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それぞれの分岐点 その4−2
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時は少し前に遡り、マリアンヌを探して寮に向かっていたリオネル。
サシャも責任を感じてか、はたまた面白半分かリオネルに付き従っている。
リオネルが寮の入り口までたどり着いた時、思い出したとばかりにサシャが徐に白衣のポケットから箱を取り出した。
「そうだそうだ、これを忘れないうちに渡しておこう」
そう言ってサシャがリオネルに押しつけた箱の中身は、リオネルがマリアンヌの誕生日に贈った腕時計と付属で作られた小さなガラス板だった。
「他人の細工仕事に加工するのは難儀なんだぞ、工賃はずめよ」
リオネルはマリアンヌの時計にこっそりと仕掛けを頼んでいた。
世界に数個しかない貴重な細工時計にさらに加工するとなるとそれなりの技術が必要だがサシャ・ルーポは細工師としてその道の数少ない専門家だった。研究所にはその腕を買われ研究対象を実用化する組織に所属している。
「こんな仕掛け何に使うのかと考えると怖い気もするが、まぁ重宝する人間は多いだろうな。軍事転用も可能だしまたまた儲かってしまうような発明だな、ワハハ。私にも何割かよこせよ、結婚するのにこちらも金がいるんだ」
とりあえず時計の仕様を確認しようとまずは自分の腕に嵌めてみた。
「当たりが悪いな、少し重量が増えた分装着した時の感じが悪い」
「それは私も思ったが、これ以上重量を減らそうとすると機能に障る。だが、まぁ指摘はその通りだ。すぐ作り直すか?」
「いや、いい。まずはこのまま本人にも感想を聞いてみる」
リオネルは時計を装着してマリアンヌを想う。
離れている間これを肌身離さず身につけておいてもらおうと念をこめて文字盤にキスをした。
するとそこに一人の青年が入ってきた。そして入口の寮管理室の職員に話しかけている。
「マリアンヌ・ファルマさんに取り次いでいただきたいんですが」
今まさにリオネルが探している愛しい人の名前を告げる若い男に意図せず殺気を放ってしまう。
「ひっ、何?なに?なんか動けない~」
急に体を襲う恐怖に体の自由を奪われたマリアンヌの同僚ネイトは管理室の窓口で固まってしまう。
そしてその背後に大きな影が迫る。
「そこのお前、マリアンヌに何の用だ?」
「えっ?なに、誰?」
体の重みが少し軽くなり振り返るとそこには逆光でできた大きな影。よく見ると大きな男性である。
男の中途半端に乾いた髪は顔に張り付き禍々しささえ漂う巨人のようだ。焦りと怒りで今や湯上がりイケメンはどこかに行ってしまったようだ。
「お前は誰だ?」
「へっ?俺?ネイトです」
「どこのネイトだ」
「えっと、資料管理室所属のネイトです」
そういえばマリアンヌの同僚にそんな奴がいたなと思い目の前の男を隅々まで観察する。
勝てる、こいつには腕力では負けないなどと考え再度同じ質問を投げかける。
「もう一度聞く、マリアンヌに何の用だ」
やたら威圧してくる男に最初は怯んでいたネイトだったが、可愛い後輩がこんな怖いやつと知り合いだなんて知らないぞとの考えに至った。
もしかしたら悪いやつか?と思ったネイトは気持ちを振り立たせ言い返した。
「仕事上の用事です、内容は、、、見ず知らずの方に答えられるものではないです。それよりあなたのお名前を伺ってもいいですか?あなたこそファルマ嬢とどういう間柄ですか?」
言ってやったぜ、とちょっと得意顔のネイト。
しかし自分のその問いに対する答えに驚く。
「俺はマリアンヌの恋人、リオネル・デ・オリウスだ」
(マリーちゃんに恋人???えーーーーーーっ?なんでこんな怖そうなヤツ?嘘でしょ?)
