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第十章
男爵領取得3
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賊の鎮圧、および男爵領の制圧はあっけないほど速やかに終わった。
賊のほとんどは、男爵邸で乱交中だったこともあり、ルマ家騎士らはポカンとする素っ裸な男たちを剣で突き刺すだけで終わった。
後は、数人が町を我が物顔で徘徊していた所を、切り捨てた。
結局、賊の誰一人、剣を抜ききることすら出来ず殺されることとなった。
また、治安が荒れたことで各地に湧いたならず者や強盗団らも、演習地から強行してきた第一、第十六騎士団をはじめとするソードル軍によって瞬く間に制圧された。
それには、兵の頑張りもあるが、何より従者ザンドラ・フクリュウの采配が適切だった事も大きかった。
ハマーヘンで一泊したエリージェ・ソードルは二百名ほどの騎士に守られつつも、これといった障害もなく、夕方前には男爵邸のある町ファニーニアに到着した。
その後、マガド男爵の分家に訪問した後、公爵家の旗がはためく男爵邸に到着した。
騎士ギド・ザクスに手を取られながら馬車から降りると、ルマ家騎士レネ・フートを初めとするルマ家騎士が整列して女を出迎えてくれた。
エリージェ・ソードルはルマ家騎士レネ・フートに声をかけた。
「レネ、ご苦労様。
見事な働きだったと聞いているわ。
流石はルマ家騎士ね」
それに対して、ルマ家騎士レネ・フートはやや苦笑気味に言った。
「いや、見事と言うほどの事はしてませんけどね。
はっきり言って肥えた家畜を絞めるより簡単な仕事でしたよ」
賊であるウリ・ダレ子爵の仲間たちも一応見張りは立てていた。
町の門にも、屋敷の門にも、である。
ただ、すっかり油断しきっていたウリ・ダレ子爵の仲間らは町から金で雇った者達にそれをさせていた。
そんな彼らは、ルマ家騎士の姿を見ると、すっと道を開けたのである。
その中には、涙を流し『よろしくお願いします』と言う者すらいた。
だから、特に意図していた訳でもなかったのだが、不意を付くことが出来たのであった。
エリージェ・ソードルは頷きながら、訊ねる。
「で、首は取ってくれたかしら?
一応、検分しておきたいんだけど」
その言に、一同はギョっとする。
そんなものを十歳そこそこの令嬢に見せて良いはずがない。
だが、これまでの付き合いで、本気であることを悟ったルマ家騎士レネ・フートは申し訳なさそうに言った。
「お嬢様、大変申し訳ありません。
実は賊に恨みを持つ者達が石を当てたいと言っていましたので、しっかりと全員そろっている事を確認した後に、彼らに渡してしまいました。
今ではもう、ただの肉片になっているので検分は出来ないかと」
「あらそう?
……まあ、しっかり確認がされているのであれば、いいでしょう。
そういえば、ダレ子爵と一緒にいた者達はどうしたの?」
前日の村で捉えられた者達は男爵領制圧の報が届いた後に、ウリ・ダレ子爵以外を男爵邸へと送っていた。
聴取を取るのであれば、まとめた方が良いだろうと言う理由でのことだった。
因みに、ウリ・ダレ子爵本人は昨日の内に王都にあるリーヴスリー家に送っている。
平民と大差ない他の者とは違い、曲がりなりにも領持ち子爵なので、領に帰すにしても罰を与えるにしても、面倒な手順や用意を必要とした。
なので、煩わしくなったエリージェ・ソードルが『こんな木っ端貴族、首を斬ってしまおうかしら』と半ば本気でボヤいた所、焦ったウリ・ダレ子爵が『わたしの妻はリーヴスリー家の者でぇ~』などと話し始めたので、だったらと言うことでダレ子爵領よりは近いそこに送ったのであった。
ついでに、苦情の手紙も付けておいた。
ダレ子爵家の後ろ盾になっているのであれば、しっかり見張って欲しい――ぐらいの、女にとって軽い苦情だったわけだが……。
リーヴスリー家はリーヴスリー家でも、本家の、しかも、ザーダール・リヴスリー大将軍宛だったことで、のちにエリージェ・ソードルの知らないところで大騒ぎになるのだが……。
