楽しい転生

ぱにこ

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76話

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「ちょっと、宜しいかしら? 」

 私は視線を向けてくる子供達に、声を掛け近付きます。
 すると、子供達の片割れが慌てふためいた末に、キッとこちらを睨んで参りました。
 瞬間、瞳が妖しく光ります。
 この子、オッドアイです。めちゃくちゃ綺麗です。
 さらに、光るとか素敵過ぎます。
 私の奥底に沈んだ中二心が刺激され、起きてしまいました。

 私は立ち止まり、思考致します。
 ふふ、そうね。

『もう、後戻りは出来ぬぞ。貴様は我が左目に封印されし邪眼を呼び覚ましてしまったのだからな』
 とか?
『我が魔眼に射貫かれし者は焼けつくような痛みに苦しみ悶え、九日の後に絶命する━━たとえ亡者であろうとな』 

 ふふ、ざっとこんなものよ。
 衰え知らずな中二心を解放し、満足した私は、子供達の元へと向かいます。
 私が近付くにつれ、子供達は苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべ、コソコソと内緒話を始めました。
 そして、脱兎の如く逃走━━。
 ちょっ!

「まっ、待ちなさいっ! 」

 木々や民家の隙間を器用に潜り抜け、逃げる子供達。
 チラチラと後ろを振り返りつつ、こちらの様子を窺っております。
 もしかして、追いかけてきて欲しいのでしょうか?

 ならば、その願い叶えましょう。

「ふふふ、私から逃げ果せると思っているのかしら? 」

 私は追いかけつつ、悪役っぽい台詞を吐きます。
 これは、お休みの度にジョゼやぴよたろうと鬼ごっこしている私の定番文句となっております。
 我が家の天使達は、この台詞を聞くだけでテンションマックスとなり、きゃっきゃ、うふふとなるのです。

「ほらほら、捕まえちゃうわよ~オホホホ━━」

 …………うん?
子供達の表情がどんどん険しくなってきております……。
 ……。
 鬼ごっこで間違いありませんわよね?
 素に戻り、考え込んでいると。

「ちっ、きさまになどつかまってたまるかっ! 」

 子供の片割れがそう叫びながら、下に落ちている何かを掴んで私に投げつけて参りました。
 私はサッと避けつつ、飛んで行く物体を目で追います。
 …………貝? 
 どうやら、貝の様です。
 食べ物なら回収しなくてはなりません。
 私は手に取り、観察してみる事に致しました。

 つるんとした川の石っぽい色合いで、どんぐりを巨大化させたみたいな形状。
 下から覗くと、巻貝特有の蓋がある。
 十中八九、巻貝で間違いなさそうです……。
 そう結論付け指で突いていると、蓋が開き、ひょっこり顔と手足が飛び出し━━。

 っ! うぉっ!

 びっ、ビックリした。
 ヤドカリの一種だったのかっ。
 ……考えてみれば、そうよね。
 巻貝が海から離れた場所に落ちている訳ありませんし。
 ヤドカリの可能性の方が高かったわ。テヘ。

 しかし、これって食べられるのかしら?
 巻貝だったらBBQの網で焼いて、お醤油をタラリとかけてってところだけれど……。
 ヤドカリ系の調理方法はわかりません……。
 前世でヤドカリを食べた事がないもの……。

 漁業で生計を立てていらっしゃる村長や村の皆様はご存知かなぁ? 
 石ころみたいに、ゴロゴロ落ちているくらいだもの、珍しい物のはずはないわ。
 うん、後でお伺いしてみましょう。

「こらっ! 物を投げないのっ! 当たらないけど、当たったら怪我をするでしょうっ! 」 

 考え事が一段落した私は、思い出したように子供達を叱りつけました。 
 私の身体能力を持ってすれば、避けるのも無力化するのも容易い。
 現に、考え事をしている間も貝の攻撃は続いており、それらは全て防御結界により弾かれていたんですもの。
 とはいえ、怪我をさせる気で投げたのは明確であり。
 悪戯で済ませるには、度が過ぎています。
 私は、何投目かを投げようとした子供の前に躍り出て、右手首を軽く締め上げました。
 痛くない程度にね。

