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20話
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ちくちく……ちくちく……ふふ~ん♪
ちくちく……ただいま、忍び装束を作っています。
ケンゾーに黒、自分用に赤の忍び装束です。
自分用も黒にしようかと思ったのですが、某戦隊ヒーローを思い出してしまったのです。
『忍びなのに忍ばない』的なヒーローとくれば、赤でしょう。
小さな手で縫うのも、手慣れたものです。スムーズに縫うために、指貫まで自作しました。
靴を作るスキルがなくて……地下足袋を制作できない事が残念でなりません……はぁ……ふぅ~……。
なので、柔らかめの革のブーツで代用する事にしました。
「できました~♪」
出来上がった忍び装束を手に掲げ、銅像の様に待機しているケンゾーに披露します。
「……っ……おめでとうございます」
私が急に発した声に驚いたケンゾーは、ビクッてなった後、返事をしてくれました。
かなり長い時間、待機させていたから気が抜けてたのね。
「さささ。こっちがケンゾーの、くろのしのびしょうぞくで、こっちがわたくしの、あかいしのびしょうぞくなの。さっそくきてみましょう~」
「おじょうさま……私の分まで用意して下さったのですか?こうえいにございます……」
ケンゾーは忍び装束を手に取り、感動して打ち震えています……。
一緒に鍛錬をするのだから、お揃いにしたのだけれど……ここまで喜んでくれるのなら、作った甲斐があったというものね。
「ケンゾー、そんなにうれしい?」
「はい。おじょうさま自ら、ぬって下さったものですので、とてもうれしいです。ですが、これはどうやって着用するのでしょうか?」
とてもいい笑顔でお礼を言ってくれたケンゾーは、袴について質問してきました。
あちゃ~……本格的な衣装ではなく、簡易的に着用できる様にしたつもりだったけれど、袴の帯の結び方は難易度が高いままだったわ。
コスプレで忍び装束や、和服を着慣れてたから、うっかりしてた。
「ごめんなさい。もうすこしかんたんに、ちゃくようできるように、つくりなおすわ。すぐにできるから、まっててね」
袴の帯を切り、縫い直します。スエットパンツの様にして、後から帯をぐるりと巻く方が簡単ね。
自分用はこのままでいいわ。ちくちく。
フェオドールとダリウスの分も縫うつもりで生地を用意していたけれど、裁断する前で良かったわ。
ちなみに、フェオドールはグリーンで、ダリウスはブルーにしたの♪ちくちく。
戦隊ヒーローっぽくするのなら、ピンクも欲しい所ね……ピンク、ピンク……ジョゼは男の子だしねぇ、天使の様に愛らしいけれど、ピンクは……ないわ……。ちくちく、ちくちく……ジョゼはシルバーかしらね。ちくちく……ゴールドだと、派手すぎるものね。ちくちく……。ピンクを着れる女子……。
…………、ハッ!!女子がいないわっ!!
紅一点のピンクがいなければ、戦隊ヒーローを名乗れないじゃない!!いやいや、大々的に名乗るつもりはないけれど、心の中で名乗るくらいは、ねぇ?
う~ん、ダリウスもフェオドールも、ピンクが似合わなくはないけれど……きっと、嫌がられるわね。
ケンゾーは……「ぷっ、ふふふ♪」似合わなさすぎっ。黒が一番似合うわね。
「……。おじょうさま、心の声が、もれていらっしゃいますよ」
「へっ?…………どこから?」
「ジョゼぼっちゃまは『男の子だしねぇ』からです」
おっ、ケンゾーったら、声マネ上手ね。って、違うわ!
「かなりまえから、こころのこえがもれていたのね……」
「ええ、人の顔を見ながら、わらって『にあわなさすぎっ』って──」
「ごめんなさいっっ!!」
サーッと血の気が引く感じを久しぶりに味わいました。
以前、部屋の中でちゅ~どんっと、魔法を発動した時以来です。
「いえ、おじょうさまが、しゃざいされるひつようは、ございません。気にしておりませんので」
だったら、絶対零度の微笑みはやめてっ!!
口元は笑ってるのに、目が、目が、目が、こーわーいーーーー!!
