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そしてきみはいなくなった
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へっぽこリオネルここにあり
**************
愛しのマリアンヌと誤解の残る逢瀬のまま他国へと遣わされ数週間経った頃、王都にいる母より意味不明な手紙が届いた。
いつものことだと一読して破棄しようとしたが文章の最後の方でマリアンヌに接触したような1行があり驚いた。
急いで事の真偽を問い質そうと書いた便りへの母からの返信は、こちらが移動をしてしまったためタイミング悪く受け取れないまま日が過ぎていた。
マリアンヌへは日もおかずほぼ毎日便りを送っていたがほとんど返事はなかった。まだ怒っているのか、一体何にこれほどまで、と少し呆れるようにも思っていた。
この時、彼女の気持ちを軽く考えていたことを後にどれほど悔やんだだろうか。
ようやく帰国の目処がたち、各国行脚と今回参加した国際会議での発表総括やその報告書などをまとめることに専念した。
帰国したらすぐにでもこの(魔)改造した時計を改めて贈り婚姻を願おうと考えている。
想いが叶えば、今回働き詰めた分を蜜月期間にあて長期休暇をもぎ取ってやるつもりだ。
少し気を抜くと、艶やかなマリアンヌや可愛らしいマリアンヌ、お芋研究に精を出す真面目マリアンヌなどなど様々なマリアンヌが次々に脳裏に浮かび仕事にならないのでほんの少しの間だけマリアンヌへ出す手紙も控え彼女から来た手紙なども鞄にしまい後のお楽しみに取り置いた。
そんなある日、国から”オリウス伯爵”宛の信書が届き開封するとそこには驚愕の内容が綴られていた。
オリウス伯爵位が伯母であるアザレア様に移ると言う内容であったが、それは良い。
問題なのはその申立人にマリアンヌの名前が連なっていたことだった。
嫌な音をたてて心臓が大きく脈打つ。
彼女の父親であるファルマ男爵には、お付き合いをしている事実とオリウス家の承継は正しい人物に引き継いでもらうべきと考えていることなどをマリアンヌには内緒で綴り送っていた。
自分が彼女に対し、彼女の家を長年に渡り無闇に使役していたオリウス家の当主であることを隠していたのはひとえにはずかしかったからだった。
本当に大した理由ではない、忙しさにかまけて恋人の家を大切にすることをおざなりにしていただけだった。
もし伯爵位を委譲し、貴族籍を手放すことになれば彼女との婚姻を断られるかも知れないと恐れた。そして、このまま王都でずるずるなし崩し的に過ごしていればいずれ婚姻相手に自分しかいない状況になるのではないかという至極自分勝手な考えを抱いていたことを私自身己の非であることは十分認識していたため心のどこかでマリアンヌに対して引け目を感じていたのだ。
そんな自分勝手で自己中心的な自意識のせいでこんなことになるなんて、彼女の立場を優先的に考えていなかった昔の自分を殴り倒してやりたい。
例の信書を読んでからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
帰国の途中も何をしていたかも思い出せない。
ただ一刻も早く寮にもどりマリアンヌに会おうとおもっていたが研究所で上司に捕まり部屋に戻るころにはくたくたになりベッドに倒れ込んだ。
部屋の窓から見える空は茜色に染まっていた。その色を見ていたら涙が込み上げてくる、マリアンヌの茜色。あの茜色の中に埋まりたい。
ベッドの上でひとしきり後悔と向き合ったからだろうか、マリアンヌときちんと向かい合おうと決意を固めることができた。
恥ずかしさなんかよりも大切にすべきことがあることに気づいた。あとは行動あるのみだ、そう思いベッドに横たえていた体を起こした。
外はもう暗くなり今日は月明かりが十分な光度を窓から部屋に注いでいた。
部屋の片隅、入り口にある扉のあたりに月明かりを受けて鈍く光る何かに気がついた。
なんだろうとそこまで行き拾い上げ手にした。
そしてそれが何か分かった時に心臓が音を立てるのにつれて冷えていく。
すぐにそれを確かめるために3階の東角にあるあの部屋に行かなくてはいけないと頭では分かっているのに、体が動かない。抑えることができないほどに手が震えたために拾い上げた鍵は手のひらから床に再度落ちていった。
(なぜ、この鍵がここに?)
