上 下
73 / 79

冬籠がはじまるよ その2

しおりを挟む
調遅れをとっていた宰相補佐殿御一行をすり抜け、無事王都へ入ったリオネルは途中で合流したファルマ男爵カルドと共に、王都中央に婚姻誓約書の提出をした。

義父様おとうさま婿様おむこさまのお二人で提出ですか、仲が良くてなによりですねぇ」

などと担当文官の女性にうふふ、と温かくうけとってもらえた。

まずはなんの問題もなく婚姻を成立させることができて一安心だ。

「ファルマ男爵、いえ、お義父様。どうぞこれからご指導ご鞭撻のほど「いやいやいや、まだ父とよばれたくない」」

「でもお義父様、私たちにはすでに子供もいますし「そうなんだよぉ、なんなのこの婿」」

「今までご心配とご迷惑をかけた分、全力で皆のことを守ります。経済的にも「それなのぉ、うちの婿様昨年度長者番付1位ってさっき知ったぁ」」

大袈裟に頭を抱え天を仰ぐファルマ男爵のその感情表現の豊かさにマリアンヌの血の源泉を感じる。

役所の前で、お決まりの茶番をきめて一息つくとカルドはそのふざけた様子を収め鞄から封のされた書類を取り出した。

「これがことの元凶。こいつを直接帝国にとどけられるんだよね?」

「はい、私自身が遂行できるわけではありませんが。ババビアゴ様とデルソル子爵夫人の関係者が確実に皇帝の手に届けてくださいます」

「・・・わかった。わたしもしばらくぶりに師匠の顔を見にいくか。そうだ、時間が余ったらわたしとあの子たちの母親がデートした思い出の地でもめぐっちゃう?」

「え?なんですかそれ、いいですね。では、ちゃっちゃと面倒ごとは終わらしてしまいましょう!!」

えいえいおー、と2人は身長差でまったく組めない肩を無理やり組みながら研究所の方角へと歩いて行った。



「なんでそんなにウキウキした感じなのだ・・・」

面倒な問題に巻き込まれていたと思っていたのだが、当事者の2名が現在目の前でニコニコと扉の向こうに立っている。

「師匠、お久しぶりでございます」

「まぁ、久しぶりとはいえお前とは頻繁に文のやり取りをしていたから久しぶりという感じがせんの。カルドも昔と比べるとすっかり老けたの」

「師匠は何十年も前と今とで差がありませんな」

「褒められとる気がせんな、それでそっちのお前。マリーとはうまくいったんだな?」

急に水を向けられ、あ、はい。とだけ答えるヒョロヒョロ巨人にカゴに入った見慣れぬ果実を渡す。

「お前はこれを喰え。あの地の冬籠はそんな貧相なからだでは役に立たんぞ」

「師匠、昔に比べて冬籠中に外で問題も減りましたのでね。そこまでガチガチに鍛えなくても大丈夫なんですよ。とはいえ、リオネル君はもうちょっと鍛えたほうがよいかな」

「お義父様、どうぞよろしくおねがいします」

陰気な研究員という風体だったリオネルだが、髪を短くし非常に短い間だが辺境の男たちに触れ何か思うところがあったのかもしれない。

「まぁ、あのおてんば娘を狙っていた領の男どもは多かったようだからな。おまえも横からもっていかれないよう気をつけろよ。今回の帝国男よりも辺境の男の方があやつにとって魅力があってお前にとっては充分な競争相手やもしれぬぞ」

その感想はまさにリオネルも思ったところであった。

ファルマ家の屋敷にいたほんの数日だが、使用人や兵士、出入りの村人など男どもの全てが体格が良く健康的だった。

しかも領主の娘のマリアンヌは性格も良く働き者でたとえ子持ちでも、そんなことを気にする慣習がない北方領では、大変モテモテなのが見ていてわかった。

今まではマリアンヌが子供にだけ意識をそそぎ男どもなど目にも入れないという雰囲気だったので遠巻きに見ていた領の男どもも、リオネルがマリアンヌの恋人のように振る舞う数日をみて「これなら俺も機会があればいけるかも?」といった雰囲気を出してくるやつがちょろちょろいたのだ。

思い出しても腹立たしい。

「何を思い出したかしれんが、殺気がもれとるぞ。まぁ殺気を飛ばせるようになっただけ前進か」

「あらら、リオネル君は殺気が飛ばせるの?さすがオリウス家の直系だね」

感心した、という風に2人の会話を聞いていたカルドが自らお茶を入れながら席を用意し始める。

「お義父様、茶の用意は私が」

「いいのいいの、師匠の話し相手してなさいよ。ここでこういうことするのも懐かしいな。マリアンヌたちの母親ともここでお茶をしたなぁ」

「そうなんですか?」

「そうそう、昔さぁ「おい、おぬしら用件を忘れとらんか?」」

「そうでした、失礼しました。リオネル君。僕のカバンからあの封筒を出して」

カルドに言われる通り、特許申請関連の書類が入った蝋封された封筒を出しババビアゴに渡す。

「これに文をつけてあやつに直接渡るようにしよう」

「本当に助かります、皇帝のお手を煩わすことになろうとは思いもしませんでしたが最も安心できます」

「あやつには返してもらっていない貸が山のようにあるからの、気にするな」

大陸を統べる皇帝をあやつ呼ばわりとは、本当に底の見えない御仁である。

「ところで、あの宰相補佐殿がうちの娘を欲しがった理由がわかったとの言伝を読みましたが教えていただけるのでしょうか」

「あぁ、あれだな・・・あの帝国男はマリアンヌを自分の嫁にして皇太子の公妾に差し出すつもりだったんじゃ」

「「はっ??」」

まぁそういう反応になるわなぁ、と顎が外れんばかりに口をあけて揃って同じ反応で呆然とする義父と婿をみて茶を啜るババビアゴであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷 ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。 ◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

処理中です...