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回想

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 ーー11月8日午後5時00分
「小宮さん、このデータの入力お願いできますか」
「了解。そこ置いておいて、今日中に処理しておく」
 経理部に勤める俺、小宮雄也は、同期の神崎拓海とは部署は違えど、入社当時から仲良くしている。
 互いの仕事の愚痴や野球の話、彼女の話とか話題は色々だ。ただし、彼女の話は俺には無い、神崎だけだ。
 ちなみに今日飲みに行こうと誘ってきたのは神崎で、アイツから誘ってくる時は大抵、相談事か報告事がある時だ。
 今の彼女とは割と長く付き合ってるし、そろそろ結婚とかすんのかな。そんな報告事なら聞きたくねぇな。それが本音だ。
 考えてる傍から心が萎えてくる。
 俺が神崎のことを好きになったのは入社試験の時、たまたま隣の席になった事がきっかけだった。
『隣、失礼します』
 これがはじめて神崎にかけられた言葉。なんでこんなに鮮明に覚えているのか、自分でもことさら恥ずかしくなってくる。
 俺が返事をして目が合った瞬間、心が跳ねた。
 〈一目惚れ〉
 世間ではこの現象をそう言うらしい。
 自分には一番縁遠いことだと思っていたし、そんな毒牙にはかからないと思っていた。
 そして、俺は女を好きにはなれないことに、なんとなく気づいていたし、だからといって男自体もピンとこない。根っからの恋愛体質ではないのだろう。
 だから男女とかではなく、神崎だったから。それは、なんだか無性にしっくりきた気がした。
 神崎は男の俺から見ても絵に描いたような男で、190センチの体躯に切れ長の目、緩くかけられたパーマで優しさもプラス、極めつけにナチュラルな筋肉ときた。入社してからわかることだが、いつも営業成績上位をキープし、仕事もできる男である。本当に隙のないやつだよ。
 一方俺はと言うと、容姿も至って普通、簿記二級を持ってることで、人よりちょっとだけ給与が高い平々凡々のサラリーマンだ。
 神崎は間違いなくノーマルだろう。
 俺の気持ちがバレて、今まで築き上げてきた関係を壊したくないから、この気持ちはうちに秘めたままにしておこう。
 そう俺は心に決めた。

 終業時間まであと30分くらい。残業は程々で帰れそうだから小一時間の間に、気持ちを友達同僚モードにしないとな。
 そう自分に言い聞かせ、残りの仕事を片付けることにした。
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