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「明日からしばらくここを空ける」
「え……?」

 週に一度の行為のあと、カーティスはナタリアの髪を指に絡ませながらそう告げた。最近のカーティスは優しい。身体を重ねた後、こうして二人で過ごすのにもだいぶ慣れてきた。
 だが、カーティスがここを出る、ということを考えたことのなかったナタリアは、驚きに目を見張り、彼の顔を見あげた。
 不思議なことに、彼の濃い紫色の瞳は、以前と比べて少し透明感を増したような気がする。
 そっとそこに手を伸ばそうとすると、カーティスは少しだけ口の端に笑みを浮かべ、その手を握った。

「だから――もう一度」
「え、えっ……」

 意味が分からない。けれど、求められること自体は、ナタリアにとって嫌なことではなかった。こうしているときだけは、なんだかカーティスに愛されているような、そんな気分になれたから。
 翌朝、まだナタリアが眠っている間に、カーティスは出立したようだった。立て続けに抱かれ、疲労の残る身体を起こして枕元の置手紙を読む。
 ――一週間ほどで帰る。
 その置手紙の通り、彼は一週間で塔へ帰ってきた。一人ぼっちにされて少しだけ不安だったナタリアは、彼の帰還を喜んだ。
 なぜかしっかりとフードを被ったままのカーティスに求められるままに抱かれ、また通常の生活に戻っていく。
 だが、カーティスが塔を留守にする頻度は、だんだんと高くなっていった。
 そのたびに、彼は貪欲にナタリアを求める。
(何が起きているんだろう……)
 すでに、ナタリアが塔に来てから一年が過ぎようとしている。
 塔の外のことは、ナタリアには全くわからなくなっていた。けれど、そうして家を空けた後のカーティスは、時折怪我をして帰ってくることもある。

「ねえ、カーティス様……」

 眠っている彼の髪をそっと撫でて、ナタリアは小さく呟く。頭の上を撫でた時、ふとナタリアの脳裏に、最初の日のことがよぎった。
 まるで、彼の頭に獣の耳が生えているかのように見えたことだ。
(まだ何か、私に隠していることがあるの……?)
 魔力過多症の男性は、その精を女性に注がないと――つまり、性交しないと身の内に溜まった魔法力を暴走させ、周囲に甚大な被害を与えることがある。
 そうカーティスから教えられたのは、塔に来てしばらく経ってからのことだった。
 それに加え、過去にそのために身体を重ねた女性がいたことも告白された。けれど、その女性たちはひと月も持たず、体調を悪化させてお役御免となったらしい。

「きみには、悪いと思っているけど――」

 彼の言によれば、どうやら、カーティスとナタリアは相性がいいのだそうだ。ようやく見つかった、とはにかんだように笑っていた彼のことを思い出すと、ナタリアの胸が疼いた。

「これで、魔法力の制御に失敗することも減った。きみのおかげだ」

 そうして、魔法力を制御できるようになったから――だから、カーティスは危険なことをさせられているのではないだろうか。そんな不安が、ナタリアの胸を過る。
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