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愛の巣篭、冬籠カウントダウン その5

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「あぁぁぁ、あのイケメンゴリラ!気色きしょくの悪いことばかり言ってきてゾワゾワして食事がまずくなるのよー!!」

お偉い御一行様ごいっこうさまが領にきてから、夕食をともにしているマリアンヌとゴライアス卿。

距離感どこいった?とばかりに口説き三昧の日々にマリアンヌは辟易中である。

「?かあさま、ゴリラどこですか?」

息子に絵本を読んでいる最中、突然発狂した母に戸惑うカイル・ファルマ3歳。

母の突然の感情の吐露とろにはすでに慣れっこの様子。

読みきかせ中の絵本に出てきたキラキラ王子様を見ていたらマリアンヌは思い出してしまったのだ。

あの金髪ゴリラめ。腹がたつぅ、とされるぎゅーぎゅー羽交締めにカイルも困惑する。

くるちいですかあさま、と母の腕から這い出る。

「お嬢様、あのイケメンは”ゴリラ”とかいう生き物とは全然違うでしょうが。なんですかイケメンゴリラって・・・」

呆れた様子のリリーに対して、マリアンヌは反撃する。

「こないだ読んだ東方の恋愛小説に”イケメン風ゴリラ”っていう表現があったの、使ってみたかったの!!」

また、しょうもない外国小説をよんでいたんか、と再度呆れ顔のリリーである。

母の膝から飛び降り、3歳の誕生日に祖父からもらった博物図鑑を引っ張り出してきたカイルは一生懸命記憶を辿りながら”ゴリラ”なる生物を探り当てる。

「かあさま、”ゴリラ”はこれ。ゴリラどこにいますか?」

「お嬢様~、カイ様混乱するんで変なことほんと言わないでくださいよ」

カイにいろいろな言葉を教えることに喜びを感じている優秀侍女リリーは、突拍子もないことを言っていつも息子を混乱させる主人に苦言を呈す。

「イケメンなのも、ゴリラなのも事実じゃない。足したらイケメンゴリラ。間違ってないでしょ?」

そもそも、あのキラキラ美丈夫がいったいなんでゴリラなのか。

神童と呼ばれた過去を持ち、才女のタイトルを時にほしいままにしている我があるじは存外ポンコツなのである。

おもに、人の名前と顔の記憶に関して。

読書(絵本)中に突然発狂した母の気持ちをおもんばかって、優しい息子カイル君は読みかけの絵本を棚に戻しリリーの手伝いをして水の入ったグラスを母へ差し出す。

「かあさま、おみずどうぞ。おちついて」

3歳には思えない、配慮である。

「天使~、わたしの息子天使~」

「かあさ、ま。くるしぃ」

「お嬢様! カイ様潰れますっ!!」

マリアンヌからカイルを引き剥がしてテーブルに用意した果実を絞った飲み物をカイルに渡す。

「カイ様、ゆっくりのんでくださいね」

にこにこと頷く3歳児にリリーとマリアンヌはメロメロである。

「さぁてと、ゴリラの毒素を抜くべく天使とお風呂にでも入ろうかな?リリーも一緒に大浴場行く?」

「いいですねぇ、ってそうだった。今晩は御一行様方に両方とも大浴場を開放しております」

「ぐぬぬぬ、どこまでも忌々いまいましい奴らだ・・・」

その点に関しては御一行様には非がないのだが、積もる鬱憤にマリアンヌの大人メーターはレッドゾーンである。

「かあさま、ぼくはかささまとはいれるならどこのおふろもたのしいよ」

やさぐれた母の心まで慮る優しさの塊を自分がこの世に産み出したことを神に感謝するマリアンヌと、そんな主人に感謝する侍女リリーであった。





娘と孫が風呂上がり爆睡コースを辿っていた頃、ファルマ男爵カルドは王都から手紙を届けた怪鳥ブリンに褒美をやっていた。

「本当に働かせすぎで申し訳ない。お前ほど立派に勤めが果たせる鳥もなかなかいないので甘えてしまうな」

ごくりと肉塊をまるのみし、きょえーっと楽しそうに鳴くブリンの羽を撫でてやる。

ブサかわいいとはこのことか、と納得するカルド。

「明日朝またお前に頼み事があるとおもうから、今日はゆっくり休むんだぞ」

そういってやると、言葉を解するブリンは再度きょえーっとひと鳴きし鳥舎へと帰って行った。

ブリンが夜空に飛び立つのを見送り、窓を閉めると執務机に向かい手紙の封を切る。

そこにはあの御一行様をファルマ領からひとまず退散させ時間を稼ぐ提案が書かれていた。

手紙の終わりにはババビアゴと、病院に廃人となり引きこもっていた孫の父親の名前が書かれていた。
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