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人間よ、幸せになれ……

そう願っていたのに、
次にクオレが来た時は隠れてやってくるのでは無く
正面から来た為に、天使に抑え付けられて来た事に驚いた

神の裁きが下される、裁きの間にて
拘束されたクオレを見て、俺は驚き他の大天使達もざわついた

「 何故、態々捕まったんだ? 」

「 噂なら…この人数程度殺せるだろう? 」

「 死にたいのか? 」

そう、クオレにとってここにいる者
全てを殺す事は可能だろう
だが、コイツは武器を持つこと無く天界に侵入し、敢えて捕まったように思えた

「 サタンの息子……。御前は何故、此処に来た? 」

一柱の神の言葉に、大天使達は口を閉じ
全員がクオレへと視線を向けた
捉えられたときに傷をつけられた彼は、声のする方に顔を上げた

「 俺をニンゲンにして欲しい……。神様なら、出来るって聞いたから 」

「 !! 」

その言葉で、クオレが連れてきた人間に惚れたんだと知った
人間になりたいほど、人間界で暮らしたい程にその者を愛したのか
 
ざわつき否定の言葉が投げかける中で、俺はその場から離れクオレの背後へと降り立った

「 ならば、私が殺しましょう。神々よ、私にこの悪魔を殺す事をお許し下さい 」

「 エカード様が態々手を下すのか? 」

「 いや…エカード様だからこそ…良いのかも知れない 」 

最高ランクの大天使が、悪魔を殺す事を望んだ事によって
他の者が手を下すより良いと思ったのだろう

神々は、クオレが死後…魔界の下級悪魔になる事を条件に承諾してくれた
だが、それと同時に俺にもまた言葉を告げる

「 エカードよ。もしその悪魔が人として道を外した時には…オマエも同罪よ 」

「 天界には居られぬと思え 」

「 構いません。この悪魔が、愛しい人を殺めたのなら…私は魔界に堕ちましょう 」

もしかしたら、俺は魔界に堕ちることを望んだのかも知れない

それでも、人間になる為に一度だけ本気で消滅させる必要がある事に胸が痛んだ

何処か俺の雰囲気に似た人間
彼が、クオレに愛されたものなのか
深い話は知らないが、それでも羨ましいと思った

クオレを斬る瞬間、流れ込む記憶にこの人間がどんな相手なのか気付き
喧嘩の内容も、人間になろうとした事も馬鹿らしく思えるほどに
やっぱり…クオレは、クオレであり

この人間は、少しそれに動揺してるのだと思った 

「( 人間……。クオレはまだまだ幼い。気持ちが一途で戸惑うだろうが…信じて受け入れれば、必ず想いは通じ合う )」

そう願い、人になったクオレを見届けてから立ち去ったのに…

二ヶ月も経過しない間に、クオレは人を殺しまくったじゃないか
それも、魔界に連れて行く為にあの人間も殺すなんて

「 エカード、約束だ。御前を魔界に堕とす 」

「 ………( あの、馬鹿…… )」

天使だったら言わないような言葉を心の中で思い、足元に穴が空いたように落下していく
 
その間に方羽は黒く染まり、酷い頭痛と共に角が生え、尾は揺れる

「 ……確かに、クオレは単純で、馬鹿で、一途であり、性欲が強くて心配だろうが……もう少し、信用ぐらい出来なかったのか? 」

「 すみません…… 」

昔話を聞きたいと告げた、神崎 真琴
ゆっくりと話している間に、彼の顔色は徐々に青ざめていく

岩の上で片足を立てて、目の前で何度目かの脱走を試みて
巨大な牡羊になって暴れ狂ってるクオレを見物しながら言えば、真琴は頬を掻き視線を外す

「 性欲が強い相手が初めてだったので… 」

「 俺も、初めてだったさ…。だが、抱くのは興味と愛情の狭間だろう。言葉では無く触れて知ろうとする悪魔にとって…受け入れてやることが何よりも大事なことだろ 」