「あのね、あのね。みんなでいろをかえて、おそろいにしたいのだけれど、ピンクをきてくれる、じょしがいないのにきがついたのよ。だれか、ピンクをきてくれそうなひとはいないかって、さがしていたら……ケンゾーは?ってイメージしちゃったのよ」
続けて、早口で言い訳します。口をはさむ余地を残してはならないのです。
「やはり、ケンゾーはくろがいちばん、にあうとあらためておもったわ。うん、くろがかっこいい」
両手に拳を作って、賛同を促します。
お願い、折れて……。
「はぁ。次回から、私を見て、ピンクの衣装を着用したすがたを、そうぞうしないと、約束していただけますか?」
よし!折れた!
ケンゾーの表情が柔らかくなりました。
「ええ。もちろんよ」
真摯な態度で、返事をするわ。
「おじょうさまのしゃざい、受け入れました。……それより、質問させていただいても、よろしいでしょうか?なぜ、おじょうさまが、ピンクを着用されないのですか?」
「ん?なぜって、リーダーは、あかってそうばがきまってるもの」
「おじょうさまが、リーダーなのですか?」
「いしょうにかんしては、つくったものに、けっていけんがあるものよ」
赤は絶対に譲らないわ。
「ピンク、とてもお似合いになると思うのですが……かれんで、おやさしいおじょうさまにぴったりだと、私は……プッ、クフフ」
「っっっ!!」
さっきの仕返しね!
もう、もう、もう!
自分のした事をやり返されただけだから、何も言えないじゃない!
思いっきりふくれっ面して、プイっとそっぽ向いてやる!
・
・
・
ケンゾーは、一頻り笑って満足したようです。
ふくれっ面も解除します。
「ケンゾー、もうおこってない?」
「はい。最初から、気にしておりませんよ」
「ひどいわっ!わたくしをもてあそんだのねっ!!」
「「ぷっ、クフフフフ、ハハハハ」」
2人で大笑いしました。
ケンゾーは2人っきりでいる時、仲の良い友達の様に接してくれるようになりました。
きっと、私の居心地が良い様にしてくれてるのだと思うのです。
ありがとう、ケンゾー。
◇ ◇ ◇
忍び装束に身を包み、訓練所にやって参りました。
剣術を指南して下さる方をお迎えするのです。
父様に打ち勝った訳ではありません。
剣聖並みの実力を誇る父様に勝てる訳がございません。
最近の父様は、執務が忙しく、剣術の鍛練をする時間がとれないのだそうです。
私の顔を見て、何か言いたげな表情をなさるのですが、何も仰らず、ハグした後、頬をスリスリして、城へ向かわれるのです。
ハグとスリスリに力がありません……。
何かあったのでしょうか?気になりますが、時期が来れば父様から、お話し下さるでしょう。
出会いは、第一印象が大事よね。
ピシッと立ち、師がいらっしゃるのを待ち構えています。
まだかしら、ワクワクするわね。
「いらっしゃったようです」
ケンゾーの声を聞き、振り返ります。
おおおおーーー!!ケンゾーにそっくり!
黒髪に黒い瞳、少し垂れた目もお爺様譲りなのね。
そうです。ケンゾーのお爺様が、本日より剣術の師匠なのです♪
お爺様と聞いていたから、もう少しご高齢かと思ったのだけれど、意外と若いわね。
50代前後って感じね。
「はじめまして、ルイーズ・ハウンドともうします。ほんじつより、けんじゅつのしなんをよろしくおねがいいたします」
「ケンゾー・シバの祖父『カツラ』と申します。本日より、お嬢様の剣術の指南を務めさせていただきます」
「ケンゾーともども、よろしくおねがいいたします。それと、ししょうとおよびしてもよろしいですか?」
「師匠、良い響きですね。こちらこそよろしくお願いいたします」
やはり、侯爵家だからかしら?口調が硬いわね。
「ししょう。けんじゅつのしなんのまえに、ひとつよろしいですか?ししょうとでしになるわけですし、ふだんおつかいになってらっしゃるくちょうで、ごしどうをおねがいします」
「普段から使っている口調ですか……」
師匠は、難しい顔をされています。
「ねえ、ケンゾー。ししょうのくちょうは、いつもかたいかんじなの?」
ケンゾーに小声で聞いてみました。
「いえ、もう少しらんぼうな、くちょうでございます。しかし、らんぼうなくちょうですと、こうしゃく家にたいして、問題があると考えているのではないでしょうか」
「このばは、ケンゾーとわたくししかいないし、べつにいいわよね?!」
「おじょうさまが、良いとおっしゃるのでしたら、かまわないと思います」
なら、問題ないわね。
「ししょう。このばは、ケンゾーとわたくしだけですし、ふだんのくちょうでおねがいします」
「よし、わかった。孫が世話になってるし、侯爵家には礼節を重んじたいんだが……確かに慣れない口調だと、鍛練に身がはいらんわな。けど、3人以外の誰かがいる時は、許してくれよ」
師匠はそう言うと、くちびるの端をにっと吊りあげました。
「「はい。よろしくおねがいします」」
「鍛練を始める前に、質問なんだが、その衣装はどこで買ったんだ?」
「わたくしが、ぬいましたけれど。ししょうにも、1ちゃくよういいたしましょうか?」
忍び装束が気に入ったのかしら?気に入ったのなら、師匠と弟子で、統一するのもいいわね。
「デザインはお嬢様が?」
「ルイーズと、およびください。わたくしなりに、かいりょうはしていますけれど、デザインはもともとあったものですわ。『しのびしょうぞく』といいますの」
自分がデザインしたなんて、嘘は言えないわ。
伝統ある『忍び装束』ですものね。
「うーん……」
師匠が唸っております。どうしたのかしら?
