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さよならへのカウントダウン その4
しおりを挟む「皆様ようこそお越しくださいました。ファルマ様、本日はお友達とのご利用でいらっしゃいますか」
「ガランさん、こんばんは。職場でよくしてくださっているお姉様方なの。今日はよろしくお願いいたします」
予約していたのに入り口で少し待たされるので何事かと思えば、一番良い個室に案内され席に着く前に支配人のガラン氏が挨拶に現れた。
王都で最高におしゃれで高級といわれ予約が取れないと有名な店の支配人が、およそ町娘よりも地味目の装いの芋娘を下にも置かない扱いをしているのを見せられた令嬢たちは開いた瞼を閉じることができずにいた。
本日デートを予定していた金持ち令息に無理を言い予約を譲ってもらったライラック姉様は、女子会?を急遽この店で開催することにしていたのだが、いかにも田舎娘でお金のなさそうな芋娘の知られざる一面に驚きを隠せないでいた。
「あなた一体何者なの?ここのレストランのまさか常連?恋人がマントデドラゴ社の関係者とか聞いたけどその関係?」
たしかに、リオネルの紹介なのでマントデドラゴ社の関係ではあるがマリアンヌ自身はこちらの女性シェフとおいも繋がりの仲良しなのである。
「こちらのレストランのシェフにおいものメニュー開発を手伝っていただいた縁があり、開業にあたり出資したんです」
芋娘の期待を裏切らない芋エピソードに開ききっていた瞼が閉じる。
「な~んだ、芋つながり。ん? あなた自身が出資者って、、、」
「お姉様方知らないんすか?マリーはとある事業で財を成した起業家で資産家なんすよ」
「「「なんですって?」」」
3人揃って家が商いをするお姉様方はまさかの芋娘が商売人だと知り再び驚きを隠せない。
”芋娘の恋人事情”をしるオブザーバーとしてマリアンヌと共に拉致されてきたネイトははじめて訪れた高級すぎる空間をきょろきょろと見回しながら、3人姉さんのいつにない食いつきに圧され気味でおどおどしているマリアンヌに代わり説明をはじめた。
「その事業以外にもマリーは芋関係の商品やお店でボロ儲けしてるから。マリーの恋人がマントデドラゴ社の関係者で貴族家の子息なんて聞いたけど、彼の方が玉の輿なんじゃないかと俺は思ったんだよ。あのすごい時計もよく考えたらマリーが贈ったものだったんだろう?いやぁ、あんな贈り物するってどんなに稼いでるんだよ。羨ましいねぇ~」
「その恋人とやらが身につけていたと言う装飾時計のこと?あれは隣国ペケ社のものでマントデドラゴ社独占販売しているのよね?購入するのも難しいというのにあれを贈ったの?」
「ペケ社のものなら懐中時計でも欲しいわぁ~、先日お花柄の可愛い時計を見つけたのよ」
「それ知っているわ、婦人雑誌に特集されていたもの」
「俺も、それ知ってます!有名な舞台女優がどこかの貴族にプロポーズで贈られたやつですよね?」
「あら、あなた情報通ね?」
「仕事柄、いろんな情報収集を心がけてます。それに俺モノの形状完全記憶するのが取り柄なんですよ」
「まぁ、便利な特技ね」
ぺらぺらとマリアンヌを抜いて会話が続いていく。姦しい3人姉さんもネイトも本日のお題をすっかり忘れているようである。
前菜が運ばれてきて、いやぁこの料理はなんだかんだとお酒も入り出し陽気に最近の流行やゴシップなどのおしゃべりに花が咲く4人を前にポツンと食事をするマリアンヌ。
王都に来てからすこしは自分も王都ガールらしく情報に敏感になっていた気がしていたマリアンヌだが、真の王都ガール(と、王都ボーイ?)を面前にするとなんだか自分が15歳の王都に来たての時とあまりかわらない気がしてしまう。
王都に来て街に出るようになったのは、数年たってリオネルと恋人になってからであり図書館や本屋そしてレストランなどに2人ででかけたことが次々と思い出される。
「なっ、あなたなんで泣いているのよ!?」
わいわいと盛り上がっていた4人がふと静かなマリアンヌをみると、ボーッと前をむいたままポロポロと涙を溢しているのに気づき仰天する。
「どうしたの?」
隣に座っていた黒髪美女ステラ嬢がハンカチを差し出した。
「あ、ははは。なんででしょう?彼とデートしたこととかを思い出していたら泣けてしまいました」
先程までわいわいしていた4人だがマリアンヌの様子に言葉をなくしてしまう。
「彼とはうまくいっていないの?」
返されたハンカチで、まだ溢れる涙を拭ってやりながらステラ・スノーワース嬢は問いかけた。
「うまく、、、いっていたとおもっていたんです。でも、彼は他の人と噂があったり、彼のお母様からもそのように話を聞いて。一体何を信じたらいいかわからなくなってしまったんです」
いつも飄々として芋のことしか考えていないようにみえていたおぼこい田舎娘が、ため息まじりに涙を流す姿は艶めき女性らしさを滲ませていた。
思いもよらぬマリアンヌの雰囲気にそこにいた皆が不謹慎にもどきりとしてしまう。
「噂を本人に確かめようにも、王都にいつ戻るかわかりませんし手紙で問いただす内容でもない気がします」
大人女子に見える3人姉さんだが、見えるだけで実のところマリアンヌよりも濃度の低い恋愛経験しかないため少々大人な内容のお悩みにどう答えていいかわからない。
「噂って、どんなこと?」