「あっ……」

 子供はポロっと落ちた貝を見遣った後、私を睨みつけてきます。

「睨まないのっ」

 目線を合わせ、メッと叱りつけると。

「うるさいっ! わたしをだれだとおもっているのだっ」

「えっと、確か……ダミアンくんとアガーテちゃんでしょう? 」

 男の子と女の子で身長差は多少あれど、面立ちはそっくり。
 なら、魔国の双子ちゃんで間違いない。

「ダミアンくん? ……くん? 」
「ちゃん? ……」

 ん? 敬称が気に入らない?
 一応、魔国の王子と王女だし『様』と付けた方がいいのかしら? と思うも。
 先ほど繰り広げられた逃亡劇を思い返すと、敬う気持ちが薄れてしまう私なのです。
 食べ物━━貝を投げたのはよくない。

「それで、睨んだり、逃げたり、貝を投げつけたりした理由を聞かせてもらっても宜しいかしら? 」

 闇落ちしかけていた父様の事もあり、双子ちゃんとの顔合わせは夜に予定していた。
 先に海の食材を調達し、海鮮BBQでもしながら、仲良くなれればなと考えていた所だったのです。

「あなたさえこなければ……」

 フルフルと震えながら、アガーテちゃんが呟く。

「私さえ来なければ? 」

「ナギさまのおそばで、すごせたのよっ! 」

 激高し、そう言い放つアガーテちゃん。
 ナギ様のお傍で過ごせたってどういう意味??

「全く、意味が分からないから、もう少し噛み砕いて説明してくれないかしら? 」

 私がそう告げると、アガーテちゃんとダミアンくんは腕を組み、斜め45度、135度に体を向け、こちらを睨みつけた。
 おっ、さすが双子! 合わせ鏡の様に、ポージングしているわ。

「わがまぞくのすうこうなるかみ! じゃしんさまをみにやどしたおかた『ナギさま』のおそばをはなれることが、われらにとってだれだけくつうとなるのか、そなたはしらぬのかっ」

「そうですわっ! ナギさまをたぶらかしたインキュバスがごときしょぎょう、ゆるずまじですわっ」

 舌足らずな話し方が愛らしいわね。
 傲慢な口調も、背伸びした感じがして可愛いわ。

「なにを、にやついておるのだっ! ふけいではないかっ」

「ダミアン。わたしたちのちゅうせいをじゃしんさまにしめすためにも、ここはうってでましょうよっ」

 はいはい、打って出るのね。
 勝気な感じもいいわね。
 戦隊ヒーローごっこをした時の子供達を思い出してしまう。
 幼いながらも、ヒーローになりきってキリリと眉根を上げた姿は今でも脳裏に焼き付いており、大切な思い出なのです。
 うふ、私の愛しい子供達は地球で元気にしているのかしら……。

「……さて。魔族にとって、邪神は崇め奉る神なのは、知っています。で、欠片と残留を残したナギを心酔する気持ちも分からなくはない。ですが━━」

 私は子供達に耳打ちした。

「なっ! 」
「えっ! 」

 驚愕に彩られる子供達。

「で、では、ナギさまのなかにじゃしんさまはいない? 」

 そう問いかけてくるダミアンくんを見つめて、私は頷いた。

「いないわ。力の一部は残ったようだけれどね」

 欠片から新たな邪神が現れる可能性はあるものの。
 世を、人を、心の底から憎いと思わない限り発現される事はない。
 今のナギにその心配は皆無。
 大好きなサクラおばあ様がずっとお傍にいらっしゃるのですもの。

「では、ナギさまのおそばですごすだけで、ちからがわいてでていたのは、ちからのいちぶのせいなのですか? 」

 アガーテちゃんが問いかけてくる。

「ハッキリした事は言えないけれど、たぶんそうね」

「では、なぜ、あなた……しつれい、なをうかがっておりませんでしたわ。さきほどのひれい、たいへんもうしわけございません。おゆるしいただけるのなら、なをおしえていただけますでしょうか? 」