「ししょう?」
「ルイーズは『サクラ公国』に行った事あるわけないよな……」
「『サクラこうこく』は、ししょうやケンゾーのおかあさまのこきょうですわよね?まだ、いったことはございませんが、いつかいってみたいですわ~『みそ』や『しょうゆ』をつくっているくになんですもの……」
ケンゾーみたいな日本人顔な人が、たくさんいると思うの。想像でしかないけど……。
師匠、唸っている時間が長いわね。
「ねぇ、ケンゾー。ししょうはどうしたのかしら?」
「どうしたのでしょうか?そうぞうするに、この衣装を見てからというもの、ようすがおかしくなったと思われます。この衣装に、意味はあるのですか?」
忍び装束に意味っていってもねぇ、元来『忍者』って傭兵みたいなもので、主に敵情視察や密偵をしていたと聞いたわ。
動きやすさ?かしら……。
「いみっていっても、うごきやすさかしらね」
「たしかに、かんせつ部分などが、そがいされませんし、じゅうなんな動きが出来ますね」
「ね、ケンゾー。ケンゾーはししょうのことをなんてよんでいるの?」
「え?……じ、じっちゃん……と……」
なんで赤くなってるのっ!ケンゾーのこんな顔は初めて見たわ。レアよっ!
「ね。ししょうをよんでみてくれないかしら。まごに、こえをかけられたら、こたえるとおもうのよ」
「…………じ、じっちゃん」
「……」
可愛い孫に声をかけられても、師匠は唸っています。
ケンゾー、真っ赤になりながら頑張って声をかけてくれたのに。
こりゃあ駄目ね。
「ケンゾー、のどがかわいたわ。おちゃのじかんにしない?」
「はい。ご用意いたします」
訓練所にゴザのような物を敷き、お茶を飲みながら、師匠が帰ってくるのを待つことにします。
「はあ、おいしいわ。やっぱりきゅうすで、いれたおちゃは、かくべつよね」
隣国から取り寄せた緑茶です。
急須と湯呑は自作です。土魔法で作ったのですよ。少々無骨ですが、それも良い感じなのです。
しかし、出来ると思ってなかったのに、人間、物欲が絡むと、とんだ力を発揮するものです。
我が家の庭園で粘土質の土を見つけたのも、ラッキーだったわ。
お茶請けは、料理長が作った『栗きんとん』です。おせちに入ってるようなものでなく、蒸し栗を裏ごして、砂糖を加えたものを茶巾絞りにしたものです。
「りょくちゃのしぶみと、菓子の甘さがちょうどよくて、美味しいですね」
やっと、ケンゾーも気に入ってくれたみたいね。
以前、試しに飲ませていたら、渋さが口に合わなかったみたいで、評価はよくなかったものね。
気に入って貰えるよう、簡単な材料で作れるお茶請けを作ろうとして、調理場に突撃したら、ちょうど、料理長がモンブランを作ろうとして栗を蒸してたのよね。
で、栗があるなら栗きんとんを作ってとお願いして、出来上がったのがコチラ。
この世界、寒天とかもあるのかしら?あったら羊羹とかも作ってみたいわね。
また、料理長に聞いてみましょう。
「「ふぅー」」
ズズズ。
お茶をすする音だけが響きます。師匠はまだ帰ってきません。
あっ!じっちゃんって呼んで恥ずかしがったのは、愛称呼びみたいな感じだからかしら?!
それとも、甘えた感じが恥ずかしいのかしら?!
