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七話
しおりを挟むなんだこの生意気な男は。どこまでも偉そうに──いっそ処刑でもしてやろうかしら? そんな物騒な考えが、レリアの頭の中をぐるぐると渦巻いていた。
しかも、わたくしの意志などまるで無視して、公衆の面前でこんなふうに抱きかかえられるなんて。しかも、ただの知り合い程度の間柄に過ぎない男の手で! 屈辱と怒りが煮えたぎるのを感じながら、レリアは内心で怒鳴りつけた。誰が好き好んでこんな姿を晒したいと思うのよ!
ルナ・ヘリオシス──。
彼の名前は、レリアの「いつか必ず仕返ししてやるリスト」に真っ先に載ることとなった。
「講堂に向かうぞ。それまで我慢していろ」
「ちょっと、待ってくださいまし! 学園の中を通るんですの? 全生徒にこの姿を見せびらかす気ですの!? どうかしてますわ、正気の沙汰じゃありませんわ!」
「だったらどうするんだ、ミフリス。おまえが言うように無理をしている人間を、そのまま放っておけとでも言うのか? それが公爵令嬢としての意見だというのなら尊重してやってもいいが、少なくとも俺はそれを認めない。見過ごせるはずがないだろう」
「……くっ、気付いていたんですのね。意外と観察眼がありますわね」
「意外と、ではない。おまえの怪我は目を凝らさずとも明らかだ。それに、おまえが怪我をしてでも学園に来ようとする姿勢は称賛に値する」
「ええ、褒められて光栄ですわ。でももしかしなくても、生徒会長、わたくしのことが好きなんじゃありませんこと?」
「ついでに、その頭も早めに治してもらえ。頭痛の種が減って俺も助かる」
「お黙りなさい。あとでぶん殴って差し上げますわ」
レリアは腕を振り上げて、せめてもの抵抗にとルナの背中をべしべしと叩くが、彼は微動だにしない。バランスも、足取りすらもまったく乱れない。その強靭な姿勢が、レリアには逆に腹立たしく感じられた。
質実剛健、文武両道の絵に描いたような優等生──それがこの男、ルナ・ヘリオシスだ。物静かながらも鋭い視線に、人を圧するような雰囲気、そして冷静かつ容赦ない口調。彼はその実力と確かな信念によって、現役生徒の過半数からの票を獲得した正真正銘の生徒会会長である。
例えばこんなふうに、公爵令嬢であるレリアを片手で担いでも、誰も彼に逆らえないほどの影響力を持っているのだ。学園内の数多の噂がそれを物語っている。
「あの、見てよ。あれ……」
「生徒会長と……えっと、あれって公爵家の……」
「おやまあ、レリア様ったら。なんて滑稽な姿で」
「というか、一体何が起こってるの? また何かやらかしたのかな?」
「ルナ先輩、すごすぎない? 男爵家の出身とは思えない胆力だよな。この前も殿下に説教したって聞いたし、本当に怖いもの知らずだわ」
「いや、ルナくんの正論は本当に容赦ないって。たまに出る”正論拳パンチ”はマジで痛いからね」
「ああいう風にされてるの、レリア嬢もなんだか小動物みたいで可愛く見えるね」
「まあ、喋らなければ本当に美人だし、近寄らなければおとなしいもんね。どこからどう見ても美少女だよ」
「……全員の顔を覚えましたわ。今度、いつかの機会に全員、ぶっ飛ばしてやりますわ」
「程々にしておけ、ミフリス。これ以上面倒ごとを持ち込まれるのは勘弁願いたい」
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