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別ルート
十三話 与えられた使命
しおりを挟むネイビーと喧嘩してから少し経過した
ルビーは日々一生懸命に覚えようとしてるらしくて、今日はやることは終わったし
ルビーの場所に行こうかと思って、長い廊下を歩いていれば、向こうからやって来るブラオンに挨拶でもしようかと片手を上げる
そう言えば久々に会うんだから、御腹はどうだろうかなって気になる
『 ブラオ……えっ…… 』
名を呼ぼうとすれば、彼は一瞬俺の姿を見るも僅かに頭を下げた程度で真横を素通りしていった
『 ………… 』
行き場の失った手を下ろし、振り返ればスタスタと歩いていくブラオンがいる
余りにも分かりやすくスルーされた為に彼奴に似た他のやつ?なんて思ったが、本人に違いない
なら、何故…無視をするのかと疑問になり内心ちょっとイラッとしていれば、目についた烏の頭をした兵士はやって来た
「 おや、ルイ様。寝る時間ですか? 」
『 ……そうだけど、ちょっと聞いていいか 』
「 なんでしょう? 」
余り増産型の魔物は見分けが付かないのだが、この烏だけは、分かると思う
よく会うし、比較的に俺の周りに居ることが多いのを知ってるために、最近はハクに相談するより彼に話す方が直ぐに聞ける
ハクは探さないといけないからな……
『 今、ブラオンに無視されたんだが……彼奴は俺に殺されたいのだろうか 』
「 いやいや、そんな事は無いですよ! 」
『 何でだ? 』
御前の方が焦ってる理由が分からない
大袈裟に左右に振った首を見ていれば、烏はコウモリのように羽の先端に付いた手を動かし答えた
「 それは受精してる雄だからですよ。もう受け取ったので次の交尾まで女王蜂とは関係無いですし 」
『 受け取るってなんだよ……その、配達みたいな 』
「 えっと、例えるなら……女王蜂は荷物を送る方、雄は配達係り、子供は受け取り人又は配達物ってことです 」
例えられても頭の上には疑問符が浮かぶばかり
ちょっと待て、とばかりに片手を前に出し言葉を止め、頭の中で整理をする
俺は卵子を送り、それを雄(配達係)が受け取り、巣に子供を渡すだけ……
それは、要するに……俺から卵子を貰えさえすれば俺の事なんてどうでもいいってことか?
ネイビーが卵にも感心が無く、腹に入ってた時を異物なんて言ってた意味が分かるが……
『 じゃ、ハクが最近来ないのも受け取ってるから届けるまで無視してるってことか? 』
「 はい、雄の役目は産むだけですから 」
『 ふーん、そうか 』
女王蜂が植え付けるだけ、雄は産むだけ、そして子供は其々に役目を与えられてるだけ
それなのに、彼等は受け取るためだけに此処まで来て媚をうって、交尾がしたいと望むのか
『 孕むことが幸せなのか? 』
「 勿論。雄にとって唯一の生まれた意味になります 」
『 じゃ……女王蜂は? 』
「 子孫を増やすことが生まれた意味です。そして、次の世代(女王蜂)を生み出す事です 」
此処に来て、生きている存在意味を考えていた
そんな答えは、俺が考えるより早く彼等は知って受け止めて居たのか
自身の思考と周りの価値観が合わないまま、どうやって生きていけばいいか悩んでたが
俺には孕ませる事しか無いじゃないか…そんなの分かってたはずなのに、やっぱり受け止めてきれないな
『 じゃ……御前も、俺には繁殖して欲しいのか 』
「 勿論。若き女王蜂(レーヌアベイユ)なので沢山の子に恵まれる事を皆、楽しみにしております 」
俺達、皆……そこに“一人“の意思はない
全員同じ気持ちだと言うのか、そして恋愛感情なんて馬鹿げた者は彼等に無い
