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それぞれの分岐点 その4−5
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よほど疲れていたのだろうか。
普段なら絡みついた腕を解いて水を飲みに行くだけで『どうしたの?』と起きて尋ねてくるほど気配に敏感なリオネルに、ベッドが音を立てて軋んでも気づく様子はない。
(今、一体何時なのかしら?)
ベッドサイドの小さな灯りを頼りにマリアンヌは衣服を探しながら身につけていく。一緒に拾ったリオネルの衣類は畳んで近くにあった椅子の上に置いておく。
物音を立てることに気を使わず動いていたがリオネルが起きる気配はない。
そっと顔を覗くと。
(目元が腫れてる・・・)
行為の間中リオネルが泣いていたのを覚えている。
泣きながらするようなことではないのに、と思いながらマリアンヌは記憶を飛ばすまでの間ずっと彼の体のどこかしらを撫で続けていた記憶がある。
そっと仮眠室のドアを開けて研究室へと出たがすでに暗く、うっすらと窓越しに差し込む外の灯りを頼りに棚にある時計のところで時刻を確認した。
(もうこんな時間、出発の準備や確認もあるだろうしここで眠らせておくわけにはいかないわね)
マリアンヌは再度仮眠室に入り、深い眠りについているリオネルをかわいそうだと思いながらも起こすことにした。
「リオ、もう起きないと。出発の準備があるでしょう?起きてちょうだい」
「ん・・・今何時?」
「真夜中の0時を過ぎているわ」
マリアンヌのその言葉に驚き体を勢いよく起こしリオネルは全裸で立ち上がる。
「アン、ごめん。出発は朝の4時なんだ。それまでに資料を詰めなくてはいけない」
「わかった、手伝うわ。身の回りのものの用意はできているの?」
「ああ、カバンが寮に置いてある」
「じゃあ、私がそれを取ってくるからリオはここで作業をしていて。戻ったら私も手伝うから」
そんな事務的な会話を終え、リオネルは着衣した後急ぎ作業に取り掛かった。
バタバタと研究室で書類の選別を始めるリオネルを横目にマリアンヌも寮へと向かった。
階段を降りていく途中でどろりとリオネルの吐き出した精が下着を濡らす感覚があった。
一瞬迷ったが、時間の制約のある作業を優先させなくてはととりあえず自分の部屋の浴室ではなくリオネルの寮の部屋へと急ぐことにした。
リオネルのカバンを寮から取ってきた後、2人で書類の選別と詰め込み作業に取り掛かったがほぼ選別が終わって用意していた書類を昨日盛大にぶちまけた後そのままにしていた為その作業をやり直すこととなった。そのために出発ギリギリまで時間がかかってしまった。
結果、出発前に2人でプライベートな話をする時間を取ることができなかった。
((戻ってきたら、きちんと話し合おう))
お互い心の中でそう思いつつとりあえずは目の前の仕事に集中してなんとかリオネルの出発に間に合うよう荷造りを終えることができた。
「アン、本当に助かったよ。ありがとう」
「こちらこそお役に立てて良かった。出発前にバタバタさせちゃって私こそごめんなさい」
「・・・アン、あのさ、、」
リオネルが言いかけたところで、今回乗る予定の旅客馬車が到着した。そして中から扉が開くとそこには。
「おお、こんな朝早くから見送りとはお熱いね」
サシャ・ルーポの姿があった。
「???なんでお前がいる!?」
「ん?なんだ、ナオミ様から聞いてないのか?ナオミ様の急な仕事の都合上、今回の通訳と案内は私たちだ」
リオネルの驚きに本当にサシャが同行するのを知らなかったんだろうと理解はできたが、マリアンヌは何かもやもやしたものを感じて言葉を選びながらしか話せなくなった。
「リオ、これ道中”2人”で食べてね。気をつけていってらっしゃい」
そう告げてリオネルのために試行錯誤して作った携行食を渡し、貼り付けたような笑顔で見送りを締めくくろうとした。
「え、あの・・・」
何か告げようと思ったが言葉が続かないリオネルに馬車の中からサシャが声をかけてくる。
「あ~っ!!あの美味しそうなやつだな、早くくれ~早めの朝食にしよう!!」
「サシャ様もそう言っていますし、リオも早く行って。道中楽しんでね」
少し嫌味も込めてそう伝えるマリアンヌの硬い表情は気になったが行ってくるとだけ告げて、荷乗せを完了したと言う御者の言葉と共に馬車に乗り込んだ。
マリアンヌからは窓越しのサシャがみえる。そしてもう一つの窓にかかったカーテンが開くとリオネルの顔がしっかりと見えた。
「・・・いってらっしゃい、待ってるから。早く返ってきてね」
そのセリフは心からのセリフでリオネルもマリアンヌの表情が幾分か柔らかく優しくなったのを確認して少しだけ安心をすることができた。
「いってくる、絶対早く返ってくるから。お土産期待していて」
そういってリオネルも笑顔でマリアンヌに応じた。
御者の発車しますという声で、大きな旅客馬車は動き出した。
マリアンヌは馬車の”2人”をいつまでも見送っていた。
その影が見えなくなっても立ち尽くし見送るマリアンヌはようやく登り出した朝日に照らされた。
馬車は大きく片側に傾いていたことやもう一人の乗車人がリオネルの奥にいたことにマリアンヌは気づかなかった。
普段なら絡みついた腕を解いて水を飲みに行くだけで『どうしたの?』と起きて尋ねてくるほど気配に敏感なリオネルに、ベッドが音を立てて軋んでも気づく様子はない。
(今、一体何時なのかしら?)
