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冬籠がはじまるよ その2
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順調に遅れをとっていた宰相補佐殿御一行をすり抜け、無事王都へ入ったリオネルは途中で合流したファルマ男爵カルドと共に、王都中央に婚姻誓約書の提出をした。
「義父様と婿様のお二人で提出ですか、仲が良くてなによりですねぇ」
などと担当文官の女性にうふふ、と温かくうけとってもらえた。
まずはなんの問題もなく婚姻を成立させることができて一安心だ。
「ファルマ男爵、いえ、お義父様。どうぞこれからご指導ご鞭撻のほど「いやいやいや、まだ父とよばれたくない」」
「でもお義父様、私たちにはすでに子供もいますし「そうなんだよぉ、なんなのこの婿」」
「今までご心配とご迷惑をかけた分、全力で皆のことを守ります。経済的にも「それなのぉ、うちの婿様昨年度長者番付1位ってさっき知ったぁ」」
大袈裟に頭を抱え天を仰ぐファルマ男爵のその感情表現の豊かさにマリアンヌの血の源泉を感じる。
役所の前で、お決まりの茶番をきめて一息つくとカルドはそのふざけた様子を収め鞄から封のされた書類を取り出した。
「これがことの元凶。こいつを直接帝国にとどけられるんだよね?」
「はい、私自身が遂行できるわけではありませんが。ババビアゴ様とデルソル子爵夫人の関係者が確実に皇帝の手に届けてくださいます」
「・・・わかった。わたしもしばらくぶりに師匠の顔を見にいくか。そうだ、時間が余ったらわたしとあの子たちの母親がデートした思い出の地でもめぐっちゃう?」
「え?なんですかそれ、いいですね。では、ちゃっちゃと面倒ごとは終わらしてしまいましょう!!」
えいえいおー、と2人は身長差でまったく組めない肩を無理やり組みながら研究所の方角へと歩いて行った。
「なんでそんなにウキウキした感じなのだ・・・」
面倒な問題に巻き込まれていたと思っていたのだが、当事者の2名が現在目の前でニコニコと扉の向こうに立っている。
「師匠、お久しぶりでございます」
「まぁ、久しぶりとはいえお前とは頻繁に文のやり取りをしていたから久しぶりという感じがせんの。カルドも昔と比べるとすっかり老けたの」
「師匠は何十年も前と今とで差がありませんな」
「褒められとる気がせんな、それでそっちのお前。マリーとはうまくいったんだな?」
急に水を向けられ、あ、はい。とだけ答えるヒョロヒョロ巨人にカゴに入った見慣れぬ果実を渡す。
「お前はこれを喰え。あの地の冬籠はそんな貧相なからだでは役に立たんぞ」
「師匠、昔に比べて冬籠中に外で問題も減りましたのでね。そこまでガチガチに鍛えなくても大丈夫なんですよ。とはいえ、リオネル君はもうちょっと鍛えたほうがよいかな」
「お義父様、どうぞよろしくおねがいします」
陰気な研究員という風体だったリオネルだが、髪を短くし非常に短い間だが辺境の男たちに触れ何か思うところがあったのかもしれない。
「まぁ、あのおてんば娘を狙っていた領の男どもは多かったようだからな。おまえも横からもっていかれないよう気をつけろよ。今回の帝国男よりも辺境の男の方があやつにとって魅力があってお前にとっては充分な競争相手やもしれぬぞ」
その感想はまさにリオネルも思ったところであった。
ファルマ家の屋敷にいたほんの数日だが、使用人や兵士、出入りの村人など男どもの全てが体格が良く健康的だった。
しかも領主の娘のマリアンヌは性格も良く働き者でたとえ子持ちでも、そんなことを気にする慣習がない北方領では、大変モテモテなのが見ていてわかった。
今まではマリアンヌが子供にだけ意識をそそぎ男どもなど目にも入れないという雰囲気だったので遠巻きに見ていた領の男どもも、リオネルがマリアンヌの恋人のように振る舞う数日をみて「これなら俺も機会があればいけるかも?」といった雰囲気を出してくるやつがちょろちょろいたのだ。
思い出しても腹立たしい。
「何を思い出したかしれんが、殺気がもれとるぞ。まぁ殺気を飛ばせるようになっただけ前進か」
「あらら、リオネル君は殺気が飛ばせるの?さすがオリウス家の直系だね」
感心した、という風に2人の会話を聞いていたカルドが自らお茶を入れながら席を用意し始める。
「お義父様、茶の用意は私が」
「いいのいいの、師匠の話し相手してなさいよ。ここでこういうことするのも懐かしいな。マリアンヌたちの母親ともここでお茶をしたなぁ」
「そうなんですか?」
「そうそう、昔さぁ「おい、おぬしら用件を忘れとらんか?」」
「そうでした、失礼しました。リオネル君。僕のカバンからあの封筒を出して」
カルドに言われる通り、特許申請関連の書類が入った蝋封された封筒を出しババビアゴに渡す。
「これに文をつけてあやつに直接渡るようにしよう」
「本当に助かります、皇帝のお手を煩わすことになろうとは思いもしませんでしたが最も安心できます」
「あやつには返してもらっていない貸が山のようにあるからの、気にするな」
大陸を統べる皇帝をあやつ呼ばわりとは、本当に底の見えない御仁である。
「ところで、あの宰相補佐殿がうちの娘を欲しがった理由がわかったとの言伝を読みましたが教えていただけるのでしょうか」
「あぁ、あれだな・・・あの帝国男はマリアンヌを自分の嫁にして皇太子の公妾に差し出すつもりだったんじゃ」