その答えを簡単に導き出す、こんな時ばかり働く勘の良さに腹がたつ。
(マリアンヌはお前を身限り、別れるつもりだ)
勘が教えるその答えは正しくないかも知れないじゃないか、と自分を安心させるようにひとりごちる。
そんなはずはない、もしかしたら親切な誰かがマリアンヌが落とした合鍵をこの部屋に帰してくれたのかも知れないじゃないか。
そんな風に導き出した安直で自分本位な予測の回答に正解の可能性が低いことはわかっている。
でもそれに縋りつきたいほど、真実を知る勇気が湧いてこなかった。
鍵はそのままに、起き上がったばかりのベッドにもう一度戻った。
ギシリ、と音を立てるベッドに腰掛けて両手で頭を抱え項垂れる。
この後するべき行動に考えが全く及ばなかった。
さらに追い討ちをかけるように、カバンの中にしまい込んでいたマリアンヌからの手紙を読んでからはもう記憶は残っていなかった。
その後、どうやってこうなったのかわからないが気がつくと研究所敷地内の診療所にあるベッドに横たわっているようだった。
聴き覚えのある誰かの声がそう伝えていた。
人の声はするのだが、目は光をとらえるが感覚が鈍く五感がしっかり働いていないのがわかる。
体は何かに拘束されているようだがそれを解く気にもなれずもう一度五感を手放した。
五感を閉じれば、頭の中にいろいろなマリアンヌが声をかけてくれる。優しく頭を撫でてくれもするのだ。
瞼の裏のマリアンヌ、もう本物に会えないのならいっそこのままでいい。
そう思って意識を再び手放した。
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愛しのマリアンヌと誤解の残る逢瀬のまま他国へと遣わされ数週間経った頃、王都にいる母より意味不明な手紙が届いた。
いつものことだと一読して破棄しようとしたが文章の最後の方でマリアンヌに接触したような1行があり驚いた。
急いで事の真偽を問い質そうと書いた便りへの母からの返信は、こちらが移動をしてしまったためタイミング悪く受け取れないまま日が過ぎていた。
マリアンヌへは日もおかずほぼ毎日便りを送っていたがほとんど返事はなかった。まだ怒っているのか、一体何にこれほどまで、と少し呆れるようにも思っていた。
この時、彼女の気持ちを軽く考えていたことを後にどれほど悔やんだだろうか。
ようやく帰国の目処がたち、各国行脚と今回参加した国際会議での発表総括やその報告書などをまとめることに専念した。
帰国したらすぐにでもこの(魔)改造した時計を改めて贈り婚姻を願おうと考えている。
想いが叶えば、今回働き詰めた分を蜜月期間にあて長期休暇をもぎ取ってやるつもりだ。
少し気を抜くと、艶やかなマリアンヌや可愛らしいマリアンヌ、お芋研究に精を出す真面目マリアンヌなどなど様々なマリアンヌが次々に脳裏に浮かび仕事にならないのでほんの少しの間だけマリアンヌへ出す手紙も控え彼女から来た手紙なども鞄にしまい後のお楽しみに取り置いた。
そんなある日、国から”オリウス伯爵”宛の信書が届き開封するとそこには驚愕の内容が綴られていた。
オリウス伯爵位が伯母であるアザレア様に移ると言う内容であったが、それは良い。
問題なのはその申立人にマリアンヌの名前が連なっていたことだった。
嫌な音をたてて心臓が大きく脈打つ。
彼女の父親であるファルマ男爵には、お付き合いをしている事実とオリウス家の承継は正しい人物に引き継いでもらうべきと考えていることなどをマリアンヌには内緒で綴り送っていた。
自分が彼女に対し、彼女の家を長年に渡り無闇に使役していたオリウス家の当主であることを隠していたのはひとえにはずかしかったからだった。