この凡庸たる女はその様な事、思いつきもしない。
なので、すでに処遇が決まったウリ・ダレ子爵よりも、制圧後に男爵邸へと送った取り巻きについて訊ねたのだ。
ルマ家騎士レネ・フートは「ああ」と頷きながら何て事もなく言った。
「あれらは、尋問した所、賊と似たようなことをしていたみたいで、ついでに斬っておきました。
マズかったですか?」
実際の所は、ウリ・ダレ子爵同様、小狡く逃げようとしたのだが……。
余りにも胸くそ悪い話がこれでもかと出てきたので、ルマ家騎士レネ・フートの独断でさっさと斬ってしまったのだ。
下位とはいえ、一応貴族の親族である。
バレたら当然問題になる。
だからこそ、この女とてわざわざ生きたまま男爵領に送り返したのだったが……。
とはいえ、下級の、しかも当主ですらない取り巻きなどさほど興味のないエリージェ・ソードルは「ああ、それならいいわ」と軽く流した。
そして、男爵邸に入りながら別のことを話し始める。
「渡していた銀貨は足りたかしら?」
「足りました。
全て使い切ってしまいましたが……」
実際の所、情報らしい情報は必要としなかったのだが、例の見張りや、貧困そうな者達に大した話でもないことを聞きだし配っていたのだ。
これは、男爵邸に立てこもっている男の居場所を聞くという”不要”な事に金を渡した女の意図を、ルマ家騎士レネ・フートが誤って判断した結果であり――もちろん、エリージェ・ソードルの意図ではない。
単に効率を過度なほどに重視するこの女が、逃げられた時のことを考えて先回りをしたにすぎないのだ。
だが、ケチなくせに貴族らしくいい加減さも持ち合わせているこの女はそのような行き違いも気づかずに「そうなのね」と適当に流してしまう。
そして、従者ザンドラ・フクリュウに視線を向け、箱を確認しながら言った。
「じゃあレネ、皆に報奨金を渡すから、並べて頂戴」
ルマ家騎士レネ・フートが目を丸くする。
「そのようなもの頂けるので?」
「役割と違う事をさせてしまったのだから、当たり前でしょう?
あ、あなたは後で渡すから」
「はぁ、それはありがたいのですが……」
ルマ家騎士レネ・フートとしては、それこそ、騎士として当たり前の事をしたという気持ちであったが、エリージェ・ソードルは他領のことで他家の騎士を使ったのだから、きちんとしておきたかった。
なので、ルマ家騎士レネ・フートの指示で並べられた騎士達一人一人に自ら大銀貨を渡し、労をねぎらうのであった。
まだ十歳そこそこの小娘であったが、美しく高貴なご令嬢に名を呼ばれ、「流石は誇り高きルマ家騎士ね」とか「頼もしいわ」とか大げさなほど褒められたのだ。
普段、不遜に見えるほど自信に満ちた態度のルマ家騎士達も気恥ずかしそうに頬を掻きながらそれを受け取っていた。
そして、少し離れた所で「俺、ソードル家の使用人がエリージェ様の事が好きなの、ちょっと分かった気がする」と囁き合うのであった。
だが、そんな事を言われている事など知らないエリージェ・ソードルは、全ての騎士に渡し終えると、ルマ家騎士レネ・フートと共に男爵邸の執務室に向かった。
執務室はひどい有様だった。
ひどいというのは荒れ果てた――と言う意味ではない。
むしろ逆だった。
美術品や豪奢な家具、装飾品や宝石、そして、金貨が詰まった木箱や麻袋などが所狭しと置かれていた。
文字通り足の踏み場がほとんど無く、エリージェ・ソードルは入り口前で困惑していた。
そんな女に向かってルマ家騎士レネ・フートが説明する。
「どうやら、町中の富豪や商人に言いがかりを付けて殺し、奪い取ったみたいですよ。
ここはその倉庫代わりにしていたみたいで」
よく見ると、窓という窓に板を打ち付け開かないようになっていた。
「……理解できないわね」
と女は眉を顰めた。
エリージェ・ソードルに取って、富豪や商人は領を動かす為の駒であった。
臓器と言っても良い。
領の上にいる自分とは違い、その中に根付き、脈打つことで経済を巡らせる彼らの必要性を女は正しく理解していた。