俺に性欲を向けた日、神父としてではなく
一人の人間としての興味を向けてきた
単純に美味しそう、お腹が空いたから生気が欲しい

そう言った理由だろうが、触れる度に俺の心を探るように身体を開いてくる 

「 淫魔は、興味のない者は一度しか抱かない悪魔だ。だが、何度も求める辺り…答えは出てないか? 」

「 っ……確かにそうかもしれない…… 」

味気の無い生気や、精子なら奪うだけ奪って立ち去るだろう
だが、美味しいと少しでも思ったから何度も求める
その時点で、クオレの中では確定するものがある

それを知った時、俺は紛れも無く愛おしい存在だと思ったがな…

「 俺は…クオレを信用しきれて無い事を自覚している。今でも…少し嫉妬している 」

「 ふっ……。そんなグジグジ悩んでたら次は俺が、彼奴を捕らえるぞ? 」

「 えっ…… 」

「 なんせ、今はもう天使でも無いんだ。手段を選ばなくて良い場所にいるんだからな 」

愛されてる事を自覚しないコイツに、少しだけ虐めてやろうと意味深な言葉を向ければ
不安な顔をして、俺とクオレを交互に見つめた

少しだけ似てるのは顔と雰囲気程度で、話してみると全く別の人間に思えるんだがな

俺はこんなにウジウジはしてなかったと思えぞ…?

「 クオレー!おいでー 」

「 ちょっ、エカードさん!! 」

「 グァァッ!! 」

「「 ぎゃぁぁっ!!? 」」

呼んだ事に反応した大きな羊は、辺りの悪魔を吹き飛ばしてから一瞬で姿を消した

そして、次の瞬間には背後に現れ…
俺の腹へと腕を回し抱き着いてくる

「 エカード♡なーに、呼んだ? 」

「 嗚呼、呼んださ。俺も堕天使になった…子作り出来るぞ? 」

「 ほんと!!? 」

「 ちょっ、クオレ!!御前の伴侶は俺だろう!?何本気で喜んでるんだよ!! 」

クオレが嫉妬を抱く事はない
絶対的な自信が彼にはある
 
この真琴が、他の奴に浮気しないと思うからこそ 
それを裏切られて、信用しないと思われた時は寂しいのだろう

お互いに知らない事が多いと見ていて思う

「 ほら、悪魔は一夫多妻制だから…俺がサタンになれば…妻が何人いても…… 」

「 良くない!!そんな何人も作るなら、俺はディアモンと浮気するからな 」

「 ちょっ、俺を巻き込まないでくれ!? 」

「 へぇ……んじゃ、殺すか 」

「 テメェも本気で殺意向けんな!! 」

クオレに剣を向けたとしても、こいつは俺を嫌いにはならなかった
だからこそ、嬉しいと思ってしまうんだ

此奴の愛情は、どんなに月日が立ち
敵同士になろうとも、愛した者を嫌う事はない

「 兄貴、殺し合いも愛情だよ? 」

「 いやいや!兄貴を普通に愛してくれ!!! 」

「( なんだかんだで…。皆が、クオレが好きだから、一番大変なのは真琴かもな…? )」
 
大変な奴を好きになったな、と傍観しながら騒がしい彼等を見て俺も笑っていた

天界では一切、声を出して笑うことが無かったのに
此処では腹を抱えて笑えるなんて、堕ちてきた甲斐がある

「 エカードさん……ボクの、お嫁さんになってください…… 」

「 じゃ…パパを超えるような魔王になったら、答えてあげる 」

「 わかった!パパたおして、強い魔王になる!! 」

それに此処だとモテるしな
魔界に咲く花をくれた、クオレの二男の頭を撫でてはその花を見て思う

今から、永い月日をかけて彼等はお互いを知り合う事が出来るのだろう

そして俺は、この小さな子供の妻になるんだろうな

「 ふふっ……。楽しみにしてるよ 」

クオレによく似た容姿をした

幼い魔王のな……



~ エカード 視点 完 ~
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