 急にしおらしくなったアガーテちゃん……。
 惜しい。さっきの口調、気に入ってたのにな。

「私、アベル・ハウンドが長子、ルイーズ・ハウンドと申します。どうぞ、よろしくお願いいたしますね」

 要望に応え私が名乗ると、アガーテちゃんとダミアンくんは互いに目配せをし、こちらに向き直りました。

「ルイーズさまともうされるのですね。わたし、まこくのおうじょ、『アガーテ・バベル』ともうします。どうぞ、よろしくおねがいもうしあげます」

 アガーテちゃんに続き、ダミアンくんが口を開きます。

「わたしは、まこくのおうじであり、じだいまおう『ダミアン・バベル』である。まぞくは、ちからこそすべてであり、ちからあるものに、けいいをはらうのがおきて。ゆえに、まおうのけつぞくであるわたしのほうがえらい。なぜならそなたはみたところじゅうをかぞえるほどであろうが、わたしはまだ5つだからだ! 」

 ダミアンくんは右手を広げ、5歳を主張しております。
 ヤバいっ。
 なんて愛らしい生き物なのっ。

「つつしみなさい、ダミアンっ! つよきものにけいいをはらうのがまぞくなのよ。ルイーズさまとのちからのさがわからないの?! 」

「ふん。アガーテこそ、なにをいっているのだ。わたしにまがんがはつげんすれば、ちからのさはれきぜんだろう」

「たとえそうだとしても、いまはルイーズさまのほうがおつよいのっ」

 姉弟喧嘩が勃発しております。
 ええ、私は愛らしい子達をニヤニヤと眺めて続けておりますよ。
 あ、ダミアンくんもアガーテちゃんも私の視線に気が付きましたわ。

「みーるーなーっ」

 顔を真っ赤にして、ダミアンくんが言い放ちます。

「ダミアンっ! 」

 アガーテちゃんが窘める様に叫びます。

「いいのよ、アガーテちゃん」
「しかし、ルイーズさま……」
「本当に、いいのよ。あのままのダミアンくんが気に入っているの」
「ルイーズさま……」

 アガーテちゃんは不思議そうな顔を向けてくる。
 ダミアンくんは私から、距離を取った。
 そして、

「いまにみておれっ。そなたなど、ひとひねりにしてくれるからなーっ」

 と捨て台詞を吐きながら、逃げて行ってしまいました。

「…………ねぇ、アガーテちゃん。ダミアンくん、行っちゃったよ。追いかけなくて大丈夫? 」
「うちのほうにむかって、かけていきましたから、もんだいありませんわ」
「お家に帰ったのね? 」
「はい」
「それじゃあ。私達も戻るとしましょうか」

 私が手を差し出すと、戸惑いながらもアガーテちゃんの手が乗せられた。

「ところで、アガーテちゃん」
「はい、なんでしょうか? 」
「ルイーズ『様』って敬称付けて呼ばれるより、『お姉様』とか『姉様』って呼ばれる方が嬉しいのだけど。駄目? 」 

 『様』付けだと距離を感じるのに、『お姉様』だと身近に感じる。
 なので、提案してみました。

「はい、ルイーズおねえさまっ」

 アガーテちゃんが顔を綻ばせ、早速『お姉様』と呼んでくれました。
 笑うと益々愛らしいわね。

「ところで。ナギさまの、みにやどっていらしたじゃしんさまは、どうされたのですか? 」

 ヤドカリを回収しながら歩いていると、ふいにアガーテちゃんが質問して参りました。
 う~ん、どう答えていいのやらね。

「ごめんなさいね。邪神についての質問は、国の許可なく答える訳にはいかないのよ。ナギの事に関しても本来、教えていいものじゃなかったの」

「それはわたしたちが、まぞくだからですか? 」

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。それはね、魔族が邪神の力を得て、何をするかって事が重要なの。現に5年前、魔族は邪神を復活させんが為に、獣人国を襲ったでしょう? 」

