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番外編

03

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~ 一蓮 視点 ~

少し前に母の日に何をしようか考えていて、
結局思い付かず、直接お母さんに聞いてみることにした

「 ねぇ、お母さん。今年の母の日は何が欲しい? 」

お父さんの手料理は何処か店のようだったり、シェフが作るような完璧な味付けなんだけど
お母さんの手料理は毎回、味が違って濃い時や薄いときもある
僕や真二はお母さんのそれが好きなんだけど、本人からすれば下手だと思ってるのだろうか
余り作りたがらなくて、唯一晩御飯だけは母さんの手作りで
朝御飯、弁当とかはお父さんだ
言わずとも晩御飯が楽しみなのはお父さんもだ

『 ふふっ、そんな考えなくていいよ。誕生日にくれたじゃない。私はそれで十分 』

「 またそう言って……。誕生日と母の日は違うんだよ 」

学校が終われば家へと直行して帰り、手を洗ってからお母さんの夕食の仕度を手伝うのが日課
真二は部活の後に、少年サッカーのチームに所属してるから帰るのは夜の八時頃
お父さんと帰ってくるのは日常光景で、其までに晩御飯を作り終える必要がある

ゆっくりと自分のペースで作るお母さんに合わせ、手元にある切られてない野菜を何個か取り
隣でまな板と包丁を出しては、同じ切り方をする

『 そんなことないよ?気持ちだけで十分です 』

「 じゃ……もう、適当に考えるから 」

『 ふふっ、うん。そうしてくれると嬉しいな 』

適当とは言ってるけどそんな事は無い
昔から、お母さんが喜ぶ顔が好きで、その顔を見たくてプレゼントを色々考える時間も好きだったりする
でも、真二とプレゼントが被りたくないから後で彼奴にも聞く必要があるな

「 そう言えば、これなに作ってるの? 」

『 ん?親子丼。パパが好きでね 』

「 あー!僕も好き! 」

『 ふふっ、ご飯炊いてくれる?いつもより多めで 』 

「 りょーかい 」

お母さんの親子丼は玉子は甘く、汁はめんつゆが含まれているから食欲が進むやつ
お父さんが作ると全体的に薄味だから"病院食"なんて言われるほど
いや、それがレシピ通りで完璧なんだけど…
やっぱりもう少し濃い味付けは欲しいから、
お母さんの親子丼にはテンションが上がる

「 お母さんって……お父さんと一緒の時間無くていいの? 」

『 ん?どういうこと? 』

炊飯器の土鍋を持ち、お米を取り出して五合分の米を入れ、シンクの蛇口を捻って水を出し
手をいれる事無く軽く土鍋を揺らして、ゴミを取るつもりだけで水を流してから、それを三回繰り返した程度で炊飯器に入れ、冷凍庫から氷を入れスイッチを押す