ともかく、師匠。帰ってきて、鍛練をお願いします。もうすぐ、日が暮れますよ……。
ちくちく……ただいま、忍び装束を作っています。
ケンゾーに黒、自分用に赤の忍び装束です。
自分用も黒にしようかと思ったのですが、某戦隊ヒーローを思い出してしまったのです。
『忍びなのに忍ばない』的なヒーローとくれば、赤でしょう。
小さな手で縫うのも、手慣れたものです。スムーズに縫うために、指貫まで自作しました。
靴を作るスキルがなくて……地下足袋を制作できない事が残念でなりません……はぁ……ふぅ~……。
なので、柔らかめの革のブーツで代用する事にしました。
「できました~♪」
出来上がった忍び装束を手に掲げ、銅像の様に待機しているケンゾーに披露します。
「……っ……おめでとうございます」
私が急に発した声に驚いたケンゾーは、ビクッてなった後、返事をしてくれました。
かなり長い時間、待機させていたから気が抜けてたのね。
「さささ。こっちがケンゾーの、くろのしのびしょうぞくで、こっちがわたくしの、あかいしのびしょうぞくなの。さっそくきてみましょう~」
「おじょうさま……私の分まで用意して下さったのですか?こうえいにございます……」
ケンゾーは忍び装束を手に取り、感動して打ち震えています……。
一緒に鍛錬をするのだから、お揃いにしたのだけれど……ここまで喜んでくれるのなら、作った甲斐があったというものね。
「ケンゾー、そんなにうれしい?」
「はい。おじょうさま自ら、ぬって下さったものですので、とてもうれしいです。ですが、これはどうやって着用するのでしょうか?」
とてもいい笑顔でお礼を言ってくれたケンゾーは、袴について質問してきました。
あちゃ~……本格的な衣装ではなく、簡易的に着用できる様にしたつもりだったけれど、袴の帯の結び方は難易度が高いままだったわ。
コスプレで忍び装束や、和服を着慣れてたから、うっかりしてた。
「ごめんなさい。もうすこしかんたんに、ちゃくようできるように、つくりなおすわ。すぐにできるから、まっててね」
袴の帯を切り、縫い直します。スエットパンツの様にして、後から帯をぐるりと巻く方が簡単ね。
自分用はこのままでいいわ。ちくちく。
フェオドールとダリウスの分も縫うつもりで生地を用意していたけれど、裁断する前で良かったわ。
ちなみに、フェオドールはグリーンで、ダリウスはブルーにしたの♪ちくちく。
戦隊ヒーローっぽくするのなら、ピンクも欲しい所ね……ピンク、ピンク……ジョゼは男の子だしねぇ、天使の様に愛らしいけれど、ピンクは……ないわ……。ちくちく、ちくちく……ジョゼはシルバーかしらね。ちくちく……ゴールドだと、派手すぎるものね。ちくちく……。ピンクを着れる女子……。
…………、ハッ!!女子がいないわっ!!
紅一点のピンクがいなければ、戦隊ヒーローを名乗れないじゃない!!いやいや、大々的に名乗るつもりはないけれど、心の中で名乗るくらいは、ねぇ?
う~ん、ダリウスもフェオドールも、ピンクが似合わなくはないけれど……きっと、嫌がられるわね。
ケンゾーは……「ぷっ、ふふふ♪」似合わなさすぎっ。黒が一番似合うわね。
「……。おじょうさま、心の声が、もれていらっしゃいますよ」
「へっ?…………どこから?」
「ジョゼぼっちゃまは『男の子だしねぇ』からです」
おっ、ケンゾーったら、声マネ上手ね。って、違うわ!
「かなりまえから、こころのこえがもれていたのね……」
「ええ、人の顔を見ながら、わらって『にあわなさすぎっ』って──」
「ごめんなさいっっ!!」
サーッと血の気が引く感じを久しぶりに味わいました。
以前、部屋の中でちゅ~どんっと、魔法を発動した時以来です。
「いえ、おじょうさまが、しゃざいされるひつようは、ございません。気にしておりませんので」
だったら、絶対零度の微笑みはやめてっ!!
口元は笑ってるのに、目が、目が、目が、こーわーいーーーー!!