 私が5年前の出来事を告げると、アガーテちゃんは項垂れてしまいました。

「はなしには、きいております。わたしたちがうまれるまえ、とうじのまおう、ちちうえがじゃしんをふっかつさせんがために、じゅうじんこくをおそったのだと……ですが、じゃしんはひとぞくのすまうたいりくで、すでにふっかつして……あ、それがナギさまだったのですね」

「ええ。……で、どうするの? 」

「わたしたちが、じゃしんのちからをえて、なにをなすかということですね……わたしは、わたしたちをうけいれてくれたひとぞくがすきです。このむらのかたがたがだいすきです。ですが……まこくにもどり、とらえられた『カミラ』さまをおすくいするためにも、ちちうえやははうえのかたきをうつためにも、じゃしんさまのちからをえなければ、ならないのです」

 復讐と『カミラ様』と仰る方の救出が目的で、邪神復活を望む……か。
 でも、私の中に宿るコレは、食っちゃ寝するだけの自堕落な生活を満喫して、復活する気無さそうなんだよね……。
 この事実、話していいものなのでしょうか?
 きっと、駄目よね。
 一応、トップシークレット扱いになっておりますし。

「邪神の力を借りなくても、鍛えれば強くなれるわよ」

「たんれんだけで、つよくなれるのですか? 」

「もちろんよ。ほら、見てみなさい」

 話しながら歩いていると、いつの間にか、海岸に辿り着いておりました。
 しかも、タイミングが良い事に、父様が海から魔物を引き上げてきたところだったのです。
 でかぁ……。
 遠目でクジラ系の魔物かと思っておりましたが、これはドラゴン系でしょうか?

「っ!! これはっ、わたしたちのふねをおそった、こたいより、すうばいおおきい『かいりゅう』ではありませんか! 」

「海竜って言うの? 」

「はい」

 やっぱり、ドラゴン系なのね。

「ルイーズおねえさま。これは、だれがたおしたものなのですか? 」

 海竜に近付き、キラキラしたおめめで問いかけてくるアガーテちゃん。

「……私の父様が剣圧だけで倒したのよ」

 頬をポリポリっと掻きながら、答えると。

「ルイーズおねえさまも、あのおおきさの『かいりゅう』をたおせますか? 」

 更に瞳を輝かせ、問うてまいりました。

「……う~ん? どうでしょう? 時間はかかるだろうけど倒せるかな? でも、食べない生き物に関しては殺生はしない事にしているの」

 命を奪ったのなら、美味しく食べて糧にしたいものね。
 もちろん、襲って来る魔物は別よ。

「かいりゅうはとてもびみとききましたわ」
「そうなのっ?! 」
「はい。ちょうりにじかんはかかりますが、いちどたべたら、やみつきになるそうです」

 病みつきになる味! 
 そう聞いては、ジッとしていられずはずもなく。

「アガーテちゃん! 海竜を捌きに参りましょう」

 戸惑い叫ぶ、アガーテちゃんの手を引き、海竜の━━父様の元へと向かう私なのでございました。


 ・
 ・
 ・


 ルイーズです。
 ただいま、海中を探索しております。
 空気はありません。息を止めて潜っております。
 最長、1分といったところでしょうか。
 もっと長く息を止めていられるかと思っておりました。
 もしくは、魔法を行使し、海中散歩も可能なのでは? とも想像しておりました。
 ですが、叶いませんでした。
 体全体を覆う結界を張り、海にドボンと入れば、海面を漂うビーチボールが如くなってしまい失敗。
 体全体を止め、頭だけにしてみれば━━浮標、もしくは釣り糸にくっ付いているウキ。
 時々、魚が足を突いていたので、私は餌として認識されていたのかも知れません。
 重みがないから浮くんだと思い、足に石を括り付けもしてみました。
 割と大きな石だったので、岩といっても差し支えないでしょう。
 結果、沈みました。沈み、歩けはしたのです。
 けれど、石━━岩を引きずりながら、海底を歩くだけとなってしまい、魚を追うのもままなりませんでした。
 私は諦めました。
 先人の知恵ではございますが、海女のように普通に潜り探索するのが最良と判断したのでございます……。

