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いつの間にか部屋に戻ったか覚えてない

只、日曜日のバイトを行かないといけないと考えてると身体は鉛のように重く動きはしない

こんなにもショックを受けたのはいつ以来だろうか....

あの厳ついお兄さん達が言ってたことが本当だと言う証拠は何処にも無いのに其れが本当の様に聞こえてしまう

「 一ノ瀬さんが、そんなことするわけないだろ.... 」

そう言葉では言えるのに、彼を全て知ってるわけがない俺の言葉など確信なんて有るわけもない

「 っ...... 」

もし、一ノ瀬さんが両親を追い詰めて殺してしまったのなら俺の憎む相手の筈なのに其れが出来ない

もう一度会おう、会いたいと望んだ人にどうやって顔見せしたらいいのか分からなかった

「 ....ん? 」

振動するマナーモード
横たわっていた身体を起こし、ちゃぶ台の上に置いていたそれを開けば一度だけ動いたマナーモードの原因がわかる

すれ恋、そのアプリにメッセージが来たと言う内容に現在話してるのが一ノ瀬さんしか知らないために、彼だろうと思い開いた

どんな内容か、次の会う誘いなのか

メッセージの内容を見るまでに少し戸惑い、そして開いた時に見た文に胸は痛んだ

「 ...そんな、やっぱり俺が弟だと知ってるんですか....! 」

価値観が合わない、それは分かっていた
けれど一ノ瀬さんの前に兄が現れてから俺が家に戻り厳ついお兄さん達から聞いた話しの後にこのメッセージは、その事について関係あるから会うことを止めたように聞こえて仕方ない

「 ....価値観なんて、関係ない。貴方に会いたい.... 」

泣きそうになりながら震えた手で打った文字を送信した時には、既にエラーで返ってきた
彼が俺をブロックしてるんだとおもった

唯一見えるプロフィール画面へと移動すれば息は詰まるように悲しくなる

「 ユーザーがいません....辞めるなんて、酷いです.... 」

もう、彼はアプリを退会していた

メッセージも送れない、連絡先も知らない

高校生の俺が社長にそうそう会えるわけもなくて、なにも伝えられないままに終わったんだと察した

「 なんで....黙ってたんですか.... 」

俺が弟だと知ってたなら、一言でも兄の名前でも言って確認して欲しかった
俺が彼を陽妃さんのお兄さんだと知ってたように....

何処まで知って、何処まで知らなかったのか....聞くチャンスを失った俺は大きな沼にはまったように出ること無く沈んでいく

「 バイトに....行かないと.... 」

感情に流されてバイトを休むなんて出来るわけもなくて、只行くと言う思いだけで立ち上がって服を着替えていく

「 たっだいま~! 」

「 !! 」

玄関の扉は開きに明るい声で帰って来た兄の姿を見て驚く

何故、平然と入ってこれるのか分からなくて思いを伝える先を失った俺は兄へと近付いた

「 珍しいねぇ。玄関に貼り紙がないってさ。おや、海君はバイトかな~頑張る....っ! 」

「 一ノ瀬さんとどういう関係だよ!! 」

両手で胸ぐらを掴み睨んだ俺に驚いた表情を見せた兄は直ぐに笑みを浮かべる

「 どうって?元同級生なだけだよ?海君、そんなに怒ってどうしたの? 」

「 とぼけんなよ。聞いたんだからな.... 」

「 なにを? 」

あの人達が言っていた、聞くなら直接聞けばいいと
なら聞くしか無いだろ....本人に....

「 父さん達はもう死んでるんだろ? 」

「 !! 」

図星のように笑顔が消えた兄に俺は涙を流し震えて問いかける

「 借金が返しきれなくて、其を問い詰めた一ノ瀬さんによって....10年前に自害してるんでしょ.... 」

「 っ、誰から聞いたの.... 」

「 借金取りのお兄さん達だよ。彼等は....一ノ瀬さんが雇ってるんだよな.... 」

10年前なんて俺はまだ8歳の子供だ
一ノ瀬さんだって22歳ぐらいなのに
それなのに彼が追い詰めるなんて思えない

子供だった俺は何も知らないまま、兄が笑っていってた言葉を鵜呑みにしてたんだ

" 父さん、母さんも海君が学校行くために頑張って遠くで働いてるんだよー。まぁ、賭け事だから負けてばかりみたいだけどね "

親が賭け事で負けて子供の元に帰ってこない人ならば、俺はそんな道に反れないよう真面目に生きてきたつもりだ

頑張って育ててくれる兄を尊敬して、少しでも役に立ちたいと思って生きてきたのに....なんで、兄は黙っていたんだ....

情けなく泣く俺に、兄は一つ溜め息を吐き乱れた服を整えるなり俺に背を向けた

「 事実だよ 」

「 !! 」

「 ....だからもう、彼に関わるのは止めることだ。此は、お兄ちゃんからの忠告だから 」

「 っ、なんで....関わったらダメなんだ!? 」

玄関へと戻る兄に、また立ち去って帰ってこないのかと腹が立つ反面
一人で残される寂しさはきっと子供心だ

昔から兄はいなかった、帰ってきても俺に生活費を渡して直ぐに何処かに行っていた

また、説明せずに行くのかと思う俺に彼は振り返りにこやかに笑った

「 借金も返済終わったし、会う必要も無いだけだよ。海君のバイト費はもう自分の好きなことに使いな 」

「 なっ....! 」

あの人達から聞いた額はそう12年位で返せるとは思えない

なのになんで借金返済されたのか理解できずに固まっていれば既に兄の姿は無かった

また、いい逃されたんだ....

「 事実....なのに。借金返済?なんでだよ.... 」

何処まで信じて、何処までを疑えばいいか分からなくなった

兄の言葉からして借金返済は本当だろうけど、一ノ瀬さんと関わってダメな理由までは分からない....

両親が関わったとしても、俺はあの人をもっと知りたいと思うんだ....

" けじめをつけたら、考えてやる "

「 そうか! 」

会ったとしても言われたことをこなしてなければ意味がない

そうか、きっと俺が残したけじめをつけて一ノ瀬さんに向き合えばいいんだ

その為には、あの人と会うしかない


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