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12、黒の魔力ですわ〜!

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 「うーん……うーんですわ~……」

 「なんでござるかその鳴き声。さっきからなにしてるでごさる?」

 今日も今日とてスズナと薬草採取。
 午前の部を終え、昼休憩中である。

 「魔法があることが判明したのですけれど、どうやって使えばいいのか……」

 「何色でござる?」

 「く、…………黒でございますわ~……」

 「おお珍しいでござるなー。拙者も、黒でござるよ」

 「え~~~~~!!」

 アッサリ、である。
 迫害とは、命の危険とはなんだったのか、スズナなら大丈夫という覚悟はなんだったのか。

 「あ、あー、そういえば黒はこっちの国ではダメでござったな、忘れてたでござる」

 「あら、スズナ様はこの国出身ではございませんの?」

 「えーっと、ものすごく遠い国の出身でござる。いろいろあってでござるよ」

 「複雑ですこと。あ!黒の魔力持ちなら、わたくしに魔法を教えてくださいまし!もう、魔力を動かすところからさっぱり……」

 魔法使いは、自分の内にある魔力を操作し、結果を得る。
 たとえば赤の魔法使いなら、自分の魔力を燃焼させ、火を放ったり、火を纏ったり。

 「うーん、黒は特別なんでござるよ。魔力の感じ方は教えられるかもしれんでござるが、魔法自体は……拙者は音の操作に特化した黒魔法使いでござるから、同じでなければその先は難しいでござる」

 「ひ、ひとまず魔力の感じ方、教えてくださいまし~!」

 魔力を感じるためには、まず、自分の内側を意識せねばならない。
 自分の内側にある世界、そこに漂う潮流。それを意識し、手繰り寄せる。そうすれば、魔力を感じ取れるようになる。

 「できましたわ~!!」

 「なかなかはやいでござるな……魔法のセンスはあるかもでござるよ」

 「魔法『は』ですわね!」

 「魔法『は』でござる。……さっきの剣さばきは酷かったでござる。メイスのほうが向いてるでござるよ?」

 「そのうち買い換えますわ~!それより、魔力ですの!おお、これが……!」

 自分の中に、黒くて冷たくて、しかし心温まるような流れを感じる。
 感じた途端に、手に取るように、性質がわかるようになった。

 「わたくしの魔法は……食魔法……ですわ……?」

 「食魔法……??はじめてきいたでござる。……食べるでござるか?」

 ここで、ステータス。

  薔薇小路 牡丹(ボタン) 17歳
レベル 3
種族 人間 お嬢様
ユニークスキル 暴食
スキル 食事効果アップ(小)
            食事量アップ(極小)
魔法 黒『食魔法』
加護 大罪管理女神の加護(小)
        創造神の加護(極小)

 「えーっと……みずからの影から、食べた事のある魔物の幻影を生み出し、使役することができる。生み出した幻影が食べた魔物も、食べた判定になって幻影に出来るようになる……ですわ?」

 「げ……魔物を食わなきゃいけないでござるか?さすがにそれは……」

 「サモン、ゴブリンですわ~!!」

 ボタンの影から、真っ黒なゴブリンが召喚される。襲ってくることも無く、命令を待つかのように直立不動だ。そして、なんだか小さくて薄い。

 「え!ゴブリン!え、え!ゴブリン食ったでござるか!うえっ、エンガチョ!エンガチョでござる!」

 「あ!ひどい!そんな!スズナ様!見捨てないでくださいまし!スズナ様~!」

 「ゴブリンは引くでござるよさすがに!え、えー……美味しかったでござるかー……?」

 「ゴブリンは不味かったですわ~!」

 「……そうでござるかー、ゴブリンは不味い。知見を得たでござる。一生使いそうにないでござるが」

 危うく仲間に見捨てられそうになったが、これは有用な魔法だと感じた。少なくとも、ゴブリンですらボタンと同等かそれ以上に強いのだから。手数が増えるので、戦闘の安全度もあがるだろう。
 しかしこの個体に限って言えば、まったく強くはなさそうだ。やはり食べた量が少なかったからか?

 「ちゃんと全部食べなきゃいけないのですわね?」

 「やっぱ黒魔法は不思議でござるなぁ……」

 ちなみに2匹目は召喚できなかった。召喚数に限りはなさそうだが、食べた魔物その個体のみを幻影にできるのだろう。つまり、2匹目のゴブリンを生み出すには、2匹目のゴブリンを食べなければならないということだ。
 さすがに、ほかの魔物を食べたいと思うボタンだった。
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