「ぷはぁーーーっ! 獲りましたわっ! 」

 何か良く分からないお魚ゲット致しました。
 凶悪な面構えをしております。体は『ウツボ』っぽく、顔は……深海に棲む『スケールワーム』といった感じです。
 全く、美味しそうではありませんが、これが美味しいのだそうです。
 村人さんにお聞きしたのですから、間違いありません。
 …………。
 とりあえず、アイテムバッグにしまい込みました。
 そうそう、この旅をきっかけに取り外し可能なポケット型アイテムバッグを作成いたしましたのよ。
 制服を洗う度、カンフー道着を洗う度に中の物を移動させていた苦労がバカバカしくなるくらい便利です。
 気付かなかった自分を責めてしまうくらいね……。
 ちなみに、アイテムバッグは口を開かない限り、中身が分散したり何かを吸い込んだりしませんのよ。
 水中でも安心安全設計となっておりますわ。

 さて。
 なかなかの成果を上げましたし、そろそろ皆と浅い場所で水遊びでもしましょうか。

「ルイーズ! もう、いいの? 」

 海をのんびり漂っていたフェオドールが、手を振っております。

「ええ。大漁ですわ」

 私は水面を歩きながら、返事を致しました。

「へぇ、見せて見せて」

 声を聞きつけた仲間達もぞろぞろと集まって参りました。
 浮き輪を付けたララとカリーヌは必死に足をバタつかせてこちらに向かって来ております。

「ここでは出せないわよ。陸に上がったら成果を見せるわね」
「ええ~っ。見せて、見せてよ~」

 フェオドールは駄々を捏ねて始めました。
 海面を叩き、バシャバシャと水飛沫を撒き上げております。
 もう、おもちゃを強請る子供みたいなんだから。

「フェオドール、無理を言ってはいけません。ルイーズが獲った魚ですよ」

 何処か呆れた様な声でダリウスが言いました。
 コテンと首を傾げ、フェオドールが聞き返します。

「ダリウス、どういう意味? 」
「海上で取り出すには些か問題がある獲物ばかりなのでしょう? ですよね、ルイーズ? 」

 ? 
 問題があるものなんて獲った覚えないのだけれどな……。 

「ダリウス、わからないわ。私、美味しいと言われた物しか獲っていないもの」

 記憶にないと告げると、ダリウスはイヤイヤと手を振り、
「ルイーズが、問題のない行動で漁を終えるなんてありえません。本当は、ドラゴンの1体や2体は捕獲したのでしょう? 」

「ぷっ、ぷぷぅーーーーっ! アハハハハ━━━━」

 ナギが吹き出しました。大爆笑の様です。
 お腹を抱え、足をバタつかせて笑い転げております。
 しかも、バタつかせている足のせいで、ドンドン距離が離れて行ってもおります。
 ナギ。あんまり遠くに行かないで、戻ってらっしゃいね……。

「もう、ダリウスったら。私は父様じゃないのだから、おもむろにドラゴンを獲ってきたりしないわよ。獲ったのは漁師さんに教えていただいたお魚や海藻、甲殻類だけよ」

「本当ですか~? 」

 なんなの?! その疑心に満ちた目はっ。
 しかも、眼鏡も掛けていないのに、手をクイッとしていますわ。

「本当よ! 海鮮BBQの為に、私頑張りましたのよっ」

 私は抗議いたしました。

「ねぇ、ねぇったら」

 フェオドールは尚も駄々を捏ねているようです。

「ルイーズが問題を起こさないなんて、これは天変地異の前触れ……このまま、海に居ては危ない……」

 ダリウスは訳の分からない事を呟いております。

「ねぇってば! ルイーズ! ダリウス! 危な━━━━」

 フェオドールがそう叫んだ瞬間。
 世界が暗転したのでございます…………。
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