本当、行為はあっても好意は持ってないよな……
愛されたいとか、誰か一人を選びたいとか
言う資格は無いんだ
女王蜂(レーヌアベイユ)として堕天して生まれた時点で、この世で生きる理由は好きでもない雄に孕ませるだけ
俺が根っからの男で、女達に好きなだけ孕ませていい、なんてよくあるR18指定のエロ漫画の主人公みたいなら出来ただろう
だが俺は元女であり、アランとの子を望んでいた奴でもある
そんな奴が、誰でも孕ませれる訳がないだろ
ハクもブラオンも、孕めば俺自身に興味が無くなったように姿を見せなくなる
「 ルイ様……どうしましたか? 」
『 俺は……っ……もういい……教えてくれてありがとうな 』
「 あ、ルイ様! 」
死にたいと望んでは駄目だろうか、自殺など考えたことは無かったが、今なら逃げてこの世で生きる理由を失いたくなる
逃れることの出来ない使命を投げ出したい
烏の兵士から離れ、誰に会うこと無く部屋へと戻った
ルビーもきっと生まれてから役目の為に動くのだろ、親が居なくても生きていけるような子を見てどう世話したらいいんだ
『 もう……消えたい………… 』
弱くなった涙腺を止めることが出来ず涙を流し、部屋にある窓を見ては、近付き扉を開く
高さは四階程だが、落ちれば多少なりと痛みがあるだろ
『 ……死ぬことは出来ないだろうけどな 』
魔王になったこの身体
人間のものでは無いと分かる
頬に感じる冷たい風や乾燥した大地の匂いを嗅ぎ
死ぬことは出来ない身を投げ出し、ふちに脚をかけ呼吸を整えること無く前から落下した
『 っ…… 』
風の抵抗を感じ、一瞬の出来事さえ長く思い
広げようとする羽を意識的に閉じたままにすれば地面が近付く感覚に息を詰めた
「( ルイ!? )」
当たる……その事が分かった瞬間に開いた羽はスレスレで回避し空へと飛び上がる
『 っ……最後まで閉じていればいいのに…… 』
重く濡れて飛べない羽なら落ちることが出来ただろうに、今は綺麗に生え揃って羽油もしっかりとある
死ねなかった事に苦しくて、そのまま六枚の羽を動かし城のてっぺんまで飛んでいく
どの場所より高いところ、三角の先端に降り立ち、赤い月を見上げては広いのに、狭い世界を見渡す
『 此処からじゃ人間が住んでる方は見えないのか…… 』
もっと高い位置からじゃないと、堕天した時のように見渡せないらしい
つまらないと思いながら、風の冷たさや物静かさに鼻先は痛む
「 ルイ!御前は、何をしてるんだ! 」
『 …………なにって 』
聞こえてきたのは、喧嘩したはずのネイビーの声
彼は人の姿ではなく、本来の姿である獣の姿をして器用にこっちまでジャンプして登ってくれば、先端の下にあるバルコニーに立ち見上げてきた
「 降りてこい、危ないことをするな! 」
『 ……妊娠中は興味ないくせに 』
「 なにいってるんだ 」
そんな心配されなくても死にはしない
飛べてしまう羽を持ってるのだから……
少しだけ子供っぽく、口先を尖らせて告げた俺に
彼は獣の顔をしたまま眉間にシワを寄せた
『 ……ブラオンもハクも、妊娠中だから俺を無視する。妊娠前は話し掛けてきたのに 』
「 受け取ってるからだろ。それがなんだ 」
『 ……だから、御前も…俺を無視するんだろ 』
子供のように我儘だと分かってるのに、口から出るのは嫌味ばかり
俺ってこんなめんどくさい奴なんだなって思いながら、そっぽを向いて居ればネイビーはその場でお座りをし、ふんっと鼻息を鳴らした
「 ………最初の頃は否定しなかったが、今は違う。目で追い掛ける程は気にかけている 」
『 二人目を欲しがったくせに 』