常にホワホワしている芋っ娘にまさか恋人がいるなんて、それにこんな、、、ってわぁすごい高級時計している。やはり女は経済力に弱いのか???などと考えているのは目の前の男には伝わってはいない。
「それで、いったい何の用だ」
「あぁ、えーと、この道具を庭師さんの厨房に忘れていたらしくて彼女に返すように頼まれたんです」
それをみると確かに普段マリアンヌが使用している道具の入ったカゴのようだった。
「それは私が彼女に直接渡そう」
そう言ってネイトの手から彼女の道具かごを取り上げようとする。あまり長く彼女の私物を自分以外の男に触らせておくのは気分が良くないと考えるリオネル。
「いやいや、これ結構重いんでいいですよ。何だったら管理室に預かってもらうんで」
と目の前のヒョロ巨人に向かって自分の自慢の力こぶを見せつけるようにかごを持ち上げる。
「かまわん、俺の部屋においておく」
とリオネルは指を上に向けて自分もこの寮の住人なのだとネイトに無言で伝える。
「でも、、、本当にあなたがマリーの恋人か確証ないし、、ってヒィぃぃぃ」
マリー、という名がネイトの口に登ったその瞬間、絶対零度の冷気と殺気がリオネルから放たれる。
後ろに立っていたサシャは鬱陶しそうにそれを払ったがもろにそれを食らったネイトは顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちた。
そのネイトからかごを強引に奪うとリオネルは寮の階段を上がっていく。その後をサシャが意気揚々とついていった。
3階の廊下の突き当たり、マリアンヌの部屋の扉を何度か叩くが応答はない。
中に人の気配もなし。
「部屋にはいないようだ・・・」
「まぁ、私だったら喧嘩した恋人が追いかけてきそうなところにはいかないかな」
「なn・・・」
異論反論と、思ったがこの姐御のアドバイスで今まで何度もマリアンヌとの関係を進展させてきた。ここは素直に聞くべきなのかと思案するリオネル。
「ん~、さてどこにいるかなぁ? 畑か、もしくは、、、資料管理室かな?」
「それはお前が行きたいだけでは・・・」
「へへへ、そんなこと、あるかもぅ~」
どこまでも自分の要求に素直な恋愛の師匠からのアドバイスにここは従うことにする。
「ではいざ、資料管理室へ~」
この軽そうな姐御に本当についていっていいのか、一瞬迷ったその勘を信じて冷静になる時間をしっかり取っておけばよかったと後から悔やむことになるとはこの時は知るはずもなかった。
サシャも責任を感じてか、はたまた面白半分かリオネルに付き従っている。
リオネルが寮の入り口までたどり着いた時、思い出したとばかりにサシャが徐に白衣のポケットから箱を取り出した。
「そうだそうだ、これを忘れないうちに渡しておこう」
そう言ってサシャがリオネルに押しつけた箱の中身は、リオネルがマリアンヌの誕生日に贈った腕時計と付属で作られた小さなガラス板だった。
「他人の細工仕事に加工するのは難儀なんだぞ、工賃はずめよ」
リオネルはマリアンヌの時計にこっそりと仕掛けを頼んでいた。
世界に数個しかない貴重な細工時計にさらに加工するとなるとそれなりの技術が必要だがサシャ・ルーポは細工師としてその道の数少ない専門家だった。研究所にはその腕を買われ研究対象を実用化する組織に所属している。
「こんな仕掛け何に使うのかと考えると怖い気もするが、まぁ重宝する人間は多いだろうな。軍事転用も可能だしまたまた儲かってしまうような発明だな、ワハハ。私にも何割かよこせよ、結婚するのにこちらも金がいるんだ」
とりあえず時計の仕様を確認しようとまずは自分の腕に嵌めてみた。
「当たりが悪いな、少し重量が増えた分装着した時の感じが悪い」
「それは私も思ったが、これ以上重量を減らそうとすると機能に障る。だが、まぁ指摘はその通りだ。すぐ作り直すか?」
「いや、いい。まずはこのまま本人にも感想を聞いてみる」
リオネルは時計を装着してマリアンヌを想う。
離れている間これを肌身離さず身につけておいてもらおうと念をこめて文字盤にキスをした。
するとそこに一人の青年が入ってきた。そして入口の寮管理室の職員に話しかけている。
「マリアンヌ・ファルマさんに取り次いでいただきたいんですが」