故にこの女、どれだけ目障りに思ってもそのほとんどを罰しても潰さなかった。
唯一潰したのはホルンバハ商会で、しかも、その対応を誤った事で公爵領が傾きかけたのである。
なので、ますますその気持ちが強くなった。
そんなエリージェ・ソードルには”小銭”の為にそれらを殺すウリ・ダレ子爵とその取り巻きのやりようが理解できない。
もっとも、領主とウリ・ダレ子爵らでは考えが違いすぎるのも無理からぬ事ではあった。
そんな女に、ルマ家騎士レネ・フートが答える。
「お嬢様には理解できない事でしょうし、理解する必要はないですよ」
「そうね」と言いつつ、エリージェ・ソードルはスカートの左右をそれぞれ抓みながら少し持ち上げ、隙間を縫うように中に入っていく。
「お嬢様!?」
というルマ家騎士レネ・フートが困惑気味に声をかけてきたが気にせず奥まで進む。
そして、執務机まで着くと、机の上や椅子の上にある物を床に下ろすと、そこに座った。
視線を向けると、ルマ家騎士レネ・フートや従者ザンドラ・フクリュウらも慌てつつも美術品などに気を付けつつ追いかけてきた。
女の前にたどり着いたルマ家騎士レネ・フートが苦笑しながら言う。
「お嬢様、お嬢様は時々突飛なことをするとジェシーに聞かされていましたが、本当のようですね」
その言に、エリージェ・ソードルは小首を捻る。
「どういうこと?
執務をするために執務室に入っただけじゃない?
そんなにおかしな事をしたかしら?」
「いや、こんな状態の執務室でする必要が無いというか……」
「確かにそうね、後で片づけさせましょう」
などと言いつつ、従者ザンドラ・フクリュウに執務に必要な物の用意をさせる。
ルマ家騎士レネ・フートとしては、雑多に物が置かれたこんな場所でわざわざする必要がないと言いたかったのだが、エリージェ・ソードルという女、執務室があるのだから執務はそこでやるものという変な固定概念を持っていた。
なので、どのように言ったら通じるのか、と頭を悩ませるルマ家騎士レネ・フートをそのままに執務を始めた。
賊のほとんどは、男爵邸で乱交中だったこともあり、ルマ家騎士らはポカンとする素っ裸な男たちを剣で突き刺すだけで終わった。
後は、数人が町を我が物顔で徘徊していた所を、切り捨てた。
結局、賊の誰一人、剣を抜ききることすら出来ず殺されることとなった。
また、治安が荒れたことで各地に湧いたならず者や強盗団らも、演習地から強行してきた第一、第十六騎士団をはじめとするソードル軍によって瞬く間に制圧された。
それには、兵の頑張りもあるが、何より従者ザンドラ・フクリュウの采配が適切だった事も大きかった。
ハマーヘンで一泊したエリージェ・ソードルは二百名ほどの騎士に守られつつも、これといった障害もなく、夕方前には男爵邸のある町ファニーニアに到着した。
その後、マガド男爵の分家に訪問した後、公爵家の旗がはためく男爵邸に到着した。
騎士ギド・ザクスに手を取られながら馬車から降りると、ルマ家騎士レネ・フートを初めとするルマ家騎士が整列して女を出迎えてくれた。
エリージェ・ソードルはルマ家騎士レネ・フートに声をかけた。
「レネ、ご苦労様。
見事な働きだったと聞いているわ。
流石はルマ家騎士ね」
それに対して、ルマ家騎士レネ・フートはやや苦笑気味に言った。
「いや、見事と言うほどの事はしてませんけどね。
はっきり言って肥えた家畜を絞めるより簡単な仕事でしたよ」
賊であるウリ・ダレ子爵の仲間たちも一応見張りは立てていた。
町の門にも、屋敷の門にも、である。
ただ、すっかり油断しきっていたウリ・ダレ子爵の仲間らは町から金で雇った者達にそれをさせていた。
そんな彼らは、ルマ家騎士の姿を見ると、すっと道を開けたのである。
その中には、涙を流し『よろしくお願いします』と言う者すらいた。
だから、特に意図していた訳でもなかったのだが、不意を付くことが出来たのであった。
エリージェ・ソードルは頷きながら、訊ねる。
「で、首は取ってくれたかしら?