「 だからそれは……御前が腹がデカい時の方が触ってくるからだろ。俺は子に興味はない、御前に興味がある 」
『 ……なにいってんだ? 』
第一印象はクールで無口で無愛想な奴だと思っていた、無愛想なのは今も変わらないが
案外、よく喋るし戸惑ったり、怒ったり、泣いたりする表情を見れば第一印象なんて砕けていく
意味の分からないことを言い始めたネイビーへと視線を落とせば、暗闇でも分かるほど夜空のように美しい紺色の毛並みは光り、普段の紺色の瞳は今は金色に光る
獣は目線を泳がし、言葉を考えれば此方を見上げてきた
「 ……俺は、御前との交尾は気持ちがいいと思う 」
『 …………は? 』
もしこれが不器用な告白とでも考えたら、こいつは凄く変なことを言ってるだろ
子供には興味なく、俺に興味あって、交尾が好きだと言ってる
どれだけ口下手なんだ……流石に、交尾が気持ちという告白は無いだろう
気を向けようとする言葉だろうが、それすら本当かどうか怪しくなる程の事だ
『 当たり前だろ、俺は女王蜂だ 』
「 女王蜂だが……クロエとは違っていた 」
『 ……また、元女王蜂の話かよ 』
「 待て、最後まで聞け! 」
誰もが比べる、元女王蜂であるクロエの存在と
その言葉に聞き飽きたと立ち上がった俺に、ネイビーは止めれば言葉を続けた
彼の必死な感じは伝わってくるからこそ、そこまで必死だと逆に冷める
「 俺は一度、若い頃のクロエに誘われたことがある。繁殖場にも入ったが射精出来なかった 」
『 ………… 』
「 初めて御前と交わした日に、初めて射精が出来た。子も生まれた……雄として使えるんだと嬉しくなった。俺は、御前との交尾じゃないと繁殖出来ないんだ 」
もし二度、身体を重ねた相手に射精出来たと喜ばれて、どんな反応をすればいいのか
俺としか!?そかそか、なんてポジティブに喜べるほど、俺は素直じゃない
『 だからなんだ、繁殖出来る女王蜂が見付かったから気になるのか。雄は産みたいだけだもんな…… 』
「 御前が触れてくれるなら孕まなくてもいい 」
『 なに言ってたんだ? 』
「 言っただろ。御前に触られたい為に妊娠するんだ 」
腹が膨れてない時は、確かに触ることも減った
そして、腹が膨れてるときはネイビーのデレも多かった気がする
二人目を強く願ったのは、俺を引き止める為だと言うのか……
巣の為に繁殖をすることが目的じゃ無くなったこいつは、雄らしく無いと思う
「 誰か一人と望むなら、俺がそれに答えれる努力をするから……御前も、俺に愛情(好意)を向けてくれ 」
魔物だから、雄だから……
そう突き放してたのは俺なのか……
不器用な言葉に、少しは心が動かせられた俺は軽く笑っては羽を広げ彼のいるバルコニーへと降りれば、獣は目線を落とした
「 ……御前のお気に入りになりたい 」
サーベルタイガーみたいな怖い容姿なのに、今は飼い主に怒られて反省してる猫みたいに身が丸くなってる
耳も後ろに下がり、立派な角だけが不自然だと思うがそれがまた不器用な感じがして面白い
『 分かった……押しに負けた。お気に入りにする、なんて言葉じゃ足りないだろ?どうすればいい? 』
「 それは…… 」
きっとやり方があるのだろ
サタンが継承の印を俺に渡した時のような方法だろうかと考えていれば、彼は立ち上がり俺へと背を向けた
「 ……本来の姿で、俺を求めてくれ。お気に入りには全てをさらけ出す必要がある 」
『 ……は? 』
本来の姿、俺の??
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『 嘘だろ……? 』
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