないけど、その魔力を持つ君を喰えば僕はもっと強くなれる……ねっ、幼いコウガくんっ 」

『 っ、俺を喰っても美味しくない!! 』

締め付けられた事で甲高い子犬の悲鳴が森に響く

雷鳴の巨狼サンダーフェンリル 
彼に会った時に初めて聞いた落雷の音を思い出せばその名前の意味が分かる
なら、ランケは最初から魔力を喰うために聖獣を捜してたのか?
そんなの、争いのないこの神の庭で行って良いことなのか

「 っ!!チッ、餓鬼!! 」

『 子犬、舐めんな 』

頭が割れたような程に広く口を開いたランケの瞳が、此方から離れた瞬間に
蔓を咬めば彼は痛がり離した、まるで触手のような蔓だからこそ、痛覚はあったのだろ

川に落ちる前に体勢を整え、岩の上に立ち、蔓を引っ込めたランケに向き合う

『 ヴゥゥ…… 』

子犬が唸ってもたいした威嚇にはならないことを知ってるが
易々と食われたくはない

「 抵抗しても無駄なのに、レベルを考えたら? 」

『 そんなのやってみなきゃ分からないだろ…… 』

ブランシュが怒った時に比べると怖くはない
ちょっと口がぱっかり開いて食虫植物みたいな口内をして、気持ち悪いなって位だが
他は重そうな身体じゃないか、ブランシュに噛み付いてた時に比べると反応が遅い

なら、逃げる隙を作る事は出来るだろ

「 はっ、いいねぇ~!!威勢の良さだけ認めて上げるけど。この世は力って事を教えて上げるよ 」

『 グルルル…… 』

もう少しブランシュに戦い方を学べば良かったと思う
召喚されない限り強くならないと思ってたからのんびり暮らしてたが
戦うぐらいは子犬でも経験できたはず

揺れ動く蔓はまるで彼の手足のように動き、それを反射的に避けては、川から見える石の上に立ち、蔓へと噛み付く

「 これなら、逃げれないよね!千華斬せんかざん 」

『( 魔法か!? )』

聖獣なら使えるだろうと思ってたけど、まさか本当に魔法を使ってくるとは思わないだろ

川の中から幾つも現れた鋭い植物の蔓で出来た剣山驚き、中へと飛び避けようとしても
この身体ではそう高くは飛ぶことが出来ず、目を見開く

『 ガッ、ハッ……! 』

「 っ、コウガ!!! 」

聞こえてきたブランシュの声が遠くに聞こえる

小さな身体に突き刺さった剣に
川に落ちる血が視線に映る

「 おや、保護者の登場?でも安心してよ、聖獣は死なないからね。ちょーと痛いだけ 」

『 グッ、あぁ!! 』

「 っ!テメェ!! 」

高速で回復するのが分かる、けれど其よりも速く
身体に何度も剣が突き刺さる

何度も切り落とされた身体も飛び散る血も
聖獣だからってだけで傷口は癒える 
生えるように復活する手足もまたランケは笑って落としていく

死を経験して、首を落とされた事も有るのに
生きたままバラバラにされる感覚はなれはしない

『 が、ぁ、ぁ…… 』

「 っ~~!! 」

「 あははっ!最高!!!弱い、弱すぎるっ。本当っ、聖獣とは呼べない程に弱いのに強がって、喰うのも意味無いぐらい弱い! 」

身体が震え、目が虚ろになる
陸に落とされた時にはブランシュの目の前で、俺の身体はちゃんと揃って有るだろうか

きっと無いからこそ肌に感じる静電気に、出逢ったときの事を思い出す

「 ねぇ、なんでそんな餓鬼を可愛がってるの?僕に力を頂戴よ 」

「 コウガ、すまない。気付いて居たんだ…。人間界で魔獣を喰らう聖獣が封印された事を…… 」

高らかに笑うランケの声と
俺の顔に鼻先を当て、少し休めと告げたブランシュの声

彼の身体から感じる電流の音が耳に届き
雲は濃く染まり、雷が近付いてくる

ランケは、ブランシュを怒らせたんだ
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