「あのね、あのね。みんなでいろをかえて、おそろいにしたいのだけれど、ピンクをきてくれる、じょしがいないのにきがついたのよ。だれか、ピンクをきてくれそうなひとはいないかって、さがしていたら……ケンゾーは?ってイメージしちゃったのよ」
続けて、早口で言い訳します。口をはさむ余地を残してはならないのです。
「やはり、ケンゾーはくろがいちばん、にあうとあらためておもったわ。うん、くろがかっこいい」
両手に拳を作って、賛同を促します。
お願い、折れて……。
「はぁ。次回から、私を見て、ピンクの衣装を着用したすがたを、そうぞうしないと、約束していただけますか?」
よし!折れた!
ケンゾーの表情が柔らかくなりました。
「ええ。もちろんよ」
真摯な態度で、返事をするわ。
「おじょうさまのしゃざい、受け入れました。……それより、質問させていただいても、よろしいでしょうか?なぜ、おじょうさまが、ピンクを着用されないのですか?」
「ん?なぜって、リーダーは、あかってそうばがきまってるもの」
「おじょうさまが、リーダーなのですか?」
「いしょうにかんしては、つくったものに、けっていけんがあるものよ」
赤は絶対に譲らないわ。
「ピンク、とてもお似合いになると思うのですが……かれんで、おやさしいおじょうさまにぴったりだと、私は……プッ、クフフ」
「っっっ!!」
さっきの仕返しね!
もう、もう、もう!
自分のした事をやり返されただけだから、何も言えないじゃない!
思いっきりふくれっ面して、プイっとそっぽ向いてやる!
・
・
・
ケンゾーは、一頻り笑って満足したようです。
ふくれっ面も解除します。
「ケンゾー、もうおこってない?」
「はい。最初から、気にしておりませんよ」
「ひどいわっ!わたくしをもてあそんだのねっ!!」
「「ぷっ、クフフフフ、ハハハハ」」
2人で大笑いしました。
ケンゾーは2人っきりでいる時、仲の良い友達の様に接してくれるようになりました。
きっと、私の居心地が良い様にしてくれてるのだと思うのです。
ありがとう、ケンゾー。
◇ ◇ ◇
忍び装束に身を包み、訓練所にやって参りました。
剣術を指南して下さる方をお迎えするのです。
父様に打ち勝った訳ではありません。
剣聖並みの実力を誇る父様に勝てる訳がございません。
最近の父様は、執務が忙しく、剣術の鍛練をする時間がとれないのだそうです。
私の顔を見て、何か言いたげな表情をなさるのですが、何も仰らず、ハグした後、頬をスリスリして、城へ向かわれるのです。
ハグとスリスリに力がありません……。
何かあったのでしょうか?気になりますが、時期が来れば父様から、お話し下さるでしょう。
出会いは、第一印象が大事よね。
ピシッと立ち、師がいらっしゃるのを待ち構えています。
まだかしら、ワクワクするわね。
「いらっしゃったようです」
ケンゾーの声を聞き、振り返ります。
おおおおーーー!!ケンゾーにそっくり!
黒髪に黒い瞳、少し垂れた目もお爺様譲りなのね。
そうです。ケンゾーのお爺様が、本日より剣術の師匠なのです♪
お爺様と聞いていたから、もう少しご高齢かと思ったのだけれど、意外と若いわね。
50代前後って感じね。
「はじめまして、ルイーズ・ハウンドともうします。ほんじつより、けんじゅつのしなんをよろしくおねがいいたします」
「ケンゾー・シバの祖父『カツラ』と申します。本日より、お嬢様の剣術の指南を務めさせていただきます」
「ケンゾーともども、よろしくおねがいいたします。それと、ししょうとおよびしてもよろしいですか?」
「師匠、良い響きですね。こちらこそよろしくお願いいたします」
やはり、侯爵家だからかしら?口調が硬いわね。
「ししょう。けんじゅつのしなんのまえに、ひとつよろしいですか?ししょうとでしになるわけですし、ふだんおつかいになってらっしゃるくちょうで、ごしどうをおねがいします」
「普段から使っている口調ですか……」
師匠は、難しい顔をされています。
「ねえ、ケンゾー。ししょうのくちょうは、いつもかたいかんじなの?」
ケンゾーに小声で聞いてみました。
「いえ、もう少しらんぼうな、くちょうでございます。しかし、らんぼうなくちょうですと、こうしゃく家にたいして、問題があると考えているのではないでしょうか」
「このばは、ケンゾーとわたくししかいないし、べつにいいわよね?!」
「おじょうさまが、良いとおっしゃるのでしたら、かまわないと思います」
なら、問題ないわね。
「ししょう。このばは、ケンゾーとわたくしだけですし、ふだんのくちょうでおねがいします」
「よし、わかった。孫が世話になってるし、侯爵家には礼節を重んじたいんだが……確かに慣れない口調だと、鍛練に身がはいらんわな。けど、3人以外の誰かがいる時は、許してくれよ」
師匠はそう言うと、くちびるの端をにっと吊りあげました。
「「はい。よろしくおねがいします」」
「鍛練を始める前に、質問なんだが、その衣装はどこで買ったんだ?」
「わたくしが、ぬいましたけれど。ししょうにも、1ちゃくよういいたしましょうか?」
忍び装束が気に入ったのかしら?気に入ったのなら、師匠と弟子で、統一するのもいいわね。
「デザインはお嬢様が?」
「ルイーズと、およびください。わたくしなりに、かいりょうはしていますけれど、デザインはもともとあったものですわ。『しのびしょうぞく』といいますの」
自分がデザインしたなんて、嘘は言えないわ。
伝統ある『忍び装束』ですものね。
「うーん……」
師匠が唸っております。どうしたのかしら?