本当に大した理由ではない、忙しさにかまけて恋人の家を大切にすることをおざなりにしていただけだった。
もし伯爵位を委譲し、貴族籍を手放すことになれば彼女との婚姻を断られるかも知れないと恐れた。そして、このまま王都でずるずるなし崩し的に過ごしていればいずれ婚姻相手に自分しかいない状況になるのではないかという至極自分勝手な考えを抱いていたことを私自身己の非であることは十分認識していたため心のどこかでマリアンヌに対して引け目を感じていたのだ。
そんな自分勝手で自己中心的な自意識のせいでこんなことになるなんて、彼女の立場を優先的に考えていなかった昔の自分を殴り倒してやりたい。
例の信書を読んでからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
帰国の途中も何をしていたかも思い出せない。
ただ一刻も早く寮にもどりマリアンヌに会おうとおもっていたが研究所で上司に捕まり部屋に戻るころにはくたくたになりベッドに倒れ込んだ。
部屋の窓から見える空は茜色に染まっていた。その色を見ていたら涙が込み上げてくる、マリアンヌの茜色。あの茜色の中に埋まりたい。
ベッドの上でひとしきり後悔と向き合ったからだろうか、マリアンヌときちんと向かい合おうと決意を固めることができた。
恥ずかしさなんかよりも大切にすべきことがあることに気づいた。あとは行動あるのみだ、そう思いベッドに横たえていた体を起こした。
外はもう暗くなり今日は月明かりが十分な光度を窓から部屋に注いでいた。
部屋の片隅、入り口にある扉のあたりに月明かりを受けて鈍く光る何かに気がついた。
なんだろうとそこまで行き拾い上げ手にした。
そしてそれが何か分かった時に心臓が音を立てるのにつれて冷えていく。
すぐにそれを確かめるために3階の東角にあるあの部屋に行かなくてはいけないと頭では分かっているのに、体が動かない。抑えることができないほどに手が震えたために拾い上げた鍵は手のひらから床に再度落ちていった。
(なぜ、この鍵がここに?)
その答えを簡単に導き出す、こんな時ばかり働く勘の良さに腹がたつ。
(マリアンヌはお前を身限り、別れるつもりだ)
勘が教えるその答えは正しくないかも知れないじゃないか、と自分を安心させるようにひとりごちる。
そんなはずはない、もしかしたら親切な誰かがマリアンヌが落とした合鍵をこの部屋に帰してくれたのかも知れないじゃないか。
そんな風に導き出した安直で自分本位な予測の回答に正解の可能性が低いことはわかっている。
でもそれに縋りつきたいほど、真実を知る勇気が湧いてこなかった。
鍵はそのままに、起き上がったばかりのベッドにもう一度戻った。
ギシリ、と音を立てるベッドに腰掛けて両手で頭を抱え項垂れる。
この後するべき行動に考えが全く及ばなかった。
さらに追い討ちをかけるように、カバンの中にしまい込んでいたマリアンヌからの手紙を読んでからはもう記憶は残っていなかった。
その後、どうやってこうなったのかわからないが気がつくと研究所敷地内の診療所にあるベッドに横たわっているようだった。
聴き覚えのある誰かの声がそう伝えていた。
人の声はするのだが、目は光をとらえるが感覚が鈍く五感がしっかり働いていないのがわかる。
体は何かに拘束されているようだがそれを解く気にもなれずもう一度五感を手放した。
五感を閉じれば、頭の中にいろいろなマリアンヌが声をかけてくれる。優しく頭を撫でてくれもするのだ。
瞼の裏のマリアンヌ、もう本物に会えないのならいっそこのままでいい。
そう思って意識を再び手放した。
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