このなかでは多少恋愛経験値の高めであるネイトが無言の空間に耐えかねマリアンヌに聞いてみる。
「・・・腕時計を受けとってキスをしたとか、その方と結婚予定だとか、、、です」
「ふ~ん、、、んあっ!!」
「なによ、突然大きな声を出さないでちょうだいよ」
「俺、その場にいたかも。もしかして相手って背の高い黒髪の人で、、、たしか」
「サシャ・ルーポ侯爵令嬢?」
「そうそう、そのひとだよ。あの恋人さんの殺気にも気圧されないで平然としててさぁびっくりしたね」
ネイトはあの恐ろしい殺気に圧され、知らぬ間にマリアンヌへ抱いていた淡い恋心を封じられた日のことをおもいだした。
「・・・殺気に気圧されない」
リオネルは良く殺気を無作為に飛ばすのだが、『愛するマリアンヌだけにはそんなことしないよ♡』と言っていた。
その時は器用なことができるモノだと思っていたが、サシャ様にも同じようにしていたとしたら。サシャに対してもリオネルはマリアンヌに対するのと同じように愛情をかけていたということだろうか。
「あの時計って、まさか。噂の時計ってあれのこと???マリーが贈ったんじゃないの?」
皆の視線がマリアンヌに集まる。
「いえ、私が贈ったのは懐中時計なんです。その時計は彼の部屋に置き去りにされていました」
「「「何それ!?」」」
3人姉さんがここでもハモる。
「それってぇ、どういうこと??他の女が贈った時計を身につけて恋人であるいもむすめの贈った時計は放置してるってこと?なにそれっ! ハッ、ムカツク!!」
茶髪美少女こと、ミモレ・シルバティー嬢が可愛い顔を歪ませながら最後4文字だけ低音で人格が変異する。
「ていうか、キス、が私は気になるのですが」
「あぁ、してたなキス(時計に)」
「「「なんですって!?」」」
そして三度ハモる姉様方、ネイトに詰める。
「いや、怖いよ。でも俺見たもん(時計盤にキスしたとこ)。大切なんだろうなって思ってその時は見てたけど贈り主がマリアンヌではなくて別となると俺の見方も変わるな」
「時計云々は置いておいて、人前でキスとかありえないでしょ!?」
「いや、そんなの別に」
「何? あなたはするの?」
「いやぁおれは、、、ああいうキザな仕草はちょっと・・・」
3人娘はキザな仕草でキスを人前でする長身の男女を思い描いていた。
「いもむす、、、いえ、マリアンヌ様!どちらが本命の恋人にせよそのような不埒な真似を人の面前でする男性が誠実なわけありません。デ・オリウス家の出の方と聞き及びましたが、たとえ立派な血筋の方と言えそのようなことをされる男性とお付き合いを続けるのは若さの無駄ですわ」
今まで幾度かいい雰囲気になるたびに相手の不誠実な振る舞いにお付き合いを終わらせてきた、なかなか潔癖なライラック姉さんは恋人がいるのに別の女性とキスをするような輩はたとえ将来有望な貴族家の上級研究員とて女の敵認定をくだした。
「そうよそうよ~、あなたお金もあるんでしょ?若さもあるんだし、次よ次 GOGO~」
「・・・私もそう思うけど、踏ん切れない何かがあるの?」
「わたしは、、、彼にプロポーズしようと思っていたんです」
「女性のあなたから???」
女性が軍人や文官としても働くことが珍しく無くなった時代とは言え、やはり結婚となると男性がリードして結婚までというストーリーを思い描き夢見る女性は少なくない。
「やっぱり、変でしょうか?彼と過ごしてきた数年の間にこの人と家族になりたいという思いが強くなって色々準備も整ったしそろそろと思っていたので私から近々プロポーズしようと思っていたんです。でも彼は私にとても大事なことを隠していて、それもあるんです。。。」
肝心なことではあるが、説明すれば長くなる話にマリアンヌはいったん口を閉ざす。それに言葉にしてしまったら彼を信じることができない現実に直面してしまうのが怖かった。
「大事なこと、って何かわからないけど結婚して家族になるには隠していてはダメな内容なの?」
先程からそっと背中を撫でてくれているステラ姉さんが優しく尋ねてくる。
「はい、お互いの家族のことで。これから家族になるのに絶対に隠していたらダメなことだったんです。何回でも私に打ち明ける機会なんてあったはずなのに、、、」
結局、このことが一番大きいのかもしれない。
他の噂などは、所詮人の口づてに聞くこと。何か誤解もあるかもしれないがこの件だけは事実でしかないのだ。それを彼は隠したままでいる。
「彼のお母様経由でその内容を聞いて、そしてそのこともあり彼の家では私は受け入れられないから別れて他の方と婚約するから彼との関係を精算するという念書を書くように言われています」
「えぇ!?貴族だって恋愛結婚のこの時代にそ~んなこと言う人。。。マジで?」
安定の3文字の語尾低音、人格変異のミモレ嬢だがだれももうつっこまない。
ポツポツと話せることだけでも、とマリアンヌは今までの経緯と自分が耳にしている噂をあらためて4人に伝えた。その上で自分がどうしたらよいか悩んでいることも。
シゴでき給仕により、会話の切れ目にちょうどよく運ばれてきた食事たちももう終わっていた。
もう泣くことはなかったが悲壮感が漂い、さらに小さく見えるマリアンヌに4人の視線が集まっていた。
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