一応、検分しておきたいんだけど」
その言に、一同はギョっとする。
そんなものを十歳そこそこの令嬢に見せて良いはずがない。
だが、これまでの付き合いで、本気であることを悟ったルマ家騎士レネ・フートは申し訳なさそうに言った。
「お嬢様、大変申し訳ありません。
実は賊に恨みを持つ者達が石を当てたいと言っていましたので、しっかりと全員そろっている事を確認した後に、彼らに渡してしまいました。
今ではもう、ただの肉片になっているので検分は出来ないかと」
「あらそう?
……まあ、しっかり確認がされているのであれば、いいでしょう。
そういえば、ダレ子爵と一緒にいた者達はどうしたの?」
前日の村で捉えられた者達は男爵領制圧の報が届いた後に、ウリ・ダレ子爵以外を男爵邸へと送っていた。
聴取を取るのであれば、まとめた方が良いだろうと言う理由でのことだった。
因みに、ウリ・ダレ子爵本人は昨日の内に王都にあるリーヴスリー家に送っている。
平民と大差ない他の者とは違い、曲がりなりにも領持ち子爵なので、領に帰すにしても罰を与えるにしても、面倒な手順や用意を必要とした。
なので、煩わしくなったエリージェ・ソードルが『こんな木っ端貴族、首を斬ってしまおうかしら』と半ば本気でボヤいた所、焦ったウリ・ダレ子爵が『わたしの妻はリーヴスリー家の者でぇ~』などと話し始めたので、だったらと言うことでダレ子爵領よりは近いそこに送ったのであった。
ついでに、苦情の手紙も付けておいた。
ダレ子爵家の後ろ盾になっているのであれば、しっかり見張って欲しい――ぐらいの、女にとって軽い苦情だったわけだが……。
リーヴスリー家はリーヴスリー家でも、本家の、しかも、ザーダール・リヴスリー大将軍宛だったことで、のちにエリージェ・ソードルの知らないところで大騒ぎになるのだが……。
この凡庸たる女はその様な事、思いつきもしない。
なので、すでに処遇が決まったウリ・ダレ子爵よりも、制圧後に男爵邸へと送った取り巻きについて訊ねたのだ。
ルマ家騎士レネ・フートは「ああ」と頷きながら何て事もなく言った。
「あれらは、尋問した所、賊と似たようなことをしていたみたいで、ついでに斬っておきました。
マズかったですか?」
実際の所は、ウリ・ダレ子爵同様、小狡く逃げようとしたのだが……。
余りにも胸くそ悪い話がこれでもかと出てきたので、ルマ家騎士レネ・フートの独断でさっさと斬ってしまったのだ。
下位とはいえ、一応貴族の親族である。
バレたら当然問題になる。
だからこそ、この女とてわざわざ生きたまま男爵領に送り返したのだったが……。
とはいえ、下級の、しかも当主ですらない取り巻きなどさほど興味のないエリージェ・ソードルは「ああ、それならいいわ」と軽く流した。
そして、男爵邸に入りながら別のことを話し始める。
「渡していた銀貨は足りたかしら?」
「足りました。
全て使い切ってしまいましたが……」
実際の所、情報らしい情報は必要としなかったのだが、例の見張りや、貧困そうな者達に大した話でもないことを聞きだし配っていたのだ。
これは、男爵邸に立てこもっている男の居場所を聞くという”不要”な事に金を渡した女の意図を、ルマ家騎士レネ・フートが誤って判断した結果であり――もちろん、エリージェ・ソードルの意図ではない。
単に効率を過度なほどに重視するこの女が、逃げられた時のことを考えて先回りをしたにすぎないのだ。
だが、ケチなくせに貴族らしくいい加減さも持ち合わせているこの女はそのような行き違いも気づかずに「そうなのね」と適当に流してしまう。
そして、従者ザンドラ・フクリュウに視線を向け、箱を確認しながら言った。
「じゃあレネ、皆に報奨金を渡すから、並べて頂戴」
ルマ家騎士レネ・フートが目を丸くする。
「そのようなもの頂けるので?」
「役割と違う事をさせてしまったのだから、当たり前でしょう?