「「はっ??」」
まぁそういう反応になるわなぁ、と顎が外れんばかりに口をあけて揃って同じ反応で呆然とする義父と婿をみて茶を啜るババビアゴであった。
「義父様と婿様のお二人で提出ですか、仲が良くてなによりですねぇ」
などと担当文官の女性にうふふ、と温かくうけとってもらえた。
まずはなんの問題もなく婚姻を成立させることができて一安心だ。
「ファルマ男爵、いえ、お義父様。どうぞこれからご指導ご鞭撻のほど「いやいやいや、まだ父とよばれたくない」」
「でもお義父様、私たちにはすでに子供もいますし「そうなんだよぉ、なんなのこの婿」」
「今までご心配とご迷惑をかけた分、全力で皆のことを守ります。経済的にも「それなのぉ、うちの婿様昨年度長者番付1位ってさっき知ったぁ」」
大袈裟に頭を抱え天を仰ぐファルマ男爵のその感情表現の豊かさにマリアンヌの血の源泉を感じる。
役所の前で、お決まりの茶番をきめて一息つくとカルドはそのふざけた様子を収め鞄から封のされた書類を取り出した。
「これがことの元凶。こいつを直接帝国にとどけられるんだよね?」
「はい、私自身が遂行できるわけではありませんが。ババビアゴ様とデルソル子爵夫人の関係者が確実に皇帝の手に届けてくださいます」
「・・・わかった。わたしもしばらくぶりに師匠の顔を見にいくか。そうだ、時間が余ったらわたしとあの子たちの母親がデートした思い出の地でもめぐっちゃう?」
「え?なんですかそれ、いいですね。では、ちゃっちゃと面倒ごとは終わらしてしまいましょう!!」
えいえいおー、と2人は身長差でまったく組めない肩を無理やり組みながら研究所の方角へと歩いて行った。
「なんでそんなにウキウキした感じなのだ・・・」
面倒な問題に巻き込まれていたと思っていたのだが、当事者の2名が現在目の前でニコニコと扉の向こうに立っている。
「師匠、お久しぶりでございます」
「まぁ、久しぶりとはいえお前とは頻繁に文のやり取りをしていたから久しぶりという感じがせんの。カルドも昔と比べるとすっかり老けたの」
「師匠は何十年も前と今とで差がありませんな」
「褒められとる気がせんな、それでそっちのお前。マリーとはうまくいったんだな?」
急に水を向けられ、あ、はい。とだけ答えるヒョロヒョロ巨人にカゴに入った見慣れぬ果実を渡す。
「お前はこれを喰え。あの地の冬籠はそんな貧相なからだでは役に立たんぞ」
「師匠、昔に比べて冬籠中に外で問題も減りましたのでね。そこまでガチガチに鍛えなくても大丈夫なんですよ。とはいえ、リオネル君はもうちょっと鍛えたほうがよいかな」
「お義父様、どうぞよろしくおねがいします」
陰気な研究員という風体だったリオネルだが、髪を短くし非常に短い間だが辺境の男たちに触れ何か思うところがあったのかもしれない。
「まぁ、あのおてんば娘を狙っていた領の男どもは多かったようだからな。おまえも横からもっていかれないよう気をつけろよ。今回の帝国男よりも辺境の男の方があやつにとって魅力があってお前にとっては充分な競争相手やもしれぬぞ」
その感想はまさにリオネルも思ったところであった。
ファルマ家の屋敷にいたほんの数日だが、使用人や兵士、出入りの村人など男どもの全てが体格が良く健康的だった。
しかも領主の娘のマリアンヌは性格も良く働き者でたとえ子持ちでも、そんなことを気にする慣習がない北方領では、大変モテモテなのが見ていてわかった。
今まではマリアンヌが子供にだけ意識をそそぎ男どもなど目にも入れないという雰囲気だったので遠巻きに見ていた領の男どもも、リオネルがマリアンヌの恋人のように振る舞う数日をみて「これなら俺も機会があればいけるかも?」といった雰囲気を出してくるやつがちょろちょろいたのだ。
思い出しても腹立たしい。
「何を思い出したかしれんが、殺気がもれとるぞ。まぁ殺気を飛ばせるようになっただけ前進か」
「あらら、リオネル君は殺気が飛ばせるの?さすがオリウス家の直系だね」
感心した、という風に2人の会話を聞いていたカルドが自らお茶を入れながら席を用意し始める。
「お義父様、茶の用意は私が」
「いいのいいの、師匠の話し相手してなさいよ。ここでこういうことするのも懐かしいな。マリアンヌたちの母親ともここでお茶をしたなぁ」
「そうなんですか?」
「そうそう、昔さぁ「おい、おぬしら用件を忘れとらんか?」」
「そうでした、失礼しました。リオネル君。僕のカバンからあの封筒を出して」
カルドに言われる通り、特許申請関連の書類が入った蝋封された封筒を出しババビアゴに渡す。
「これに文をつけてあやつに直接渡るようにしよう」
「本当に助かります、皇帝のお手を煩わすことになろうとは思いもしませんでしたが最も安心できます」
「あやつには返してもらっていない貸が山のようにあるからの、気にするな」
大陸を統べる皇帝をあやつ呼ばわりとは、本当に底の見えない御仁である。
「ところで、あの宰相補佐殿がうちの娘を欲しがった理由がわかったとの言伝を読みましたが教えていただけるのでしょうか」
「あぁ、あれだな・・・あの帝国男はマリアンヌを自分の嫁にして皇太子の公妾に差し出すつもりだったんじゃ」
「「はっ??」」
まぁそういう反応になるわなぁ、と顎が外れんばかりに口をあけて揃って同じ反応で呆然とする義父と婿をみて茶を啜るババビアゴであった。
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