「 だから、デートとかしないじゃん? 」

『 あー、もう……そんな歳でも無いからね…… 』

「 歳ってお母さん若いじゃん。父さんは四十七だっけ?そんぐらいだけど…… 」

年齢差があることは見て分かる
それでも周りの人も文句やら戸惑いの声を向けることもなく、二人の雰囲気は優しく仲のいい夫婦

でも、お母さんは三葉が生まれてからお父さんと過ごす時間が少ないようにも見えて
僕はそれがちょっと心配だったりする

『 うーん、パパはきっとデートする体力は無いと思うんだよね。そんな事をするぐらいなら家でゆっくりしたいと思うし…… 』

「 “そんな事をするぐらい"、なんて言うならあの人の尻を蹴れるよ 」

鍋に火をかけ、材料である水、めんつゆ、みりん、砂糖を目分量で入れていくお母さんの手元を何気無く見てから使ったものを洗っていく

『 ダメだよ。パパは仕事で疲れてるんだからさ 』

「 でもさ……お母さんと一緒にいる時間ぐらい作ったらいいのに。三葉の事は僕が見るし…真二だって、あんな奴だけど、結構しっかり……! 」

手元が石鹸で泡立ってた僕に、お母さんは微笑んでそっと背後から抱き締めてきた
いつから、僕の方が身長を越えていただろうか…
肩甲骨辺りへと額を当て、答えた

『 一蓮……気持ちだけで嬉しいよ。ママは皆と一緒にいる方が大好きだからいいの。だからね、デートぐらい…別にいいのよ 』

「( お父さん殺す…… )」

こんな事を言わせて、あの人は帰って来て“あー疲れたぁ“なんてほざいているのか
蓮叔父さんに聞いたら、急がしいけど座って書類見たり、訪問する人と話す程度
歩き回るサラリーマンみたいな仕事はしてないと言ってた……書類を見るだけみたいにのに…体力無い?
くそじじぃかよ……

「 ……お母さん、いいけど、沸騰してる 」

『 えっ、わっ、あっ! 』

手が泡だらけじゃなかったら抱き締め返していた
後ろからなんてあざといし、狡い
でも…されるのは嬉しいと内心思っては洗い物を終わらせる

お母さんは一つずつ作っていく為に、次の親子丼に合うものを作り始めた

「 ただいまー! 」

「 はぁ、ただいま… 」

『 お帰りなさい、真二、パパ 』

「 パパ、お兄ちゃんおかえりー! 」

夕食が出来終わる頃、二人は同時に帰ってくる
体力が底無しの真二は明るい挨拶をして、疲れてる様子のお父さんは駆け寄る三葉を抱きげては笑みを向け、近寄るお母さん頬へと口付けを落とすのが日課だ

少しだけ嬉しそうにしたお母さんは上着と鞄を持ち片付けに行けば、この人は顔を動かしスンッと鼻を鳴らせば匂いで気付いたらしい

「 お、今夜は親子丼か。腹が減る 」

「 母さんが作ったやつか!? 」

「 そうだよ 」

「 マジか!よっしゃ、めっちゃ食おっ! 」 

「 ママとおにいちゃんがつくったんだよー 」

リビングで遊びながら見ていた三葉に、お父さんはそうかと笑っては頷き、手を洗って汚れた服を脱いできた真二は中シャツにパンツ程度になりキッチンに来てお茶を飲む

『 さて、帰って来てすぐだけどご飯にするよ 』

「「 うん!/おう! 」」

我が家では出来るだけ、朝と夜は一緒に食べようと言う習慣がある
だから全員が帰ってくるまで晩御飯は遅くなったりするが、それでも家族の時間はある
飯を食い終われば其々の時間になるのだからね

「 俺、大盛りで! 」

「 俺も頼む 」

「 みつはもいーぱい!たべる! 」

『 ふふっ、沢山有るからしっかり食べてね 』

炊いたご飯をどんぶりへと入れ、其々量が違えど大食い二人はスレスレまで入れてから、鍋ごとそのまま作った具を乗せ、中に入っている汁をかけては俺が他の物と共にテーブルへと並べる
白菜と山芋のお味噌汁、タコとキュウリの酢の物、牛肉のオイスターソース炒めがテーブルを彩り、冷蔵庫の残り物も出せば、其々に座る

「 カロリーの暴力…… 」

『 そう言うなら食べなくていいよ? 』 

「 喜んで食べます 」

「 父さんの料理が薄いんだよ。俺は母さん派 」

「 同感 」

『 ふふっ、それじゃいただきます 』

「「 いただきます 」」

“カロリーの暴力“ってお父さんの口癖だが、嫌味ではないのを知っている
自分が作るとカロリーやレシピ通りを気にして美味しく食べれないからこそ、お母さんの手料理が好きなのは皆同じ