ベッドサイドの小さな灯りを頼りにマリアンヌは衣服を探しながら身につけていく。一緒に拾ったリオネルの衣類は畳んで近くにあった椅子の上に置いておく。
物音を立てることに気を使わず動いていたがリオネルが起きる気配はない。
そっと顔を覗くと。
(目元が腫れてる・・・)
行為の間中リオネルが泣いていたのを覚えている。
泣きながらするようなことではないのに、と思いながらマリアンヌは記憶を飛ばすまでの間ずっと彼の体のどこかしらを撫で続けていた記憶がある。
そっと仮眠室のドアを開けて研究室へと出たがすでに暗く、うっすらと窓越しに差し込む外の灯りを頼りに棚にある時計のところで時刻を確認した。
(もうこんな時間、出発の準備や確認もあるだろうしここで眠らせておくわけにはいかないわね)
マリアンヌは再度仮眠室に入り、深い眠りについているリオネルをかわいそうだと思いながらも起こすことにした。
「リオ、もう起きないと。出発の準備があるでしょう?起きてちょうだい」
「ん・・・今何時?」
「真夜中の0時を過ぎているわ」
マリアンヌのその言葉に驚き体を勢いよく起こしリオネルは全裸で立ち上がる。
「アン、ごめん。出発は朝の4時なんだ。それまでに資料を詰めなくてはいけない」
「わかった、手伝うわ。身の回りのものの用意はできているの?」
「ああ、カバンが寮に置いてある」
「じゃあ、私がそれを取ってくるからリオはここで作業をしていて。戻ったら私も手伝うから」
そんな事務的な会話を終え、リオネルは着衣した後急ぎ作業に取り掛かった。
バタバタと研究室で書類の選別を始めるリオネルを横目にマリアンヌも寮へと向かった。
階段を降りていく途中でどろりとリオネルの吐き出した精が下着を濡らす感覚があった。
一瞬迷ったが、時間の制約のある作業を優先させなくてはととりあえず自分の部屋の浴室ではなくリオネルの寮の部屋へと急ぐことにした。
リオネルのカバンを寮から取ってきた後、2人で書類の選別と詰め込み作業に取り掛かったがほぼ選別が終わって用意していた書類を昨日盛大にぶちまけた後そのままにしていた為その作業をやり直すこととなった。そのために出発ギリギリまで時間がかかってしまった。
結果、出発前に2人でプライベートな話をする時間を取ることができなかった。
((戻ってきたら、きちんと話し合おう))
お互い心の中でそう思いつつとりあえずは目の前の仕事に集中してなんとかリオネルの出発に間に合うよう荷造りを終えることができた。
「アン、本当に助かったよ。ありがとう」
「こちらこそお役に立てて良かった。出発前にバタバタさせちゃって私こそごめんなさい」
「・・・アン、あのさ、、」
リオネルが言いかけたところで、今回乗る予定の旅客馬車が到着した。そして中から扉が開くとそこには。
「おお、こんな朝早くから見送りとはお熱いね」
サシャ・ルーポの姿があった。
「???なんでお前がいる!?」
「ん?なんだ、ナオミ様から聞いてないのか?ナオミ様の急な仕事の都合上、今回の通訳と案内は私たちだ」
リオネルの驚きに本当にサシャが同行するのを知らなかったんだろうと理解はできたが、マリアンヌは何かもやもやしたものを感じて言葉を選びながらしか話せなくなった。
「リオ、これ道中”2人”で食べてね。気をつけていってらっしゃい」
そう告げてリオネルのために試行錯誤して作った携行食を渡し、貼り付けたような笑顔で見送りを締めくくろうとした。
「え、あの・・・」
何か告げようと思ったが言葉が続かないリオネルに馬車の中からサシャが声をかけてくる。
「あ~っ!!あの美味しそうなやつだな、早くくれ~早めの朝食にしよう!!」
「サシャ様もそう言っていますし、リオも早く行って。道中楽しんでね」
少し嫌味も込めてそう伝えるマリアンヌの硬い表情は気になったが行ってくるとだけ告げて、荷乗せを完了したと言う御者の言葉と共に馬車に乗り込んだ。
マリアンヌからは窓越しのサシャがみえる。そしてもう一つの窓にかかったカーテンが開くとリオネルの顔がしっかりと見えた。
「・・・いってらっしゃい、待ってるから。早く返ってきてね」
そのセリフは心からのセリフでリオネルもマリアンヌの表情が幾分か柔らかく優しくなったのを確認して少しだけ安心をすることができた。
「いってくる、絶対早く返ってくるから。お土産期待していて」
そういってリオネルも笑顔でマリアンヌに応じた。
御者の発車しますという声で、大きな旅客馬車は動き出した。
マリアンヌは馬車の”2人”をいつまでも見送っていた。
その影が見えなくなっても立ち尽くし見送るマリアンヌはようやく登り出した朝日に照らされた。
馬車は大きく片側に傾いていたことやもう一人の乗車人がリオネルの奥にいたことにマリアンヌは気づかなかった。
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