「ししょう?」
「ルイーズは『サクラ公国』に行った事あるわけないよな……」
「『サクラこうこく』は、ししょうやケンゾーのおかあさまのこきょうですわよね?まだ、いったことはございませんが、いつかいってみたいですわ~『みそ』や『しょうゆ』をつくっているくになんですもの……」
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「ねぇ、ケンゾー。ししょうはどうしたのかしら?」
「どうしたのでしょうか?そうぞうするに、この衣装を見てからというもの、ようすがおかしくなったと思われます。この衣装に、意味はあるのですか?」
忍び装束に意味っていってもねぇ、元来『忍者』って傭兵みたいなもので、主に敵情視察や密偵をしていたと聞いたわ。
動きやすさ?かしら……。
「いみっていっても、うごきやすさかしらね」
「たしかに、かんせつ部分などが、そがいされませんし、じゅうなんな動きが出来ますね」
「ね、ケンゾー。ケンゾーはししょうのことをなんてよんでいるの?」
「え?……じ、じっちゃん……と……」
なんで赤くなってるのっ!ケンゾーのこんな顔は初めて見たわ。レアよっ!
「ね。ししょうをよんでみてくれないかしら。まごに、こえをかけられたら、こたえるとおもうのよ」
「…………じ、じっちゃん」
「……」
可愛い孫に声をかけられても、師匠は唸っています。
ケンゾー、真っ赤になりながら頑張って声をかけてくれたのに。
こりゃあ駄目ね。
「ケンゾー、のどがかわいたわ。おちゃのじかんにしない?」
「はい。ご用意いたします」
訓練所にゴザのような物を敷き、お茶を飲みながら、師匠が帰ってくるのを待つことにします。
「はあ、おいしいわ。やっぱりきゅうすで、いれたおちゃは、かくべつよね」
隣国から取り寄せた緑茶です。
急須と湯呑は自作です。土魔法で作ったのですよ。少々無骨ですが、それも良い感じなのです。
しかし、出来ると思ってなかったのに、人間、物欲が絡むと、とんだ力を発揮するものです。
我が家の庭園で粘土質の土を見つけたのも、ラッキーだったわ。
お茶請けは、料理長が作った『栗きんとん』です。おせちに入ってるようなものでなく、蒸し栗を裏ごして、砂糖を加えたものを茶巾絞りにしたものです。
「りょくちゃのしぶみと、菓子の甘さがちょうどよくて、美味しいですね」
やっと、ケンゾーも気に入ってくれたみたいね。
以前、試しに飲ませていたら、渋さが口に合わなかったみたいで、評価はよくなかったものね。
気に入って貰えるよう、簡単な材料で作れるお茶請けを作ろうとして、調理場に突撃したら、ちょうど、料理長がモンブランを作ろうとして栗を蒸してたのよね。
で、栗があるなら栗きんとんを作ってとお願いして、出来上がったのがコチラ。
この世界、寒天とかもあるのかしら?あったら羊羹とかも作ってみたいわね。
また、料理長に聞いてみましょう。
「「ふぅー」」
ズズズ。
お茶をすする音だけが響きます。師匠はまだ帰ってきません。
あっ!じっちゃんって呼んで恥ずかしがったのは、愛称呼びみたいな感じだからかしら?!
それとも、甘えた感じが恥ずかしいのかしら?!
ともかく、師匠。帰ってきて、鍛練をお願いします。もうすぐ、日が暮れますよ……。
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