真二は早々に親子丼を口へと含ませて、頬に米を付けては笑顔を向ける

「 んー!やっぱりこれ、めっちゃうまい! 」

「 嗚呼、美味しい…。甘いものが食べたかったんだ 」

『 疲れてると甘いものや酸っぱいものが欲しくなるからね 』

「 おいちー! 」 

スプーンが上手く使えるようになった三葉もお母さんの横で嬉しそうに食べている
豪快に食べる二人をよそに、改めて久々の親子丼に舌鼓していれば咥内に広がる甘味のある玉子とめんつゆで作られた具は美味しいと思う

「 ……美味しい 」

『 ふっ、ありがとう 』

「 ん…… 」

優しく笑うお母さんを見ると、俺はきっとお母さんみたいなタイプの女性を好きになるんだろうなって思う 

「 味噌汁もタコもいいなー。腹減る 」

「 食ってんじゃん…… 」

「 食ってるけどお腹空かね? 」

「 分かる……けどな…… 」

食欲がそそる料理、それを作れるのがお母さんの手料理だと思う

結構量を作っていた親子丼は空になり、他の料理も無くなった
後の惣菜はまた明日の朝に回るだろうが、それはそれで品数が増えるから嬉しい

『 さて、入れる子からお風呂入っておいで~ 』

「 よっしゃー!一番もーらい 」

風呂の順番は運動して汚れている真二を始め、
次にお父さんと三葉、その後に僕が入りお母さんは家事を終えた最後にゆっくりと入る

それが普段の順番の為に、風呂の順番になる前は自分達の事をする

「 お父さん、ちょっと勉強教えてくれる? 」

「 嗚呼、いいぞ 」

基本的に夕食後は、リビングにあるダイニングテーブルで俺は中学生の勉強ではなく、進学したい高校の勉強を教えてもらう
普段は疲れたとぼやくお父さんだが、頭はいいんだよね…

「 ここはな…… 」

「 なるほどね、こっちから式を使うんだ 」

将来何になりたいか、なんの職に就きたいか、まだ考えては無いけれど
出来れば医者になって親孝行したいと思う
まぁ、医者になるよりお父さんの会社を継ぐことになるんだろうけどね

高校だってビジネス専攻だし……

「 さて、三葉。お風呂に入ろうか 」

「 うん! 」

「 その式を答えたら後で教える 」

「 ん、ありがとう…… 」

試しに解いてみろ、なんて言われた式は絶対に教えられた以上のものがある
なんで高校の勉強出来るかって、この人の勉強方法が余りにも先に行きすぎて、ついていってたら中学生ぐらいは余裕になっただけだ

案外、真二も俺と同じぐらいの知能はあるからな……

風呂へと向かった後に二人を見た後に、お母さんはソファーに座りTVを観る
その様子にやっと休憩出来てるんだと思えば、真二は飲み物と菓子を持って部屋に戻ろうとした為に片手で招く 

「 なんだよ 」 

「 お父さんの問題、答えられる? 」

「 ん?あぁ、これ……答え115だろ?式はわかんねぇけど…… 」

「 式分からないと意味無いのに…… 」

パッと見ただけで答えが分かるのはある意味天才だが、高校では式を見て評価が決まる
答えだけ書いても、其までに使った計算式を書かなきゃ意味がない

「 んー……こうじゃね? 」

「 ………… 」

「 よし、部屋に戻ってゲームしよ 」

シャーペンを持って早々に式を書いた真二は、ごく普通に部屋へと戻っていく

その式を見て、僕は思ったよ

「 お母さん……お父さんの会社を継ぐの、彼奴の方が向いてるって…… 」

『 へぇ?あ、真二は賢いからね~。別に会社は継がなくていいのよ 』

「 いや……… 」

賢いレベルじゃないって……
気付いて、お母さん…
才能の無駄使いしてゲームばっかしてる真二の将来を!!

自分の弟が恐ろしいと思いながら、どんな式なのか解くのに時間がかかった

「 また真二に教えてもらったな?追加な 」

「 ………… 」

お父さんは真二の才能には気付いてるようだ
やっぱり俺は、気になる医者にでもなっていいだろうか……

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