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『 なんか、聞こえない? 』

「 へっ? 」

静かな空気、なんて話をしようか
そんな事を考えてたら問われた言葉にキョトンとする

「 雨の音が強くてなにも? 」

『 ....いや、聞こえるよ 』

「 えっ?ちょっ、出るなんて....! 」

急に立ち上がった彼女はどの方面から聞こえるか顔を向けるも、俺は彼女が立ち上がった場所に見えた赤い色に驚いた

それは目線を彼女の方に向ければ、腰辺りに流れるそれに一瞬自分の手の平の事を思い出す

『 あっちから.... 』

「 シルキー、待って! 」

『 なに? 』

初めて名前を呼んだかも知れない
それだけ焦った俺に彼女は振り返れば、俺は立ち指を腰辺りへと向けた

「 その傷、いつから?もしかして俺が脚を引っ張った時に? 」

『 えっ?ふぁっ!? 』

驚く様子に傷があったことに気付かなかったの?
そんな結構血が流れてるのに気付かなかったとか、どんだけ雷の方に意識を向けてたの

『 あ、なんか....痛いと思ってた.... 』

「 俺のせいと思う....ごめんね。血を拭こ.... 」

『 それより声!なんか、声がしたんだよ、こっち! 』

「 えっ、ちょっ! 」

服しか無いけどそれでも血を拭いた方がいいと、思った俺を他所に彼女は雨の中走っていく

その姿に驚いて、引き止めるより先に脚が動き追い掛けていた

「 ちょっ、待ちなって。満潮の時間なのに! 」

夕方の筈なのに、雲に覆われてるから暗くてよく見えなくなってきた

其よりも雨の中、なんの音か知らないけど
その音を頼りに立ち止まっては耳をこらして、また走る彼女に着いていく方が大変だ

『 どっちから 』

「 待ちなよ!そっちは海側.... 」

手首を掴んで引き止めた時には、既に足元は濡れ
満潮の時間によって水嵩が増したんだと知った
此所はさっきまで砂浜だったはず....

『 知ってるでも、声がするんだよ! 』 

「 だから、なんの!? 」

その言葉を告げた後に僅かに聞こえてきた音、それは獣の声だった

「 えっ? 」

『 近いよね....?でも分かんなくて.... 』

「 確かに聞こえたけど 」

雨の音の方が強くて、聞こえたきた方向すら分からないと二人で辺りを見渡せば
手を緩めた隙に彼女は海の方へと走っていく

「 あ、ちょっ!! 」

本当危ないことをすると思う、そんな声
聞かないフリでもしたら良かったのに....

砂浜から、俺達が遊んでいた反対側の岩場までやって来て来れば、彼女は声のする場所を見つけた

『 うそ....待ってて、直ぐに開けるから! 』

「 えっ.... 」

彼女が膝を付き座った足元にあるのは、3分の1が濡れている段ボール箱
その中から、密かな声は聞こえてるも段ボールの上にはガムテープで何重にも貼られていた
まるで、中身にいる獣を出す気は無いみたいに....

『 開かない.... 』

「 先に箱を移動した方がいい、戻ろう! 」

『 わかった! 』

箱を其処で開けてたら水嵩が増すと思い告げれば、彼女は箱を持ち上げた

声は聞こえてきた時よりも弱々しく聞こえて、雨の中、急いで屋根のある場所へと戻った

『 どうしよう、開かない.... 』

「 濡れた底の方が脆いと思う。貸して 」

『 う、うん。そっとだよ 』

「 分かってる 」

顔を手で拭き、水気を取ってからテーブルの上に置きガムテープから開けようとする彼女に、俺は居てもたっても居られなくなり箱を傾け、底の濡れて柔らかくなった場所に爪を立て、穴を開け
無理矢理箱を裂き破る

「 ほら、脆い....。コイツは.... 」

『 しょーた凄い!良かった! 』

箱の底が全て外れ、空の箱を地面へと落とせば震えている獣を彼女は優しく抱き上げた

『 寒いね、怖かったね....もう大丈夫だよ 』

クーーン......

「 なにそれ、熊? 」

『 犬だよ。熊なわけないじゃん 』

真っ黒くてずんぐりとした両手で持てる程の獣は、犬らしい
子犬のようでまだ目はそこまで見えてるようには見えなかった

「 子犬....えっ、子犬を箱に詰めて海際に置き去りにした奴いるの!? 」

『 捨てたんだろうな....満潮を知って 』

「 ....うわ.... 」

『 中身は一匹か....其々別のところに捨てたのかな.... 』

兄弟が居ないと呟いた彼女に、この大きさなら他にも兄弟がいるのだろ
確かに子犬にしては小さい....いや、ちょっと大きくない?

ペットショップで見たチワワより大きい気がするよ

『 寒いって....どうしよう 』 

「 擦って暖めるとか.... 」

『 あ、そうだね 』

犬なんてペットショップとか散歩のしか見たことないから、こんなにも震えて弱々しいのかと不思議に思う
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