今まさにリオネルが探している愛しい人の名前を告げる若い男に意図せず殺気を放ってしまう。
「ひっ、何?なに?なんか動けない~」
急に体を襲う恐怖に体の自由を奪われたマリアンヌの同僚ネイトは管理室の窓口で固まってしまう。
そしてその背後に大きな影が迫る。
「そこのお前、マリアンヌに何の用だ?」
「えっ?なに、誰?」
体の重みが少し軽くなり振り返るとそこには逆光でできた大きな影。よく見ると大きな男性である。
男の中途半端に乾いた髪は顔に張り付き禍々しささえ漂う巨人のようだ。焦りと怒りで今や湯上がりイケメンはどこかに行ってしまったようだ。
「お前は誰だ?」
「へっ?俺?ネイトです」
「どこのネイトだ」
「えっと、資料管理室所属のネイトです」
そういえばマリアンヌの同僚にそんな奴がいたなと思い目の前の男を隅々まで観察する。
勝てる、こいつには腕力では負けないなどと考え再度同じ質問を投げかける。
「もう一度聞く、マリアンヌに何の用だ」
やたら威圧してくる男に最初は怯んでいたネイトだったが、可愛い後輩がこんな怖いやつと知り合いだなんて知らないぞとの考えに至った。
もしかしたら悪いやつか?と思ったネイトは気持ちを振り立たせ言い返した。
「仕事上の用事です、内容は、、、見ず知らずの方に答えられるものではないです。それよりあなたのお名前を伺ってもいいですか?あなたこそファルマ嬢とどういう間柄ですか?」
言ってやったぜ、とちょっと得意顔のネイト。
しかし自分のその問いに対する答えに驚く。
「俺はマリアンヌの恋人、リオネル・デ・オリウスだ」
(マリーちゃんに恋人???えーーーーーーっ?なんでこんな怖そうなヤツ?嘘でしょ?)
常にホワホワしている芋っ娘にまさか恋人がいるなんて、それにこんな、、、ってわぁすごい高級時計している。やはり女は経済力に弱いのか???などと考えているのは目の前の男には伝わってはいない。
「それで、いったい何の用だ」
「あぁ、えーと、この道具を庭師さんの厨房に忘れていたらしくて彼女に返すように頼まれたんです」
それをみると確かに普段マリアンヌが使用している道具の入ったカゴのようだった。
「それは私が彼女に直接渡そう」
そう言ってネイトの手から彼女の道具かごを取り上げようとする。あまり長く彼女の私物を自分以外の男に触らせておくのは気分が良くないと考えるリオネル。
「いやいや、これ結構重いんでいいですよ。何だったら管理室に預かってもらうんで」
と目の前のヒョロ巨人に向かって自分の自慢の力こぶを見せつけるようにかごを持ち上げる。
「かまわん、俺の部屋においておく」
とリオネルは指を上に向けて自分もこの寮の住人なのだとネイトに無言で伝える。
「でも、、、本当にあなたがマリーの恋人か確証ないし、、ってヒィぃぃぃ」
マリー、という名がネイトの口に登ったその瞬間、絶対零度の冷気と殺気がリオネルから放たれる。
後ろに立っていたサシャは鬱陶しそうにそれを払ったがもろにそれを食らったネイトは顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちた。
そのネイトからかごを強引に奪うとリオネルは寮の階段を上がっていく。その後をサシャが意気揚々とついていった。
3階の廊下の突き当たり、マリアンヌの部屋の扉を何度か叩くが応答はない。
中に人の気配もなし。
「部屋にはいないようだ・・・」
「まぁ、私だったら喧嘩した恋人が追いかけてきそうなところにはいかないかな」
「なn・・・」
異論反論と、思ったがこの姐御のアドバイスで今まで何度もマリアンヌとの関係を進展させてきた。ここは素直に聞くべきなのかと思案するリオネル。
「ん~、さてどこにいるかなぁ? 畑か、もしくは、、、資料管理室かな?」
「それはお前が行きたいだけでは・・・」
「へへへ、そんなこと、あるかもぅ~」
どこまでも自分の要求に素直な恋愛の師匠からのアドバイスにここは従うことにする。
「ではいざ、資料管理室へ~」
この軽そうな姐御に本当についていっていいのか、一瞬迷ったその勘を信じて冷静になる時間をしっかり取っておけばよかったと後から悔やむことになるとはこの時は知るはずもなかった。
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