あ、あなたは後で渡すから」
「はぁ、それはありがたいのですが……」
ルマ家騎士レネ・フートとしては、それこそ、騎士として当たり前の事をしたという気持ちであったが、エリージェ・ソードルは他領のことで他家の騎士を使ったのだから、きちんとしておきたかった。
なので、ルマ家騎士レネ・フートの指示で並べられた騎士達一人一人に自ら大銀貨を渡し、労をねぎらうのであった。
まだ十歳そこそこの小娘であったが、美しく高貴なご令嬢に名を呼ばれ、「流石は誇り高きルマ家騎士ね」とか「頼もしいわ」とか大げさなほど褒められたのだ。
普段、不遜に見えるほど自信に満ちた態度のルマ家騎士達も気恥ずかしそうに頬を掻きながらそれを受け取っていた。
そして、少し離れた所で「俺、ソードル家の使用人がエリージェ様の事が好きなの、ちょっと分かった気がする」と囁き合うのであった。
だが、そんな事を言われている事など知らないエリージェ・ソードルは、全ての騎士に渡し終えると、ルマ家騎士レネ・フートと共に男爵邸の執務室に向かった。
執務室はひどい有様だった。
ひどいというのは荒れ果てた――と言う意味ではない。
むしろ逆だった。
美術品や豪奢な家具、装飾品や宝石、そして、金貨が詰まった木箱や麻袋などが所狭しと置かれていた。
文字通り足の踏み場がほとんど無く、エリージェ・ソードルは入り口前で困惑していた。
そんな女に向かってルマ家騎士レネ・フートが説明する。
「どうやら、町中の富豪や商人に言いがかりを付けて殺し、奪い取ったみたいですよ。
ここはその倉庫代わりにしていたみたいで」
よく見ると、窓という窓に板を打ち付け開かないようになっていた。
「……理解できないわね」
と女は眉を顰めた。
エリージェ・ソードルに取って、富豪や商人は領を動かす為の駒であった。
臓器と言っても良い。
領の上にいる自分とは違い、その中に根付き、脈打つことで経済を巡らせる彼らの必要性を女は正しく理解していた。
故にこの女、どれだけ目障りに思ってもそのほとんどを罰しても潰さなかった。
唯一潰したのはホルンバハ商会で、しかも、その対応を誤った事で公爵領が傾きかけたのである。
なので、ますますその気持ちが強くなった。
そんなエリージェ・ソードルには”小銭”の為にそれらを殺すウリ・ダレ子爵とその取り巻きのやりようが理解できない。
もっとも、領主とウリ・ダレ子爵らでは考えが違いすぎるのも無理からぬ事ではあった。
そんな女に、ルマ家騎士レネ・フートが答える。
「お嬢様には理解できない事でしょうし、理解する必要はないですよ」
「そうね」と言いつつ、エリージェ・ソードルはスカートの左右をそれぞれ抓みながら少し持ち上げ、隙間を縫うように中に入っていく。
「お嬢様!?」
というルマ家騎士レネ・フートが困惑気味に声をかけてきたが気にせず奥まで進む。
そして、執務机まで着くと、机の上や椅子の上にある物を床に下ろすと、そこに座った。
視線を向けると、ルマ家騎士レネ・フートや従者ザンドラ・フクリュウらも慌てつつも美術品などに気を付けつつ追いかけてきた。
女の前にたどり着いたルマ家騎士レネ・フートが苦笑しながら言う。
「お嬢様、お嬢様は時々突飛なことをするとジェシーに聞かされていましたが、本当のようですね」
その言に、エリージェ・ソードルは小首を捻る。
「どういうこと?
執務をするために執務室に入っただけじゃない?
そんなにおかしな事をしたかしら?」
「いや、こんな状態の執務室でする必要が無いというか……」
「確かにそうね、後で片づけさせましょう」
などと言いつつ、従者ザンドラ・フクリュウに執務に必要な物の用意をさせる。
ルマ家騎士レネ・フートとしては、雑多に物が置かれたこんな場所でわざわざする必要がないと言いたかったのだが、エリージェ・ソードルという女、執務室があるのだから執務はそこでやるものという変な固定概念を持っていた。
なので、どのように言ったら通じるのか、と頭を悩ませるルマ家騎士レネ・フートをそのままに執務を始めた。
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